第四十三話 覚醒するチートジョブ②

「じゃあ俺たちはそのオークを少し追ってみるが……本当に置いて言って大丈夫か?」


 と、言ってくるのは冒険者の一人。

 ゾイはそんな彼へと言う。


「はい。僕は錬金術師なんで、回復の薬を作れます……それにクレハ――彼女が守ってくれますから」


「わかった。もし何かあったら、大声で俺達の事を呼べよ」


「そうします。そちらも気をつけて」


 …………。

 ………………。

 ……………………。


「ぷはぁっ……どっと疲れるってこのことだね」


「疲れるとはこの事なのね」


 と、ゾイに続いて言ってくるクレハ。

 いったい何が起きたのか。

 それは簡単だ。


 1:クレハにゾイを斬らせることにより、目に見える傷をゾイに作る。

 

 2:ジョブ『荷物持ち』のスキル『収納』で、ポケットに男のゾンビを収納。


 3:やってきた冒険者に『魔物に襲われ、斬りつけられた』と嘘をつく。


 要するに、一芝居うったのだ。

 こうすれば、周囲の血だまりもゾイのものと思われるに違いないのだから。

 それにしても。


「ゾンビをスキル『収納』でしまえなかったら、やばかったな」


 ゾイはあの時、ふと思ったのだ。

 ゾンビは死体=物。

 ゾンビはゾイの下僕=所有物。


 なら。

 ゾンビって収納できるんじゃね?

 結果は御覧の通りというわけだ。


「ゾイ……作戦が失敗していたらどうしていたの?」


 と、聞こえてくるクレハの声。

 彼女は狐耳をぺこりと、ゾイへと言葉を続けてくる。


「もしもゾンビを収納できなかったら――」


「ちゃんとその時の作戦も二つ考えていたよ。一つ目はバレルだろうけど――男のゾンビに襲われたって言う」


「考えていたのね……偉いわ。でもそれなら、私に斬りつけさせる前に、ゾンビを収納できるか方が試した方がよかったわ……ゾンビは斬りつけて来ないもの」


「ぼ、僕だって焦ってたんだよ……とにかく、二つ目の作戦は僕が囮になってクレハを逃がすっていう――」


「ダメよ」


 ガシっ。

 と、両手でゾイの頭を掴んで来るクレハ。

 彼女はジトっとした視線で、ゾイへと言葉を続けてくる。


「ゾイが囮になる系の作戦はダメなのよ……私が許さないわ」


「う、うぐ……」


 視線が恐ろしい。

 でも、なんだか恥ずかしいやら嬉しいやら。

 不思議な感情もある。


(僕の人生――死んでからの方が充実している気がするんだけど……気のせいかな)


 ゾイはそんな事を考えたのち、クレハから距離を取る。

 無論、照れ隠しだ。


 そして。

 彼は「おほん」と一言、クレハへと言う。


「ところでクレハ、気が付いた?」


「?」


「僕がゾンビにした奴らはスキル『収納』でしまえる事がわかった……つまり」


「つまり、いつでもゾンビを隠せる?」


 なるほど。

 それもそうだ。


 だがしかし。

 ゾイが思いついたことは、もっとすごい事だ。

 それは――と、ゾイはクレハへと言葉を続ける。


「ゾンビを『収納』できるなら、僕は常に大軍を持ち歩けるってことだ」


「……!」


「そこら中で人や魔物を殺しまくってゾンビにする。それを鞄にどんどん収納していく……そして、戦いの時にそのゾンビを一気に解放すれば――」


「人数的有利をいつでもキープできるのね……しかも、戦った敵もどんどんゾンビに出来るわ」


 と、瞳をきらきら狐尻尾を振るクレハ。

 ゾイはそんな彼女へと言うのだった。


「そう。始祖ゾンビである僕と……ジョブ『荷物持ち』は相性が良すぎるんだ」


 それこそ。

 この世界のバランスを崩すほどに。

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最強パーティーに捨てられゾンビになった俺、魔王から貰ったチートスキルで復讐を誓う アカバコウヨウ @kouyou21

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