第11話 サダミツとトキヒコ、「連星コンビ」と名乗る
西暦2154年7月1日。太陽系警備隊の創立記念日に合わせ、火星基地にシャトルが到着する。中からサダミツ・キョウゴクが降り立つと、トキヒコ・トリイが駆け寄ってきた。
「せ・ん・ぱ・い! お久しぶりです!」
「何が『お久しぶり』だ。2週間しか経ってないだろ」
サダミツは笑顔でトキヒコの肩を叩く。
「『タイタン』での定例パトロールもバッチリです。いつでも船長を替われますよ」
胸を張るトキヒコを見てサダミツは表情を引き締めた。
「いや、船長はまだ渡さん」
「でないと僕も張り合いがないですからね。それより地球の土産話を聞きたいです」
トキヒコはサダミツの先に立って歩き出した。
サダミツはロッカーに荷物をしまうと、食堂でトキヒコと休んでいた。
「久しぶりの長期休暇だったから、実家で昔の写真や系図を調べてきたんだ。そしたらこんなのが見つかってな」
サダミツはタブレットを取り出すと、セピア色になった画像を示す。
「結婚式の写真ですね。いつ頃のですか」
トキヒコの問いにサダミツは画像をスワイプした。
「この写真の裏面だ。誰が映ってるかと日付が書いてある。だが、一目見て分かったよ」
サダミツは画面を戻すと、写真の新郎を指し示した。
「
「やはり、先輩も夢にご先祖が出てきたんですね」
トキヒコは胸に下げたピルケースを握りしめる。
「あのガスを吸って眠っていた時、
「良かったな。そうそう、この人が伸男さんの叔父の
サダミツは伸男の後ろに立つ男性を指さした。
「この縁で僕たちは親戚になったんですね」
トキヒコはうなずきながらサダミツの左手に目をとめた。
「縁と言えば、その指輪はひょっとして」
「ああ、ヨシコとの婚約指輪さ」
サダミツは制服の下から首にかけた赤いピルケースを取り出した。
「なので紛らわしくならないように、ラヤニの指輪はこっちに入れたんだ」
「おめでとうございます。僕とお揃いですね」
笑顔のトキヒコを見ながら、サダミツも気持ちが高揚していた。
「そういえばあの時パソコンで解析した光点なんですが、追跡結果を確認したところ結局ロストしてました。これじゃ証拠にもなりません」
肩を落とすトキヒコの顔をサダミツはのぞき込んだ。
「地球人が外宇宙へ出るのが先か、ノチィヒ星人が再び地球人に接触するのが先か分からないけど俺は諦めないぞ。指輪のデータ解析も進めて、いつかお前と一緒にこの目でノチィヒ星やあの連星を見るんだ」
「とうとう本気になったんですね。先輩が一緒なら僕はどこまでも行きますよ」
トキヒコの顔に輝きが戻った。
「ケルブの言葉を借りれば、俺たちはあの連星の片割れ同士みたいなものだ。きっと離れられない運命なんだよ。その時が来たら、お前の石のデータも使わせてもらうからな」
「もちろんです」
トキヒコが勢いよく答えた時、食堂にケルブとメグミがやってきた。さすがに今日は作業着ではなく太陽系警備隊の制服を身につけている。
「おい、そろそろ式典が始まるぞ」
ケルブの右腕はギプスこそ外したものの、まだ完全に回復していない。
「了解しました、ケルブ整備室長」
立ち上がって敬礼するサダミツを見たケルブはそっぽを向いて言った。
「よせよ、人手不足で昇格しただけなんだから。リハビリが終わるまではカワナ隊員を一人前にするため鍛えまくるぞ」
「『タイタン』整備のコツもたたき込まれましたから、次からは一人でできますよ」
「僕も一緒に整備させてよ」
自信に満ちあふれたメグミにトキヒコが寄り添っている。
「デートみたいなもんだ。恋愛の先輩として見守ってやれよ」
ケルブが左手でサダミツの肩を叩く。サダミツは声をかけた。
「トキヒコ、式典に行くぞ」
授賞式は厳かに、そして華やかに行われた。火星基地司令官のベンジャミン・フェスターが、太陽系警備隊司令官の代理として賞状と記章を授与する。
「哨戒艇『タイタン』、サダミツ・キョウゴク船長、トキヒコ・トリイ隊員」
二人は並んで司令官の前に立った。
「貴殿は火星基地解放に多大な貢献をされました。よってここに名誉隊員の称号を贈り、表彰いたします」
サダミツとトキヒコは一人ずつ前に出て賞状と記章を受け取った。ケルブやメグミたちも後に続き、無事受賞式は終わった。
授賞式の後は食堂での祝賀会だ。その前に報道陣向けの会見配信が行われることになっている。通信室のモニターに焦げ茶色の髪をまとめた黒い瞳の女性が映し出される。彼女の顔を見てサダミツは腰を抜かしそうになった。
『「スペースネットワーク」の記者、ヨシコ・ノウノです。本日は火星基地解放で活躍された哨戒艇「タイタン」のお二人にインタビューしたいと思います』
「先輩、こんな仕込み聞いてませんよ」
トキヒコがサダミツにささやきかける。
「俺もだよ」
サダミツがささやき返したその時、画面からヨシコの声がかかった。
『お二人は先輩後輩コンビだそうですが、何か呼び名はあるんでしょうか』
サダミツとトキヒコは顔を見合わせると、声を揃えて答えた。
「『連星コンビ』です」
【完】
俺たち「連星コンビ」 大田康湖 @ootayasuko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます