大学生の主人公、「俺」こと久慈には金曜の夜九時過ぎにコンビニの喫煙所で必ず顔を合わせる先輩がいる。
先輩の名は国島。彼はある春の夜、久慈にこう持ちかける。
── 煙草一本くれよ。そしたら、面白い話してやるから
彼の提案を最初は胡散臭く感じていた久慈だが、やがて「煙草一本分」の彼の話が少し楽しみになっていく。まるで喫煙家による千夜一夜物語だが、この物語には残虐な王も、彼と床を共にして物語を語る姉妹もいない。
この物語を形作るのは、アロハを着用し、怪しげなバイトに精を出しては奇譚を集め、後輩から煙草を毟りとる(この表現が好きです)胡乱な先輩と、面白そうな話には人並みに興味を覚える下世話さを持ちつつ、一歩踏み込むには慎重になってしまう、(自称)臆病で自己認識に優れた後輩の二人である。
語られる話が奇妙で面白いことはさることながら、その合間に煙と共に挟まれる遠慮のない二人の掛け合いも癖になります。
原因がしっかり解明されず、仄暗い雰囲気を纏ったままで曖昧に終わるのがまた、怪談特有の余韻となって惹きつけられていくのも良い。
最新話では国島先輩の過去も少し語られ、今後彼ら自身にも焦点が当たっていくのだとすれば、それもまた楽しみではあります。
短編でさっくり読めるのも魅力的なので、物語と同じ、この生ぬるい季節の夜のお供にいかがでしょうか。