第9話
「優、優?少し離してくれるかな?情熱的に求められるのは好きだけど♥今は···ね?」
そう言われ僕は急速に頭が冷えた。
「ご、ごめん。えーと、ユキ?」
「照れてて可愛いね優は。よしよし♥」
頭を撫でられると何故か安心感を覚える。今まで男友達であったのに今ではこうして甘えてしまっている。でもこんな状況でも僕は多幸感を感じていた。
「それよりどうする?周りは焼け野原、今結界を解いたら優はただじゃ済まないぞ。無論、俺らもだが。」
周りを見ると零の言う通り周りが焼けていた。そこはまるで地獄のようだ。
「大丈夫だよ、あの子のことだからうまいこと調整してるはずさ。まあ多分優だけだと思うけど···」
ユキが何かを唱えると展開されていた結界は徐々に崩れていった。だが見た目に反してあまり熱くは無かった。
その時、頭上から衝撃が起こる。そこにいたのはさっきまでいた悪魔のようなそんな怪物だった。だけどその手には一人の首があった。
「お前が召喚された人間か。報告にはあったが本当にただの人間のようだ。」
「おや、僕たちもいるんだけどね。優に何か用でもあるのかな?もしかして君が持っているその人と同じようにするつもりかな?」
「話が早いな、ならそいつを渡せ。今なら楽に殺してやる。」
「···君は少し喧嘩を売る相手を選んだほうがいい。そんなんじゃこの先後悔するよ?」
「は!よほど死にたいようだな。いいだろう、お前たち全員皆殺しだ。」
こちらに一歩ずつ近づいてくる。あまりにすごい威圧感に圧倒されてしまう。紛れもなく僕では勝てない相手。直感的に理解した。なのに二人は何も行動しない。何かあるのだろうか。
「優、安心して?」
そう言い手を握ってくれた。その時再び辺りが炎に包まれた。だがあまり熱さは感じられなかった。炎がなくなった後、そこには何もいなかった。
「な、何が?」
「久しぶり、私の優くん♥」
「つ!」
気がつくと僕の頬に手をそえた女性がいた。
「あらユキ?いつまで手を握ってるつもりかしら?」
「ミオ···随分と遅かったじゃないか。それと彼は君のだけではないはずだが?」
「あらあら、うふふふ。そういえばそうだったかしら?それと、少し調整に時間がかかったのよ。色々、ね?」
僕の方を見て微笑みかけるミオという女性。その姿はまるで朱里のようで、だが耳は長く尖っており背中には羽もある。
「それよりもさっきのをやったのはあんたか殿下?俺は零っていうんだが···」
「零···ああ、貴方がそうなのね。ええ、この辺りの掃除をしていたのだけれど。なにか問題でも?」
「あー、いやただ確認したかっただけだ。それよりもこいつまで燃やすような勢いだったんでな。」
「それなら心配ないわ。優くんにだけ燃えないようにしたもの。あわよくばそこの女を殺れるかと思って。」
「おやひどいじゃないか。せっかく僕は優を守っていたのに。」
二人して僕の手を強く握ってくる。そして胸まで当たっていて少し照れてしまう。でも何だが視界が歪んで···
「優くん?大丈夫?そのまま私の胸の中で寝ててもいいよ?」
なんだが懐かしい感覚、そして柔らかい匂いに包まれ僕はそのまま意識を失った。
「かわいいなぁ優くん♥私の胸の中で無防備な姿を見せて。」
「まあ彼はここに来てからずっと頑張っていたからね、無理もないよ。」
「それよりもお前ら、優に執着する理由は何だ?」
零の質問に二人は驚きながらも笑っていた。その姿はまるで獲物を狙う怪物のようだった。
「貴方にはきっと理解出来ないわ。それよりもユキ、とりあえずあそこへ戻るわよ。色々話したいこともあるし。」
「戻る?どこにだ?」
「見ればわかるわよ。」
その時、ユキが何かを唱え始め近くに扉が開かれた。その扉は半透明だがどこか禍々しくもあった。
「楽園、僕たちはそう呼んでいるよ。君は優のスキル?みたいだからね、特別に案内してあげるよ。」
言われるがまま3人は扉を通った。
扉の向こうには大きな屋敷があり、大勢のメイドが出迎えていた。周りには人々の楽しそうな声も聞こえており、鳥のさえずる音や自然豊かな景色がそこには存在した。
「お帰りなさいませバーミリオン殿下、シラユキ様。」
「ええ、留守番ご苦労さま。後で部屋に飲み物と軽食でも用意してくれないかしら?そんなに急いでないからゆっくりでいいわよ。」
「かしこまりました、それでは後ほど。」
「な、何なんだこいつら?どいつもこいつも···」
「零?行きますよ、早く優くんをベットに休ませてあげないと。」
中に入るときらびやかな装飾たちが出迎えてくれた。その中、部屋へ急ぎ足で向かっていた。
部屋に入ったあとすぐさま優はベットに寝かされた。頭を撫でながら口にキスをするバーミリオンに零は呆れながらソファに座った。
「それで?ちゃんと説明してくれよ、お前たちと優との関係について。」
「ん♥もうちょっとだけ♥優とのキス♥」
「ミオはこの調子だから僕が説明するよ。別にそんな大した話じゃないさ。僕たちは優と同じ学校で同級生だっただけさ。」
「いや、それこそおかしいだろ。なんでお前たち異世界の住民が優のいた世界にいるんだよ?」
「はぁ、全く。少しは自分の頭で考えたらどうだい?それよりもミオ、僕と代わってくれないか?僕も恋しくなってきたよ♥」
「ん?しょうがないわね。しばらくはもちそうだしいいわ。」
そしてすぐさま二人はチャンジする。
「えへへ優♥」
「おいおい、真面目にだな···」
「せっかちなのね、ユキの言う通り少しは自分の頭で考えたらどうかしら、“英雄様”?」
「ったく教える気はないってか?一応俺たち初対面だろ、親切にしてくれたっていいじゃないか。」
「うふふ、そうね。でも貴方のことは友人からよく聞いていたわ。貴方の性格から身の回りのこと、そして惚気話もね。だから少し雑に扱っていいって聞いたものだからつい。」
「···へっ、そうかよ。まあ俺ももうじき時間だしな。でも優にはちゃんと説明してやれよ?」
どこか懐かしそうな顔をしながら零は粒子状になり消えていった。
「ミオ?あれで良かったのかい?」
「いいのよ別に。それよりも貴方ちゃんと優に説明出来るのかしら?」
「問題ないさ。」
「そう、なら私のほうが少しややこしくなりそうね。···“朱里”!入りなさい!」
そして部屋に入ってきたのはバーミリオンに似た女性だった。
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