第7話
一夜にしてイーストリア王国は消滅、そして領土の大部分がクレーターとなった。周辺国でも被害が出ており、ここ一ヶ月城内は慌ただしかった。
僕の身に起こったことと何か関係があるのではないかと言われているがよくわかってない。なんでもこんなことができるのは悪魔ぐらいだとか。でも目的が分からない以上、何もしようがないという。世界は完全に混乱しているらしい。
「ははは、まさかこんなことになるとはね···すまない優、君に頼る私を許してくれ。」
「あ、頭を上げてくださいラース殿下。で、できるだけ頑張りますから。」
そして今日、リース王国から宣戦布告を受けた。和平交渉は決裂、こうして話している今でも国境沿いでは殺し合いが起こっている。
「優、君にはできるだけ前線から離れた位置に陣取ってもらいたい。勿論、何人かの護衛はつける。だが、異世界人の君には少し酷かもしれないが···」
「大丈夫···って言いたいですけど少し怖いです。でもこの国には恩がありますから。」
「そうか···君には逃げるという選択肢があるのに強い子だ。ではすぐに馬車を手配する、準備を済ませてくれ。」
部屋に戻り、色々と支度をしていた。もしかしたらここへはもう戻ってこないかもしれない、そう思ったら手の震えがますます大きくなる。
(坊主、危なかったら零と叫べ。)
「···え?だ、誰かいるんですか?」
周りを見渡すが誰もいない。零と叫ぶ、その行為になんの意味が?
「零···どこかで聞いたような?」
小さい頃、まだ祖父が生きていたときにその名を口にしていたような気がする。
西園寺零、生まれながらにしての天才。武芸、座学、あらゆる分野でその才能を遺憾なく発揮したと言われている。
だが彼が7歳を迎える前、突如失踪する。時代は江戸末期、捜索はされたが早々に打ち切られてしまった。
そこから昭和初期、ある人物が西園寺家を訪ねたそうだ。
『よう弟よ、元気にしてそうじゃないか。』
そこにはかつての面影を残した零がいた。ある少女と一緒に。
『悪いな壱、突然で悪いんだがこいつの面倒見てやってくれないか?』
『あ、ああ。それはいいが兄さんいいまで一体何を?』
『···ちょっとな。ったく、お前も老いたな。一体何年立ってんだか···おっとそろそろ時間だ。そいつ頼んだぜ。』
それきり、彼は姿を見せなかったという。零から引き受けた少女は“優”と名付けられ、嫁入りするまでのあいだ、親戚一同愛情を込めて育てたそうだ。容姿端麗でありその姿からかぐや姫と呼ばれていた彼女だが、嫁入りが決まった直後、遺体となって見つかった。
また彼女は女性でありながら剣の達人でもあったそうで、零の子供ではないかと言われている。
そして僕の名前はこの少女からきているらしい。なんでも祖父きっての希望だったとその時聞いた覚えがある。
「優様、準備が整いました。こちらへ。」
「···わかりました。」
祖父が話してくれた話に出てきた零。もし彼に会えるのなら、失踪していた期間何をしていたのか聞いてみたいものだ。もしかしたら僕と同じかもしれないから。
日はてっぺんにあり、丁度正午近くだと考える。馬車に揺られ、向かっている先は戦場。だというのに周囲はいやに静かだ。鳥の声さえ聞こえない。
中に乗っているのは僕とラース殿下、そして付き添いの騎士二名。
「優、今向かっているのは最前線じゃないが警戒はしててくれ。何せうちの先鋭が全滅したらしいからね。」
「は、はあ。」
「殿下、そろそろ到着されます。」
「わかった、警戒を怠るなよ。」
馬車がとまり、先に兵士が安全を確認するため降りていった。
すると一人、慌てた様子でこう口にした。
「ラース殿下っ!悪魔です!悪魔がいたるところに!」
「なにっ!」
皆、すぐさまその様子を確認する。僕も一足遅れて到着すると森を抜けた先には戦場が広がっていた。
数多くの悪魔もそこにはいた。その多くは飛んでいる。戦いというより一方的な虐殺。僕は見ていられなかった。
「なんてこった、悪魔は魔法が使える。我々人間には勝ち目はない。人類最後の国家はここで終わるのか···」
「え?それってどういう···」
「優、君は逃げなさい。私達が時間をかせぎます。決して王国へは戻らないでください。もう王国もあるかも怪しい。この森を南に進みなさい。そこには私の古い友人がいます。その人を頼りなさい。いいね?」
「あぁ···」
「ふふ、まあ悪くない人生でしたよ。それでは優、元気で。」
三人はそのまま戦場へ向かった。兵士たちの悲鳴が聞こえる。そこにあるのは絶望。僕は鎧を纏い、急いで森の方向へ向かった。
その時、前から衝撃波が飛んでいて飛ばされてしまった。
「白い騎士とはお前のことか、探すのが省けたぜ。」
「あ、ああ···」
「もしかして、戦場へくるのは初めてか?けけ、それは気の毒だが上からの命令だ。お前の首とその鎧、回収するぜ。」
体が動かない。目の前にいるのは明らかに化け物だ。僕なんかが勝てる相手じゃない。逃げなきゃ。どこに?唯一の逃げ道は塞がれた。
死ぬのか僕は?やっと生きる意味を見出したというのに、死んでしまうのか。
「じゃあな人間。」
首元に大きな衝撃とともに飛ばされる。だがまだ生きている。立てる。僕は剣を抜く。
「流石に硬いなその鎧。あいつが殺られるのも無理ないぜ。」
「僕は、まだ死ねないっ!」
相手に斬りかかる。だがすぐにかわされ反撃をくらってしまう。また首元に衝撃がくる。だが僕は飛びされなかった。
「なっ!」
「はぁぁっ!」
相手は目の前、かわすことなど出来ないはず。剣を振るった直後、また後方へ飛ばされる。
「···ったく、危ないな。ああ坊主、いいこと教えてやる。さっきのは魔法だ。お前たち人間が決してたどり着けない境地。もう勝ち目はないぜ?」
体が動かない。さっきの衝撃で意識が遠のく。
ああ、そういえばあの言葉を言わなければ···
「ぅ、零····」
その時、悪魔の体は剣によって貫かれた。そして体中が燃えだし、灰になった。
「やっと出番か。」
(あ、貴方は?)
体の自由がきかない。なにかに操られてる気分だ。
「お?なんだお前意識あったのか。なら話は早い、俺を分離しろ。」
(え?)
「ああそうか、俺のほうが異物だったな。」
そう言うと体に自由が戻った。そして目の前には一人の男が立っていた。
「あ、貴方は?」
「その質問、二回目だぜ?まあいいか。俺は西園寺零。お前の先祖にあたる男だ。」
「あ、貴方が···」
「おっとゆっくり話すのはあとにしようぜ?まずはこのうるさい奴らを片付けてからだ。」
零は異空間から刀を取り出した。そして刀を構える零の姿に思わず見とれてしまう。
「秘技!幻影剣!」
すると空中に数多くの剣が生成されていく。最早数えきれないほどだ。
「敵を一人残らず貫け。」
そこから始まったのはこちらからの一方的な反撃だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます