桓玄16 劉と周     

桓玄かんげんが狩りに出た時の一シーンである。


りゅうしゅうと言う二人の部下が、

射的の腕を競い合っていた。


勝負は劉が優勢。

次の一射を周が外せば、

劉の勝利となるところにまで至った。


「おい周、お前がそれを外したら、

 おれに鞭打たれることになるんだ。

 せいぜい気張れよ」


すると周は答える。


「誰が鞭打たれるもんかよ!」


劉はさらに答える。


伯禽はくきんですら鞭打ちを

 逃れられなかったんだ、

 なら、お前なんぞが

 逃れられるわけもないだろう」


おおっと。それはどうだろう。

そしてこの挑発、見事周に通じない。



二人の様子を眺めていた桓玄、

隣にいた庾鴻ゆおうに呟いた。


「劉にはもうこれ以上本を読ませるな。

 周は……まぁ、勉強しろよ、

 とでも言っておけ」




桓玄出射,有一劉參軍與周參軍朋賭,垂成,唯少一破。劉謂周曰:「卿此起不破,我當撻卿。」周曰:「何至受卿撻!」劉曰:「伯禽之貴,尚不免撻,而況於卿?」周殊無忤色。桓語庾伯鸞曰:「劉參軍宜停讀書,周參軍且勤學問。」


桓玄の出でて射せるに、一なる劉參軍と周參軍とが朋に賭くる有り、成りたるに垂んとせるに、唯だ少しく一破す。劉は周に謂いて曰く:「卿の此く破れざるの起たば、我れ當に卿を撻たん」と。周は曰く:「何ぞ卿が撻さるを受くるに至らんか!」と。劉は曰く:「伯禽の貴なるにても、尚お撻たるを免れざる。況や卿に於いてをや?」と。周にては殊に忤りたる色無し。桓は庾伯鸞に語りて曰く:「劉參軍は宜しく讀書を停むるべし、周參軍は且しく學問に勤しむべし」と。


(排調62)



劉、周

なんでお前たちだけ名前残ってんの?


伯禽

この人が鞭うたれたのは父であるしゅうの文王による帝王教育の一環であり、弓矢の腕が云々とかとは全く関係がない。つまり劉の持ちだしたたとえはまるで鞭打ち以外はかすっておらず、桓玄としても「アイツは鞭に引っ掛けるだけひっかけて、それ以外のことは何にも考えてない。レトリックの何たるかを、いくら本を読んでも本質を把握できない口だ。奴に読書は意味がないな。しかし、そう言う部分のこともあげつらえないんだから、ちょっと周にも教養がなさすぎだろう」と言いたくはなったんだろう。


庾鴻

庾亮ゆりょうのひ孫。父親の庾楷ゆかいはなんか腰の据わらない振る舞いで各勢力をふらふらした結果反逆者として殺されている。その息子なので、あんまりいい思いはしていないんだろうな、と推測される。

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