第3話 王子といる世界のカラクリ

今日もまた、王子は森で行方不明に。探せば見つかるんですけどね。そこから城まで連れて帰るのが大変なのです。

つまりどういうことかと言うと。

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木: ▲

絨毯:ロ

岩: ◎

王子: 子

城: 城

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とした場合、「子」から「城」まで「ロ」を並べてつなげて道を作るのが、わたしの仕事です。

移動できるのは、ロと◎です。どちらも、押した方向に飛んでいき、障害物の手前で止まります。

ただし、◎はロを通り抜けます。岩は絨毯の上を転がるので。

ロは◎を通り抜けません。絨毯は岩にぶつかるので。


◎  ロ  ▲


と並んでいる時に、◎を右に押します。すると、◎は右に飛んでいき、


   ロ ◎▲


になります。


ロ  ◎  ▲


と並んでいる時に、ロを右に押します。すると、ロは右に飛んでいき、岩で止まり、


  ロ◎  ▲


になります。

実例を見ていきましょう。

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      ▲


子ロロロロロ ロロロロロ城


      ロ


      ◎

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ここで安直に「ロ」を上に押してしまうと、こうなります。


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      ▲

      ロ 

子ロロロロロ ロロロロロ城



      

      ◎

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これでは王子は城に帰れません。そこで、まず◎を上に押します。


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      ▲

      ◎

子ロロロロロ ロロロロロ城


      ロ


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この後に、ロを上に押します。


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      ▲

      ◎

子ロロロロロロロロロロロ城

      

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これで、王子から城までの絨毯が並びました。王子は城に帰れます。


おやおや、空から声が聞こえた気がします。……なんでしょう……『倉庫番もどき』?なんのことでしょうね。

ここまで説明すれば、わたくし、従者のスチュワートの苦労も理解していただけるでしょう。

王子を連れて帰るための、今日の問題はどんな感じでしょう。

おっと、また空から声がします。なになに、『天の意志にしたがって、問題を作ってしんぜよう』ですって。

いいでしょう、その問題とやらを作ってもらいましょう。


それでは問題です。


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さあ、みなさん一緒に考えてみてください。

Q1 王子様はどうして、森の中で迷ってしまったのかしら?

A1

1)王子様には目的地があり、そこに向かって歩いているうちに、自分がどこにいるかわからなくなってしまった。

2)王子様は地図を持っていて、今の位置を確認するために地図を開いたところ、自分の現在地がわからなくなった。

3)王子様は地図を持たず、ただぶらぶらと散歩をしていただけだった。

4)王子様には目的地がなく、ただ森の奥へと迷い込んでしまった。

5)王子様は自分の方向感覚を信じていて、地図など必要ないと思っていた。

6)王子様は地図を読むことができず、ただぼんやり歩いていただけだった。

7)王子様には目的はなく、ただふらりと森に入っただけだった。

8)王子様には地図が見えず、自分がどこにいるかわからないままだった。

9)王子様はそもそも、森に来たこと自体を忘れていた。

10)王子様は地図を見ても読めなかった。

11)王子様には方向感がなかった。

12)王子様には

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まってまってまってまって。そういう種類の「問題」じゃないです。この天の意志とやら、王子とわたしが直面している課題をどうやら理解していないようですね。まったく困ったな。ただでさえ王子のことで困っているのに、天の意志にも困らされるとは、わたくし、どれだけ苦労人なのでしょうか。


こんなに苦労しているというのに、王子ときたら何をしているのでしょう……。あ、王子は寝ていますね。そりゃそうですよね。説明ばかりが続いたので、退屈ですよね。疲れて当然です。それにしても、なんとも幸せそうな顔だこと。……ああ、でも本当によかった。こうして王子の顔を見ているだけで、わたくし、なんだか涙が出てきますよ。ええい、泣いてやるぞ!泣いてやるぞ!!……しかしまぁ、こうして眠っている姿を見ると、王子もやっぱり人の子なのだと思いまねぇ。


…………。

…………。


あれれっ? ちょっと待ってくださいよ。これってもしかすると、王子にとって最大のピンチなのではないですか?このままでは、わたくしたち二人して遭難してしまうかもしれません。

いかんいかん、これは一大事です。なんとかしなければなりません。

寝ている王子を押すのは、少し厳しいですね。いいもの食べているので、そこそこ肥えていますから。

となると……。おや、また天から声が。

『引くのです』

え?

『押すのが無理なら、引くのです』

引く……王子を引いて城まで行けということでしょうか。なるほど。

しかしそうなると、制約事項が出てきますね。たとえば、従者であるわたしは、王子の絨毯の上に乗ることができません。ですから、よいしょと引っ張って絨毯一枚分移動させるのを繰り返すことになります。そして王子の移動が、引っ張ることに制限された以上、岩についても同じでしょう。

すなわち、ゲームのルールが変わってしまったのです。

これは、これは、いったい……。


ふたたび天の声がしました。

『裏ステージです。がんばってください』

わたしと王子をめぐる冒険は、当分続きそうです。

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ヘローン 〜軟弱王子と従者のワタクシ〜 木本雅彦 @kmtmshk

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