王徽之  卓犖不羈

王羲之おうぎしの五男、王徽之おうきし。字は子猷しゆう。その性格は卓犖不羈たくらくふき。よくわからない。「他より抜きん出ていて、何ものにも束縛されないこと。 」とのことだそうだ。すごい。

そのフリーダムさは他の追随を許さない。詳しくは世説新語に乗る王徽之の登場する条をご確認いただきたい。

https://jinsung.chronicle.wiki/d/%c5%ec%bf%b8%b8%e5%c8%be


弟の王獻之おうけんしと非常に仲が良かったのだが、その弟に先立たれてしまう。王徽之は駆けつけてその喪に服すのだが、慟哭は特にしなかった。その代わり遺骸の側にて王獻之が愛用していた琴を取り、爪弾いた。ややあってその琴の調律が狂っていく。そこで初めて、王徽之は嘆く。

「ああ、子敬しけい(王献之の字)よ! お前とともに琴も滅んだか!」

そして悶絶した。もともと王徽之は背中に病を抱えていたのだが、ついにその病が破裂。弟の死後一月余りして、王徽之も死亡した。


子には王楨之おうていしがいた。字は公幹こうかん侍中じちゅう大司馬だいしば司馬徳文しばとくぶん長史ちょうしなどを歴任した。桓玄かんげん司馬顕しばげんけんらを滅ぼして太尉たいいとなり、実権を握る。桓玄は朝臣をことごとく集めた上で、王楨之に問う。

「我はあなたの叔父、亡き王献之様と比較していかがであろうかな?」

王献之は当時ナンバーワンの名士と呼ばれていた。つまり、オレの人望を讃えろと桓玄は言いたいわけだ。この手のやり取りで王楨之はわりとガツンというクチだったようで、座につく者たちが皆固唾をのみ、その成り行きを見守ることになる。

王楨之は答える。

「我が叔父はひとときのしるべにございました。対する公は千載の英知と申すべきにございましょう」

お前と同軸になんぞ語れるわけねえだろバーカ、を、可能な限り桓玄の顔を立てる形で言い切ったわけである。これを聞き、一座の者たちは大いに喜んだ。



以上が王徽之の系譜の話である。ここでは最後に、おまけとして王徽之の弟、王操之おうそうしについても語っておこう。王操之は、字を子重しじゅうという。歷侍中、尚書しょうしょ豫章太守よしょうたいしゅを歴任した。




徽之字子猷。性卓犖不羈。獻之卒,徽之奔喪不哭,直上靈牀坐,取獻之琴彈之,久而不調,歎曰:「嗚呼子敬,人琴俱亡!」因頓絕。先有背疾,遂潰裂,月餘亦卒。子楨之。楨之字公幹,歷位侍中、大司馬長史。桓玄為太尉,朝臣畢集,問楨之:「我何如君亡叔?」在坐咸為氣咽。楨之曰:「亡叔一時之標,公是千載之英。」一坐皆悅。

操之字子重,歷侍中、尚書、豫章太守。


(晋書80-2)




■世説新語


「嗚呼子敬、人琴俱亡。」因頓絕。

傷逝 16。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884883338/episodes/1177354054891285927

王徽之と王献之ってラブラブって書かれるんですけど、世説新語からだと王徽之からのクソデカ感情しか見えないのがまたおいしいのですわよね。


「我何如君亡叔。」在坐咸爲氣咽。

品藻 86。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884883338/episodes/1177354054889204581

なお王楨之は他の場所でも桓玄とのひりつくやり取りを決めていたり、

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884883338/episodes/1177354054889269493

また宋書や晋書では似た字形の人物が気骨ある糾弾者として存在している。

https://kakuyomu.jp/works/16817139559045607356/episodes/16817139559106242340

https://kakuyomu.jp/works/1177354054888050025/episodes/1177354054888581519

示偏と木偏は似てるので、同一人物とみなして良い確率は高そうですよね。もうちょっと伝が残っていたら更に面白いエピソードも見れたのかもしれません。

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