あなたはだれ?
神木駿
トンネルにいるのは……
私の地元には心霊スポットとして有名なトンネルがある。
私自身はこのトンネルをいつも見ているけど、幽霊なんて見たことはない。
だけど心霊スポットと言われてるなら、好き好んで通ろうとは思わない。
今日は県外からきた友人がそのトンネルを通りたいと言った。
その友人はホラー映画が大好きで、心霊スポット巡りをしているらしい。
まぁ私も別に視たことないからいいやと思って、友人を案内した。
そのトンネルに着くなり、友人のテンションは上がる。
薄暗いトンネルの中は、チカチカと点滅する光が不気味な雰囲気を漂わせる。
私と友人はトンネルの中に足を踏み入れた。
心霊スポットでよく聞く、足を踏み入れた瞬間に空気が変わるという感じは無い。
友人はすたすたと歩いていく。私は友人の後ろを歩く。
なんだ、こんなものかと友人は拍子抜けしている。
引き返すのもなんだか面倒だし、そのまま向こうまで通り抜けることにした。
歩きながらちょうど中央に来たとき、突然空気が重くなって耳鳴りがした。
え?と私は耳を抑えた。
友人は何事も無いような素振りで前を歩く。
『まって!』
私は声にならない叫びを体に響かせる。
耳鳴りに耐えきれず、私は目を瞑る。
突然右手をガッとすごい勢いで掴まれた。
「なに?!」
私は起きている現状が理解できず、パニックになっている。
「ねえ!大丈夫?」
私の手を掴んでいるのは友人だった。
私の異変に気づいてくれたんだとホッとした。
耳鳴りは収まる気配がない。私は友人の肩を借りてなんとか歩く。
足取りはふらふらとしていて、足が地面を掴んでいる気がしない。
友人は私のことをしっかりと支えて、一緒に歩いてくれている。
一人で来なくて良かった。 私は友人がいたことに安堵した。
出口が近づくに連れて、耳鳴りが少し収まっていく。
私は友人にありがとうと礼を言う。友人は気にしないでと笑う。
やがて薄暗いトンネルを抜けて、トンネルの近くにある街灯が私を照らす。
「あれ?」
友人が前で首を傾げている。
「何でまたトンネルから出てきたの?」
友人の言葉は意味が分からなかった。
だって、今私と友人はトンネルから出てきたところなのに。
話を聞くと、友人は私と何事も無くトンネルを抜けたそうだ。
それとトンネルの中に泥の塊のようなものがあったそうで、友人の靴は汚れている。
一方私の靴は履いてきたときのまま、汚れも何も一切ない。
友人が言うにはその泥を避けて通るのは不可能だったそうだ。
友人の横にいた私の靴も同じように汚れて、帰ったら洗わなくちゃだねと話をしていたそうだ。
私達は顔を見合わせて、その場から走って私の家に入った。
「「はぁ……はぁ……」」
と息を切らし、私達は布団をかぶる。
友人の隣りにいた私は誰なのか。
私の隣りにいた友人は誰なのか。
私はその後、そのトンネルに入ることはなかった。
だが時折そのトンネルに二人の人影が見える。
あの日の私と友人の服を着た顔のない人影が……
今、あなたの隣りにいる人は本当にその人ですか?
あなたはだれ? 神木駿 @kamikishun05
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