桓玄17 道を笑う    

桓玄かんげん道曜どうようと言う人物と共に

老子ろうしについて論じあっていた。

なお道曜と言う人の詳細は謎。


この時、王徽之おうきしの息子である

王禎之おうていしも書記官として

桓玄の部下になっていた。

この議論にも同席。


しかし王禎之、全然議論に

参加していなかったのだろう。

なので桓玄、王禎之に振る。


「王禎之、君もその幼名の通り、

 少しは道について考えみても

 いいんじゃないのか?」


王禎之は、幼名を思道という。

そんな幼名を持ったやつが

だんまりかよ、というわけだ。


すると王禎之、答えないまま、

大いに笑った。


これを見て、桓玄が言う。


「ったく、名家の坊ちゃんは違うな」




桓南郡與道曜講老子,王侍中為主簿在坐。桓曰:「王主簿,可顧名思義。」王未答,且大笑。桓曰:「王思道能作大家兒笑。」


桓南郡の道曜と老子を講ぜるに、王侍中は主簿と為りて坐に在り。桓は曰く:「王主簿、名を顧み義を思うべし」と。王は未だ答えず、且つ大いに笑う。桓は曰く:「王思道は能く大家が兒の笑いを作したり」と。


(排調63)




老子四十一章にこんな章句がある。


上士聞道,勤而行之

 上士は道を聞き、

 勤めて之に行かんとす。


中士聞道,若存若亡

 中士は道を聞き、

 如く存し如く亡す。


下士聞道,大笑之

 下士は道を聞き、

 大いに之を笑う。


上士は道に近づこうと励み、中士は道に対して半信半疑となり、下士は道を笑い飛ばす、と言った感じの意味。目加田めかだ説によれば、王禎之がこの章句を踏まえて振る舞った、としている。つまり、桓玄が王禎之の無言っぷりを幼名に当てつけてからかってきたところに、「私の如き下賎のものはあなた様の高邁なる議論になど加わる資格もございません」と返していることになる。はぁ、よくこういう接続を見出せるもんですね……そうすると桓玄のコメントも「教養あるやつの返しはまたおハイソだな」みたいな感じになるだろうか。

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