10 猫モモの見立て

 パーティーが終わった。


 翌日、平常通り私はモモとしては王様に会いに行った。

 宰相が今日の予定を話して、しばらくした後、本題に入る。


「それでモモ、パーティーはどうだったかな」

「はい。怪しい貴族がいました」

「そうかそうか。それで楽しかったかい?」

「え、はい。ちょっと緊張したけど貴族たちが見れてですよ」

「そうか」

「それで、ライドベルド侯爵、ミエルガッド子爵なんかが特に挙動不審に見えましたね」

「ふむ。そいつらなら普段からあまりいい顔をしていないが……」

「謀反ではないのでしょうが、派閥が違うとかでしょうか」

「それもあるが、それなら三分の一は王家派ではないだろう」

「なるほど」


 ふたりで首をひねる。


「そういえばこの前の、バンレドリル男爵でしたっけ」

「あぁなるほど、ライドベルド侯爵、ミエルガッド子爵ともにバンレドリル男爵とは近い立ち位置だな、なるほど?」

「えへへん」


 私はない胸をはる。お手柄だ。

 一本、線がつながった。ここには何かあると二人とも感づいた。


「よし、いい子いい子。小さいのに賢い。さらにかわいい」


 膝に乗って頭をいっぱい撫でてもらう。

 なでなでなで。

 あぁ王様、無邪気に撫でていると思ってたけど、さっきの貴族のこと怒ってるんだ。

 それで私を撫でて怒りを抑えてるんだ。

 私の前ではいつもニコニコおじさんだけど、一国の王。

 本当は怖い顔もするんだ。


「えっと、ライドベルド侯爵、ミエルガッド子爵か」

「ええ」

「しかし証拠もなければ、直接的な問題行為もないのだな」

「そうですね。態度が悪かっただけです。パーティーで」

「ふむ」

「さすがに不敬罪とかないですよね」

「ないな。王主催のパーティーで不機嫌だったとか、失笑ものではあるが、不敬罪ほどではない」

「ですよね」


 まあそうだろう。そんな簡単に不敬罪になったら困る。

 不敬罪はほとんど打ち首だと聞いている。

 しかも本人だけならいいが、周りの妻子なども連座だ。

 なので、とても怖い罪だった。


 桃娘の私もちょっと不敬罪だけは勘弁願いたい。

 自分の発言だけが証拠で一族郎党全員処刑とか、もうひとりで眠れなくなっちゃうよ。


「モモでも食べるか」

「あ、はい。ありがとうございます」

「よいよい」


 チリンチリン。呼び鈴を鳴らす。

 すぐにメイドさんが入ってきて御用聞きをするので「おやつのモモを」と王様が言った。

 自分も食べる気のようだ。


「お待ちしました」

「そこへ置いてくれ」

「はい」


 メイドさんから桃を受け取る。


「どれ、うむ……うまいな」

「はい」


 ふたりで桃を食べた。

 私はこればかりだから美味しいとは思うけど、これといって特別な感情まではない。


「ワシも毎日桃だけ食べたら、モモのような匂いになるかな?」

「やめてくださいよ」

「冗談だ、わはっははは」


 冗談に聞こえないんだよ。頼むよ王様。


「そうですね。帳簿の確認をさせましょう」

「そうだな。この前もやった」

「はい」


 ということで、ライドベルド侯爵、ミエルガッド子爵には各種帳簿のあらためをすることになった。

 場合によっては尻尾を掴めるかもしれない。

 ただし男爵ほど小物ではない。裏帳簿と表帳簿の二重帳簿になっていて、裏帳簿を隠し通す可能性もある。


「まあ見つからなかったら、そのときはしょうがないな」

「そうですか」

「どうせまた動くだろう。その時に捕まえればいい」

「なるほど」

「モモよ。功を急ぎ過ぎると足をすくわれるのだ」

「そうですね。じっくり責めましょう」

「そうだ。モモは分かっているから助かる」


 家臣の中には問題があると報告すると激怒して話も碌に聞かないですぐ行動しようとする人もいる。

 確かに「すぐ動く」というのはある意味では美徳だ。

 しかし慎重さが足りない人がいる。

 結果として失敗したり、騒いだせいで敵に察知されて逃げられたりする。

 よくある話だ。

 モモだって時代劇くらい前世で見た。


 王様は博識だ。

 この王あってこの国あり、まさに王様にふさわしいように見える。

 ただ完璧主義的でもあった。

 それからじわじわ責めるタイプだ。

 敵からしたらできれば相手にしたくないだろう。非常にやりにくいだろうな。


 そしてまさか猫のモモがその政治に口を出しているなんて思わないだろう。


「それじゃ行っておいで」

「にゃうぅぅ」


 私は執務室から出ていく。

 あちこちと挨拶をして顔を出す。

 もちろん挨拶も「にゃんにゃん」と言うだけだ。


 これ非常に便利で相手の話をちゃんと聞かなくてもいいときは相槌だけ打っていればいい。

 その間に周囲を観察する。すると見えてくるものもある。

 パーティー中も王家の人たちが挨拶に忙殺されている間に私は生返事をしながら会場中を眺めて怪しい人はいないかチェックしたんだから。

 それがこうして報告され、次へつながっていく。


 ――猫は悪を見ている。


 真実の猫の目。ただの伝説なのに実は昔にも私のような猫ペットがいたのかもしれない。

 その実態は、王の目であり耳であり、間諜であった。


 また王様の元へ戻ってきて髪を撫でてもらう。

 王様に毎日髪をとかしてもらっているので、さらさらだった。


 私こと猫のモモは桃娘だけど、今日もこうして王宮で一生懸命、食べられちゃわないように働いています。

 どうか食べないでください。

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桃娘転生 ~桃だけ食べさせられて最後は食肉にされる運命の"桃娘"に転生したけど内政に口出ししていたら聖女にランクアップしました。これで食べられちゃわずに済みます~ 滝川 海老郎 @syuribox

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