王徽之2 人と琴と共に滅ぶ

王徽之おうきし王献之おうけんしが共に重病にかかった。

そして、間もなく王献之が死亡。


王徽之、側仕えに問う。


「どうして献之の消息が途絶えたのだ!

 よもや、死んでしまったのでは

 あるまいな!?」


そこに悲しみの色はない。

すぐさま輿を持ってこさせ、

王献之のもとに駆け付ける。


物言わぬ王献之のそばに立ち、

だが慟哭することもなかった。


そばには王献之が

日ごろ好んで弾いていた琴がある。


王徽之、その琴を手に取り、

爪弾き始めた。


だが、既に調律が

狂いきってしまっていた。

まともな音楽を奏でることもない。


「あぁ献之、献之よ!

 お前と共に、琴も死んでしまったか!」


王徽之、琴をなげうち、

大いに慟哭した。


そして王徽之も、

ひと月と経たずして死んだ。




王子猷、子敬俱病篤,而子敬先亡。子猷問左右:「何以都不聞消息?此已喪矣!」語時了不悲。便索輿來奔喪,都不哭。子敬素好琴,便徑入坐靈床上,取子敬琴彈,弦既不調,擲地云:「子敬!子敬!人琴俱亡。」因慟絕良久,月餘亦卒。


王子猷、子敬は俱に病篤かれど、子敬は先に亡ぶ。子猷は左右に問うらく:「何ぞを以て都べて消息の聞こえざるや? 此れ已にして喪じたらんか!」と。語にては時に了に悲まず。便ち輿を索め來りて喪に奔じ、都べて哭かず。子敬は素より琴を好まば、便ち徑ちに入りて靈床が上に坐し、子敬が琴を取りて彈ぜど、弦は既にして調らず、地に擲ちて云えらく:「子敬! 子敬! 人も琴も俱に亡びんか」と。因りて慟絕せること良や久しく、月餘にて亦た卒す。


(傷逝16)




王徽之にとって弟がすべてだった、みたいな感じです。けど安心してください、ちゃんと子供もいます。桓玄のところでなかなか冷や冷やする受け答えしてくれてます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る