第3話

“ガタンガタン”


なんだか揺れている気がする。それになんか音はなんか木材っぽいような···


ゆっくり目を開けると色んな荷物が目に入った。あれは食料だろうか。それに雑貨や武器みたいなものまで。


そしてこれは夢ではなかったのだと嫌でも思い知らされた。そして明や朱里のことも。


僕は朱里を守ることが出来なかった。その事実だけが僕の心を深く突き刺す。



「お、坊っちゃん目を覚ましたかい?」


不意に声をかけられる。この馬車を引いているおじさんのようだ。


「あ、あの···僕は一体何が?」


「あまり、知らないほうがいいかもしれないぞ。何せ今王都は崩壊してるんだからな。」


「え」


ほ、崩壊?何故そんなことが?ていうかそれなら何故僕は生きている?


あの場面から記憶が混濁している。あの状況下で果たしてなんで生きている?


もしかしてこのおじさんがやったのか?


「あ、あの助けてくれてありがとうございます。」


「ん?ああ気にするな。それよりもそろそろ着くぞ?」


「ど、どこに?」


「ラースっていう国だよ。あそこに比べれば数万倍安全さ、家の中にいればな。」


「で、でも僕そんなお金なんて持ってないですよ。」


「はは、そこらへんは俺に任せな。」


そう言い馬車の速度を上げるおじさん。一体どんな国なのだろうか。






「さあ着いたぞ!ここがラースだ!」


目の前には洋風建築がずらりと並んだ町があった。多くの人々が大通りを行き来している。


買い物をする客、路地で自由に遊んでいる子どもたち。広場でくつろぐ若者や老人たち。そこは本当に平和そのだと思った。


だが剣を持っている兵士を見たとき、僕は目をそらした。悪いことをしたわけではない。でも目があったら殺される。そんな気がしたのだ。


「坊っちゃん、着きましたよ。」


そこは小さな城だった。まるで遊園地にでもあるようなそんな大きさの。


しかし辺りには騎士と思われる人たちがたくさんいる。


門が開くと複数人に囲まれた人物が現れた。その格好は王族というには少し抑えめな格好をしていた。あの王は冠を付けていた。この人は冠どころか服装さえまるで私服のようだった。


「ラース殿下、ご依頼のものお届けに参りました。」


「ふむ、それはいつも助かっている。国を代表して感謝申し上げる。ここではなんだ、入ると良い。」



中に案内されると内装はやはり城って感じのものだった。だがどこか質素な感じもする。


応接室と思わるれる場所まで案内されるまで僕はずっとそんなことを考えていた。


「それでヤンバル、通話で言っていた彼とはこの子のことかな?」


不意にこちらを向かれドキッとした。顔は優しそうなのに、目はどこか強い意志を持っているそんな印象だ。


「はは、悪いね。そこのソファーに座るといい。」


僕たちは対面で向かい合う形で座った。


「ラース殿下、この子は王国から逃げてきた子です。」


「ほう、かのイーストリア王国からの逃亡者か。主、名前は?」


「あ、えっと···西園寺優です。」


「···こちらは零と聞いていたが?」


零?誰のことだ。僕はそんな名前を名乗ったことはない。


「ラース殿下、やはりこの子は」


「王国の被害者、ということか。」


「それに”隣のリース王国“でも同じような人物が確認されたようです。」


「ああ、こちらもある程度情報は掴んでいる。何か策はないかと思った矢先にこれだ。ある意味これは好機かもしれない。」


「ええ、でも彼の精神状態を考えると···」


「それはあちらも同じであろう。それに戦う必要などない。抑止力になればよいのだ。まあ、やってることはイーストリア王国と変わらないだろうけどね。」


「まああちらも迂闊に手を出さないでしょうね。それよりもこの子の衣食住ですが···」


「ああ、こちらが全額負担しよう。私の国は来る者拒まず、だからね。西園寺優と言ったかな?君はしばらくこの王国内で休息を取るといい。今は色々と心の整理したいと思うしね。」


「あ、ありがとうございます。」


「それとさっきの話だけど、続きはまた今度ゆっくり話そう。このおじさんとはまだ話があるから先に部屋に戻っているといい。ラング!こちらのものを部屋に案内しろ!」


「かしこまりました殿下。」


そして僕は部屋をあとにした。正直会話の内容をあまり聞いてはいなかった。というよりそんな余裕がない。友人が目の前で殺された。


その事実が今でも目の前でフラッシュバックする。








「それでは、私は部屋の前にいますので何かあればお申し付けください。」


「は、はい。ありがとうございます。」


案内された部屋はベットが一つに机、そして見られない本がたくさんある本棚があり、それなりに広い部屋であった。


ベットに座り、そのまま横になる。色んなことがあった。きっと僕は人生でこのことを忘れることはできないだろう。


窓から夕日か照らしている。もうすぐ一日が終わる。


そのまま僕は眠りに落ちた。現実から目を背けるために。






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