第4話

「ねえ優君!一緒に帰ろうよ!早く!」


「わかったからそんなに引っ張らないでくれ。」


「ふふ、相変わらず君たちは同じことをしているね。」


いつも通りの日常。朱里が僕の手を引っ張り、それを見た明が笑う。


それが僕たちの日常。高校を卒業するまでこんな日々が続く。そんなはずだ。


「えー?じゃあさ、こんなのはどうかな?」


朱里は僕の指と指の間に指を絡ませた。そしてニギニギとしている。


「ちょ!···朱里、これってその、」


「恋人繋ぎ。いいでしょこれ?今日はこのまま帰ろう?」


「赤塚君、それはちょっと許せないかな?」


すると今度は明が肩を組んでくる。


「あれ?明くん今日は車じゃないの?」


「さっき歩いて帰ると連絡したよ。それにいつも優君を独り占めしてるみたいだしね。たまには僕にも分けてくれよ。」


「優君モテモテだね!それで優君はどっちを選ぶのかな?」


「え?···仲良く一緒に帰るのはないのか?」


「ふふふ、優君らしいね。」


「優がそれを望むなら叶えないとね。“友人”として。」


「優君良かったね!ハーレムだよ!」


「良かったって、明は男だぞ?」


「本当にそう思うかい?」


そんなことを言われると怪しく見えてくる。まさか本当に女なのか?


「なーんて冗談だよ。」


「そ、そうだよな。ははは···」


「そうだ!帰り道に新しく出来たケーキ屋さんがあるんだ!今日行かない?」


「僕は構わないよ。特に用事もないしね。」


「僕も大丈夫。前にお小遣い貰ったから。」


「よーし、それじゃ放課後デートにレッツゴー!!」


「「おー!」」


歩きだそうしたその時、足が動かないことに気づいた。まるで何かにはまってしまっているかのようだ。


「ちょ、足が···」


「「ねえ優君?」」


“早くこっちにきてよ”














「っ!」


慌てて目を覚ます。周りを見渡すと簡素な部屋で確かに僕の部屋だ。構造や家具の数、窓からの景色はまるで違うが。


ここにきてから数日は経過した。その間僕は部屋に引きこもっていた。


時間が経つにつれて二人の死は僕に重くのしかかってくる。最早自分でもどうしたら良いのか分からなくなっていた。


死んでしまおうとも考えた。でも結局は怖くてそんなこと出来ない。僕は臆病で怖がりなのだ。


コンコンっ


「優様、食事をお持ちしました。」


「···わかりました。」


扉を開け、食事を受け取る。ここの食事はきっと美味しんだと思う。


でも僕には味がわからない。なんだか無味無臭に感じる。だからいつも無理矢理胃の中へ詰め込んでいる。


「それと食事が終わりましたら殿下から話したいことがあるそうです。終わりましたらドアの前におりますのでお声がけください。」


「は、はぁ。」


僕は早々に食べ終え、殿下がいる部屋へと案内された。


「やあ久しぶりだね。同じ城内に住んでいるのにこう言うのもなんだか不思議ものだよ。」


「え、ええ。」


「さて、早速本題に入ろうか。この国は昔からある国と戦争している。隣国のリース王国なんだが、今になっていきなり攻めこんできてね。諜報部隊によるとどうやら君と同じく転移者がいるらしいんだ。」


「え、えーとつまり?」


「戦ってくれ、なんて言わないよ。ただ表舞台に立って牽制してほしんだ。転移者ってだけで相当の牽制になる。そこに力があろうがなかろうが。」


「そ、それぐらいなら···」


「協力、感謝するよ。まあ単なる時間稼ぎにしかならないだろうけどね。それじゃあ早速移動しようか。」


そう言われ連れてこられたのは鎧が沢山ある部屋だった。


「この中から好きなものを選んでくれ。流石に素顔を晒す訳にはいかないからね。」


辺りを見渡すと部屋の中央に白い鎧と剣が保管されていた。


「あ、あのこれは?」


「ああ、それは白薔薇の鎧だよ。そして近くにある剣も同じようなもの。興味があるのかい?」


「え、ええまあ。」


「そうか、なら試してみるかい?その鎧は人を選ぶんだ。それを着けられた人物は百年以上前に死んでしまっていてね。今も何人か試しているんだがなかなか選ばれないんだ。鎧に触れてみるといい。」


そっと触れると触れた先から光が溢れ出してきた。驚いてすぐに手を戻すが鎧と剣は光ったままだった。


「初めての反応だ、まさか選ばれたのか?優君、もっと近くに。」


そう言われ、もう一度触れると光は収まった。そして頭に声が響く。


(流石は俺の子孫、やるじゃないか。)


周りを見渡すが誰もいない。幻聴だろうか?


もう一度鎧を見る。見れば見るほど綺麗なものだ。また鎧に触れる。


すると鎧が崩れ、一斉に僕の方へ向かってきたのだ。


思わず目をつむる。だが痛みはやってこない。目を開けると兜以外の鎧が体に装着されていた。


「おお!素晴らしい!見事だよ優君。着心地はどうだい?」


そう言われるとなんだが鎧を着ているという気がしない。普通に服を着ているそんな感触だった。


「すごく、軽いです。とても動きやすくていいです。」


「そうか、気に入ってくれたのなら良かったよ。」






そして数日後、僕は街の中心地にいた。もちろん鎧を着ているが周りには何人もの護衛がいる。


そして僕は渡された台本通りに発言する。


「愚かなリース王国よ!我は神の時代より創造された鎧を受け継ぎし者だ。汝たちの行いがこれ以上続くのならば私は最大限の力を持って力を行使しよう。この国に召喚されし転移者として!!」


“おおおおっ!!!!”


民衆から大きな声援が湧く。果たしてこれに効果があるのだろうか?


そして剣を抜き、真っ赤に輝く紅い刀身を空へと掲げる。今日はとてもよく晴れている。兜越しでもそれがよくわかる。この世界に来て一ヶ月は経とうとしている。


朱里、明。僕頑張って生きてみるよ。だからもうしばらくだけ待っててほしいな。














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