第22話 美化職員 【最終話】

「やあ、ライオット君」



 俺が剣が折れていないかの確認をしていると、団長と白い鎧の男がやってきた。



「あんな大技を使って大丈夫だったかい」


「ああ、剣にはヒビ一つ入っていないな。良い剣だ」


「アハハ、それなら体の方も大丈夫そうだね」


「体? 特に風邪を引いている訳でもないし、至って健康だが?」



 俺の言葉に団長はクスクスと笑い、白い鎧を着た男は何故か溜め息をついていた。



「ライオット君だね」



 白い鎧の男が俺に話しかけてきた。知らない人だが、騎士なのだろう。



「俺は白狼騎士団副団長のアルディバランだ。君の活躍に助けられた。礼を言わせてくれ」


「礼? 何でだ? 俺は俺の居場所を守っただけだ。礼を言われる事はしていないが?」



 コロボックルの村でも村を守るのは当たり前だった。今はルルミスが守っている筈だ。ルルミスは疾風剣まではマスターした。


 アイツは魔法が得意だから、魔法と相性の良い疾風剣だけでも、飛び蜥蜴を撃退できるだろう。



「…………」


「アルディ君、彼はそういう子なんだよ。陛下からの騎士叙勲を断るぐらいだからね」


「……マジかよ。どんだけ無欲なんだ? ま、まあ、そうは言っても何かお礼をさせてくれ。白狼騎士団で出来る事なら何でもいいぞ。そうだ! 白狼騎士団に入団するってのはどうだ! 青狼騎士団よりも待遇は……イテテテテ」



 アルディバランさんの耳を団長が引っ張っている。



「駄目だよアルディ君。彼は僕のお気に入りなんだから。ネッ」


「イテテテ、わ、分かりました」



 これはアレだな。以前にレティシアがお礼をさせて欲しいと言っていた時と似ている。何か言わねば収まらないか。



「ならば頼みたい事がある」


「おう、何でも言ってくれ!」



 ニカりと笑うアルディバランさん。俺は崩壊している校舎の半分を指差した。



「あれを片付けるのを手伝って欲しい」



 あれ? 何故かアルディバランさんの顔が眉間にシワがより、寂しい顔になっている。なんでだ?



「いや、もっと他にも有るだろ?」


「無いな」


「剣や鎧とか」


「剣は有るし、鎧は不要だな」


「か、金や宝石とか」


「いや、それよりも、やはり片付けの方が重要だな。俺は美化職員だからな」



 俺がそう言うと団長は大きな声で笑い出し、アルディバランさんは俯き頭を左右に振っていた。


 何か可笑しい事を言ったか?





 破壊されていない校舎の方から、賑やかな声が聞こえてきた。


「きゃあああああ、カッコいい!」

「青狼騎士団様ぁぁぁ!」

「素敵ぃぃぃぃぃぃ!」

「結婚して下さいぃぃぃ!」



 女の子達の大きな声が凄い。やはり団長がいるからだな。男の俺の目から見ても団長はカッコいいからな。



「ほら、ライオット君。女の子達に手を振ってあげたらどうだい」


「なんでだ?」


「本当にライオット君は欲がないね」





 そうこうしていると、レティシアが走りながら、理事長お婆さんがゆっくりと歩きながらこちらにやってきた。



「ラァァァァイ!」



 レティシアが俺に飛びついてきた。



「ライは、ライは、ライは本当に凄いよ!」


「いや、俺は俺のやるべき事をやっただけだが?」


「もう! 凄いの! ライは凄いんだから!」



 そういえばコロボックルの村でもルルミスにそう言われた事があったな。



「ライ坊」



 理事長お婆さんだ。



「少し頭を下げてみな」



 理事長お婆さんに言われて、頭を下げた。おっ!? 理事長お婆さんが俺の頭を撫でてくれた。



「ライ坊、よくやってくれたよ。子供達を守ってくれてありがとう」



 アハハ。理事長お婆さんに褒められて、頭を撫でられると、何だか嬉しいな。



「あっ、ライが笑ってる」



 レティシアは珍しい生き物を見るかのような口ぶりだ。失礼な。俺も笑う時はある。



「おやまあ、珍しいね」



 理事長お婆さんまで同じ事を言う。……俺、そんなに笑ってないか?






 翌日、俺は破壊されていない側の学院校舎。久しぶりの雑巾がけだ。


 昨夜は井戸水で水浴びをしたせいで、整えて貰った髪の毛は、またボサボサになってしまった。まあ、別に構わないがな。


 通路には相変わらず俺には読めない文字の張り紙が沢山ある。しかし、俺にも幾つか読める文字もある。『廊下は走るな』だ。


 俺が通路を四つ足で雑巾掛けしていると女の子が俺の前に立っていた。


 肩辺りまで伸びた金髪の女の子。丈の短い履物だからか、雑巾掛けをしていると白いパンツが見えてしまう。



「スカートの中が見えているぞ」



 女の子はスカートの中を見られてはいけないようなので忠告をした。



「ふふ、ライにだったら見られてもいいかも」


 何を言っているんだ、レティシアは? 以前は変態と言って蹴りをしてきた筈だが。躱したけどな。



「いかん、お喋り禁止だ」



 レティシアとは普段は話はするが、学院ではお喋り禁止だ。俺は雑巾がけの続きを始めると、レティシアが後ろからついてきた。


 女の子達の話し声が耳に入る。



「昨日の騎士様、めちゃめちゃカッコ良かったよね」



 昨日のカッコ良い騎士とは、団長の事だな。俺から見ても団長は男前だからな。



「うん。でも彼女とかいるんだろうなぁ」



 団長に彼女はいるのか? レティシアに聞こうと思い、振り向いて、お喋り禁止な事を思い出し、聞くのをやめた。しかし、何故かレティシアはニヤニヤと笑っていた。


 引き続き雑巾がけをしていると男子生徒の会話が耳に入ってきた。



「昨日の青狼騎士、めっちゃ強かったな」


「流石は帝都を守っている騎士団だよな」



 ここでも団長の話か。



「俺もあの青いコートを着たいな」


「あの人に剣を習いたいよ」



 確かに、俺も団長に剣を習いたいな。こんなにも生徒の心を掴むとは、流石は団長だ。



「ねえ、ライ」



 後ろからついてくるレティシアが話し掛けてきた。今は誰もいないから少しならいいか。



「みんなの話、ライの事だよ」


「俺か? なんでだ?」


「ライは強くて、カッコいいからだよ」


「いや、団長の方が強くてカッコいいがな」


「あの人は別格だよ。でもあたしは、ライ推しだからね」


「そうか」



 レティシアに認めらると、心が暖かくなるのは何故だろうか。



「ねえ、ライ。青狼騎士団に入るの?」



 レティシアの声のトーンが下がった。



「いや、それは無いな」


「どうして?」


「そうだな、こうやってレティシアと話しをている方が楽しいから……」


「えっ!?」



 俺は何を言っているんだ?



「んっ、んんっ、それに」


「それに?」


「俺は美化職員だからな!」




   ――― 終わり ―――


―――――――――

【作者より】

 本作を最後まで読んで頂きありがとうございました!


 お仕事コン向けに書いたのですが、無自覚無双系の話になってしまい、自分の力不足というか、スローライフ系が書けないですね😅


 前作の【国を買おう】もスローライフの予定が、国取りになってしまいましたね。


 とはいえ、本作はコンテスト作品なので、最後にルルミスという女の子を出してます。百万が一を考えて、次話に繋がるキャラを出しました。


 さて、次作も異世界ですが、流行りの話では無いので滑りそうな感じです。


 お仕事コン向け、今度はちゃんとお仕事します?


 新連載、宜しくお願いします。

 コメディ無しファンタジーです😅


家無し子に転生した俺。毒絶対耐性で幼い妹と絶対に幸せを掴み取る! 〜侯爵様を毒殺しようとしたヤツがいる!?侯爵家の美少女レティシア様と一緒に、毒殺犯から侯爵様を守り抜け - カクヨム https://kakuyomu.jp/works/16817139558876303602

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【完結】世間知らずの美化職員は無自覚に無双する 〜能力値100倍以上になる禁断の木の実を食べてしまった小人族のライオット。村を追い出されて帝国学院の美化職員として働く事になりました。 花咲一樹 @k1sue3113214

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