第13話

目を覚ますとそこはまた森だった。でも転移した森とは違い空気がよく澄んでいる。


「やあミオ、大丈夫かい?一応簡易的なベットに寝かせてたんだけど···」


「ユキ···ここは?」


「僕たちが創った世界さ。僕も最初は驚いたよ、でもここにいれば心配ないよ。」


「そう···ならもう少し眠らせてもらえるかしら?···とても疲れたわ。」


「ああ、今はゆっくり休むといい。話はまた後で。」





―――――――――――――――――――――



あれから一週間は経過した。避難した人々はそれぞれに土地を開拓し日常を形成し始めている。そして私とユキを元首とする国を形だけ作り、今は急遽作りあげた簡易的な屋敷にいた。



「ミオ、本当にもう大丈夫なのかい?もう少し休んでいたって誰も責やしないよ。」


「心配ありがとうねユキ。でも私だって女王よ?いつまでも塞ぎ込んでもいられないわ。」


「···そう、ならいいんだ。それでとりあえず食料や飲水、住居に関しては問題なさそうだ。一応探索班がこの世界について調べてくれているけどどうやら僕たちの住んでいた大陸の半分くらいの大きさだそうだ。」


「なら私達の魔法は成功したのね。」


「でも一つ気になることがあるんだよね。この世界、一体何を拠り所にしてるんだろうね。」 


「拠り所?」 


「もし私達の世界が拠り所なら今頃侵攻されてるはずさ。魔力の波長さえ合えばゲートは繋がってしまうからね。」


ユキの指摘する点については私も理解しているつもりだった。だからあくまでも避難という形を取り、立て直しを図ろうと計画した。


「でもこの一週間それが一切無かったんだ。」


「ただ敵が間抜けなだけじゃないかしら?」


「···それを確認するために一回ゲートを開こうと思うんだ。もしかしたらこの世界そのものが流れてる可能性もあるからね。」


急かされるまま、私達は再びゲートを開きあの世界へ戻ろうとしていた。


だが結果は予想を遥かに超えるものだった。ゲートの先にあった世界は”魔素が限りなく薄かったのだ”。


”私達の種族は魔素がなければ生きることが出来ない”。すぐに撤退を余儀なくされた。


「はは、これで僕の仮説は当たったみたいだね。」


「世界が流れてるってやつかしら?」


「そうだね。僕達はあの世界に隣接する形で世界を作ったと仮定するとこの世界はきっと何かによって切り離されてしまいあの世界に来てしまったんだろう。まあ僕はミオの魔法について何も知らないけど。」


「私だってそこまで詳しい訳ではないわ。でもそれはそれで厄介ね。何せゲートは私達にしか開けない。送り出してしまえば最後、私達以外に戻って来ることは決して出来ない。何か策を考えないとね。」


「···ミオ、今は落ち着いて行動しよう。何もすぐにやる問題じゃないだろう?」


ユキはそう言ってくれるがユキはきっと一人でもあの世界について調べるつもりだろう。何か行動しなければ壊れてしまいそうな程に私達の心は弱っている。私も彼女も同胞を失い過ぎたのだ。



一ヶ月程度が過ぎた頃だろうか?私は安眠することが出来なくなっていた。眠れば夢に出てくるアリシアの姿。そして決まって最後は私の前で···


「ミオ?目の隈がすごいよ?休んだ方がいい。」


「あらユキ、あなただってそうじゃない。お互い様よ。」


「···それで、もうすぐ完成しそうなのかい?」


「ええ、問題ないわ。」


私はホムンクルスを作っていた。これも母から教わってものだが作るのは初めてだ。ユキやユキの部下はもうすでにあちらの世界で行動していた。なんでも式神というもので動けているらしい。


その情報で私は子供のホムンクルスを作っている。エルフの作るホムンクルスは成長するという特性がある。それを利用し教育機関へ入るため、こうしてわざわざ作っているのだ。


「それにしても随分とエルフだね。」


「何よそれ、私達は動詞じゃないわ。」


「はは、でもあちらの世界にはそんな姿の生命体は存在してないよ。皆人間ばかりさ。」


「···魔法でいくらでも隠せるわ。耳と羽さえなんとかすればただの人間よ。」


「···でも良かったのかいミオ?僕たちがいれば情報なんて勝手に集まるのに。ミオが無理していく必要は、」


「いいのよユキ。私は何か行動してないと落ち着かないのよ。それに自分の目で色々と感じて見てみたいしね。···ほら出来たわ、私専用のホムンクルス。」


その姿は私の幼少期に少し似せたが髪の色は私よりも濃くしてある。後は私の魔力を通してリンクさせるだけ。そうしたらこの子はその瞬間生を受け成長を始める。


「随分と可愛らしいねぇ。それにしても私達の行く国は全員で黒髪の黒目なんだけど···」


「なんでそれを早く言ってくれないのかしら?もう手直しなんて出来ないわよ!」


「あはは···なら別の国から来たってことにしよう!そうすればなんとかなるはずさ!」


なんだか雑なやり方だがそれだけ向こうは脅威が少ないのだろう。仮に何かあってもこの子魔力ぐらいなら国の一つや二つぐらい滅ぼせるはずだ。何も問題はない。


「それで名前はどうするんだい?ちなみに僕は遠藤明って名前で男をやってるよ!」


「···あなたは順応が早いわね。」


「ちなみに私の部下の名前は···」


「ユキ?もう大丈夫よ?色々とツッコミたいけど自分で考えるから。」


その後私はこの子に赤塚朱里と名付けた。特に意味はない。



ホムンクルスに行動する上で一つ懸念はある。この体で死んだときどうなるかわからないのだ。それに向こうでは魔力の補充が出来ないため魔力が切れてしまえばその場から動けなくなる。そんな危険を抱えながら私はユキの手助けもあり、小学校というところへ入ることが決まった。


「まあ一応僕が父親ってことにしておくよ。」


「助かるわユキ。」


「別に構わないけど、その口調は子供らしくないな。」


「いいのよ別に、昔から私は無愛想な子供って言われてたんだから。まあでも善処するわ。」


その後何も問題はなく小学四年生という立場から始まることとなった。





「おい赤い女っ!こっち見ろよ!」


「なに?」


「うわこっち見た!にげろーっ!」


何故か私は男子のおもちゃにされていた。年齢で言えばこの子たちは十かその手前。その割には結構幼稚なものだ。


「ちょっと男子!朱里ちゃんに失礼でしょ!···大丈夫朱里ちゃん?何かされたらすぐに私達に言ってね?」


―――うんうんっ!


「ふふ、ありがとう皆。あなたたちのような友人を持てて嬉しい。」


そして女子は私の味方をしてくれている。美人はよく同性に恨まれると聞いていたがこの世界では違うらしい。もしかしたらこの世界では私は美人ではないのかもしれない。



ある日私は放課後公園と呼ばれる場所で一人、ブランコを漕いでいた。ここは子どもたちの遊び場だと聞いていたがだれ一人としていない。ここの街は子供は割と多いと思っていたが、どこで遊んでいるのだろうか。


「それにしてもこの世界は不思議だわ。変なのがいっぱいだし···」


毎日が刺激的過ぎて私は酷く疲れていた。ある種の暇つぶし、気分転換のつもりでこの世界に来たが、私の心は未だに曇ったままだ。


「ねえお姉さん、大丈夫、ですか?」


その時、ある男の子に話しかけられた。身長は私よりも低かった。私よりも小柄な少年に私は心配されていたのか。


「ふふ、大丈夫。私は元気いっぱいだよ。」


「本当に?すっごく辛そうな顔してたけど···」


「女の子には色々とあるの。それよりも君はなんでここに?」


「んー、そっか!僕は今日こっちに引っ越してきたんだ!僕は小学四年生だけど君は何歳?」


「女の子に歳を聞くなんて、悪い子ね。」


「あ、ごめんなさい。」


「いいよ別に。私も君と同じ小学四年生。同い年だね。」


「え!?そうなの?すっごく大人っぽいね!」


「···ありがとう。」


この少年を話してあると昔を思い出す。アリシアもよくこんなふうにグイグイきたものだ。まあ彼女程ではなく、ところどころに配慮も感じられて私こそあなたに大人っぽいと言ってあげたいほど。


「あ、また悲しそうな顔してる。本当に何もないの?誰かに虐められたの?」


「···そうね、ある意味ではそうかもそうかもしれない。でもそんな心配されることでは···」


突然、私はこの子に抱きしめられた。急なことで反応が遅れてしまった。その次に彼は頭を撫で、そっと私にこう言った。


「僕は知ってるよ、そういう顔をする人は絶対に大丈夫じゃないって。」


「そ、そんなことは···」


「父さんはこう言ってたよ、辛いときは誰かの温もりが力になるって。何があったかわからないけど、そんな顔しちゃだめだよ。」


何故だろう。こんな子供の、ましてやさっきあったばかりの子供の抱擁に私は心地よさを感じている。誰かに甘えるなんて、ましてやこんな風に抱きしめられ慰められるなんてユキ以外には考えられなかった。


私はそっと彼の背中に手を回し、ずっと我慢していた涙を彼の胸の中で流した。そんな醜い私を彼はただじっと黙って頭を撫で続けてくれる。本当に良い意味で子供らしくない。


「···もう大丈夫よ。」


「そう?でもすっごくいい顔になったね!」


「は、はずかしいからあまり見ないで···!」


「あ、やっと笑ったよ。やっぱり笑顔が一番素敵だと思うな。」


なんでこの子はこんなにはずかしい言葉をそんな真剣な顔で言えるのかしら?こっちが恥ずかしいわ。


「あっ!もうこんな時間だ!」


公園にある時計は5時半を指していた。


「じゃあね、僕そろそろ行かないと。」


「あ、あの!」


私の静止も聞かず彼はその場から嵐のように立ち去ってしまった。名前を、聞きそびれてしまった。また会えればいいな。



後日、私のクラスに転校生が来た。教室に入ってきたのはあのときの少年で···


「西園寺優って言います!仲良くしてください!」


私の心はもう、あの子で埋め尽くされてしまっていた。

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