第10話
目を覚ますと天井があった。確か僕は急に視界が歪んで···
意識が覚醒し始めたとき、誰かに手を握られているのに気づいた。顔を横にしたとき、信じられない光景が目に入った。
「···朱里?朱里なのか?」
紛れもなく僕の手を握っていたのは朱里だった。だがいくら問いかけても朱里は返事をしてくれない。
「なあ朱里!返事してくれよ!朱里なんだろ!」
「落ち着いて優、また倒れてしまうよ。」
近くにいたユキが僕をなだめてくれる。でもこの状況で僕は冷静ではいられなくなった。
「っ、ユキ···だって朱里が!」
「よく見て優、彼女の胸元を。」
そこには何か石のようなものが埋め込んであった。
「今彼女はこれがないと···あれ?でも確か朱里は···」
何か考え込むユキ。その後ろにはミオと名乗る女性がいた。見れば見るほど朱里に似ている。
「その子はね優くん、抜け殻なのよ。魂が入ってないもの。でも操作することは出来るから連れてきたのよ。」
「え?」
「その子の正式名称はホムンクルス。魔素が微量でもあれば動くことが出来るものよ。そしてこれには最大の特徴あるのよ。」
その時、ミオさんはユキに抱えられながらぐったりしてしまった。
「こっちだよ優くん。」
手が強く握られるのを感じ、朱里を見るとニコニコと微笑んでいる姿がそこにはあった。
「これで分かったかな優くん?私の本体、バーミリオンであの世界を存在することは叶わない。だからこの娘を使って優くんと過ごしていたんだよ。ごめんね優くん?ずっと騙してて。」
「···ということは朱里は、ミオさんってことなんですね。」
「ミオでいいわよ優くん。少し難しかったかな?でも、中身は同じだからいつも通りに接してね。」
また元に戻り僕に話しかける様はどこか異質だ
「ミオの場合は説明が下手くそなんだよ。優はこの世界について何も知らないんだから、いきなり色々教えてもしょうがないよ。」
「···確かにそうね。でもあなたに下手くそと言われるのは気に食わないわ。私は天才なんだから。」
「煩悩まみれの姫がそんなこと言ったって信憑性がまるでない、だからモテないんだよ。」
「あら、私は優くん一筋よ?あなただって煩悩まみれじゃない。お互い様よ。」
「ミオと一緒にしないでよ。僕はそんなんじゃないからね、···多分。」
「そんなことないわ、あなたは十分変態よ。」
「ちょっと!優の前でそんなこと言わないでよはずかしい!」
「ふふふ。」
二人のやり取りに思わず笑ってしまった。何かと僕を挟んではくだらないことで言い合いをするこの光景に懐かしさを感じていた。見た目は違うけれど、やっぱりいつもの二人だなっと安心した。
「?どうかしたかい優。」
「いや、なんだか嬉しくって。」
「ふふ、そうね。こうして3人揃うのはいつぶりかしら?」
「やめてよミオ、なんだか年寄りくさいよ。でも僕も嬉しいよ優。」
その時、ぐうぅぅーと腹の虫が鳴った。安心したらなんだかお腹が空いてしまった。
「あらあら優くん?お腹、すいたの?」
「え、えへへ。なんだか恥ずかしいな。」
「サンドイッチたべる?まだお夕飯には早いから···」
「ああ、十分だよ。ありがとう朱里···あ、いやミオ?」
「はい優くんあーん?」
「あ、あーん。」
突然のことで少し照れくさかったがとても美味しかった。そのときに微笑みかけるミオに思わず頭を撫でてしまった。
「ご、ごめんミオ。」
「ああ♥優くんからのご褒美嬉しい♥もっとして優くん。」
「ちょっと優?僕には何もないの?」
「え、えーと?」
「僕も撫でてよ優?ワシャワシャってしても良いんだよ?」
目を輝かせながらそういうユキがなんだか犬っぽくみえてきた。尻尾を振りながら待つユキを思わず想像してしまった。空いている手でユキも撫でてあげた。なんだかユキの髪の毛は艶々しててさわり心地がいい。
「うんん♥優最高だよ♥撫で心地いいでしょ?」
「ちょっと優くん!そんな駄犬に夢中にならないで!優くんにだったら···どこ触ったっていいんだからね。だから私も愛でてよ!」
「あははは···」
昔を思い出すようで僕は笑みを浮かべていた。
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