第6話

今日、目が覚めると城はなんだか慌ただしかった。なんでも、エルフの目撃情報が国境沿いでで出たそうだ。


絶滅したと言われていたエルフの目撃情報、これは今後の戦争においてとても重要になるらしい。


「ふっ、ふっ、だっ!」


しかし僕はいつも通り素振りをしている。しかし、使っている剣は木剣ではない。


エルフの姫が作ったと言われるあの剣でやっていた。なんだか妙に体に馴染んで使いやすく、上達したのではないかという錯覚まで起こしてしまう。


でもこれは自分の実力じゃない。きっと剣のおかげだ。それにもし戦場に出たらそれこそ僕はすぐに死んでしまう。


「はっ!はっー!」


慢心は敵。明はいつもそう言っていた。いつか絶対に帰るために頑張らないと。


そういえばなんだか城の中はいつもより静かだ。皆その調査に出てしまったのだろうか?この世界に来て3ヶ月を迎えようとしている。僕も慣れていたつもりだったが嫌な静けさだ。


未だ隣の国、リース王国との緊張状態は続いたまま。でも近いうちに和平が結ばれるのではないかと言われている。


しかしイーストリア王国は魔族なるものに占領されたらしく、事実上滅びたとラース殿下から聞いた。


あの場から逃げ出せたのは僕だけなのかどうなのか?今ではもう確かめようがない。


「しゅっ、はっ!ていゃっ!」


すると突然、頭上から突起物が落ちてくる。だんだんこちらに向かって落ちている。


「や、やばい!」


鎧を纏い、僕は必死に避けた。


「ふーん、やっぱり君が転移者か?」


空から声が聞こえ、見上げると羽の生えた異形がそこにいた。


「それにその鎧、どうやら俺が当たりを引いたようだな。」


「な、何を言って···」


「ひひ、その鎧をまさか見れるとは。あの頃を思い出すねぇ。あのエルフ、とても滑稽だったなぁ。」


「エ、エルフ?」


「ああ、化け物の苗床にした後体を粉々にしてやったよ。その時のあのエルフの顔がとても良かったよ。はははっ!」


く、狂ってる。足の震えが止まらない。


「心配するな、お前は男だろ?楽に殺してやるよ。男なんぞに興味はないしな。出来ればもう一度エルフが欲しいが···ああ、そういえば目撃情報が出たって言ってたな。」


「いっ、一体何を?」


「あれほど上質な苗床はないからなぁ!ちょうど欲しかったんだよ!おっと、少し喋り過ぎたな。」


直後目の前に奴がいた。


「じゃあな偽物の英雄。」


壁に突き飛ばされ、僕は意識を失った。





「ったく硬い鎧だな。これで貫いたと思ったんだが。」


そう呟きながら優に近づく。


「相手の間合いに入るとは、少し油断し過ぎなんじゃないのか?」


その瞬間、相手の腕は切り落とされていた。


「なっ!」


たまらず上空へ避難する。


「全く、俺は剣なんぞあまり扱ったことないんだがな。」


「な、なんだ貴様!実力を隠していたのか!」


「人のことより自分のことじゃないのか?」


「な、何を言って····っ!腕が再生しないっ!何故だ!」


「さあっ、なっ!」


相手に前に近づき今度は羽を切り落とす。


「き、貴様···ま、まさか天使。」


「うーん、半分正解かな?でも羽はないから天使じゃないけど。」


優は確かに空に浮かんでいた。背中には魔法陣が展開されている。


「どうする?降参するか?」


ゆっくりと地上へ降りてくる。


「ふ、ふざけるなぁ!」


剣を取り出し、反撃する。


―――カキンっ!


剣と剣がぶつかりあったとき、相手の剣は折れてしまった。


「勝負あったな、えーと···誰だっけ?」


「···貴様に語る名などない。」


「そうか、じゃあな偽りの悪魔。」


相手の体に剣を突き刺したとき、瞬く間に炎に包まれ灰すら残らず消えていった。


「うへー、すごいなこの剣。まるで豆腐みたいに剣を斬りやがった。」


まじまじと剣を見つめ、こう呟く。


「まあ、この鎧を作った奴もこれで報われるだろ。」


そして自室へ戻ろうとしたとき、謎の壁に阻まれた。


「ぬお!なんだなんだ、透明な壁か?それとも···まあこいつじゃ無理だ。」


剣を鞘にしまい、異空間から漆黒の刀を取り出す。


「へへ、やっぱりこっちのほうが馴染むな。」


優は刀を一振りする。すると辺りの空間が突如として崩壊し始めた。


「···少しやりすぎたか?まあ帰るにはこうするしかないし。あっ!あいつの死体!」


優は光に包まれ、気を失った。





目を覚ますと部屋にいた。体の至る所が痛い。なんだか筋肉痛みたいだ。


「目が覚めたかい優?」


近くにはラース殿下がいた。それに周りには複数の兵士もいる。


「まず自分がどういう状況か把握できるかい?」


「···確かいつも通り中庭で素振りを、その時変な奴が現れて。」


「変な奴?」


「空を飛んでいて、見た目が···なんだか悪魔っぽくて。そして気がついたら吹っ飛ばされて、気を失っていて。」


「なるほど、兵士長!彼にあれを見せなさい。」


そう言われ見せられたのは干からびた腕だった。


「君が倒れていた場所の近くにこれがあったんだ。そしてそのそばには羽と思われる部分も見つかっている。···本体は見つかってないけどね。」


「え」


「優、何か見てないかい?」


「いえ、何も···」


あの場にいたのは僕だけ。きっと僕が気を失ったあとに誰かが助けてくれたんだろう。


「優、一つ君に話さないといけないことがある。君は今日この部屋から出ていないんだよ。」


「そ、そんなことは」


「君が倒れていたのはこの部屋だ。そして近くにこれが落ちていた。肝心の君は中庭で戦ったと言っている。」


なんでか話が噛み合わない。まるで僕がおかしいみたいだ。


「···その様子だと嘘を言っているわけではないみたいだね。全く、朝からエルフやらなんやらで頭が痛いよ。」


「何かあったんですか?」


「···ああ、そういえば君はまだ見ていなかったね。外に出て見るといい。誰か彼を案内してあげなさい。」


促されるがまま一人の兵士に連れなれ、城の高台へ来た。


「あ、あの何かあるんですか?」


「まあ優殿も見れば驚きますよ。」


そこには街並みと同時に遠くからでも分かるクレーターがあった。


「あ、あれは?」


「あそこには王国、イーストリア王国があった領土です。我々の領土まで食い込んでいるそうですよ。」


改めてここが自分の常識が通用する場所ではないことを思い知らされた。

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