第3話 リブはリブでも

 時は進んで4月となった。藤井も石橋も進級し3年になった。大学はちょうど初々しい新入生に溢れ、みなキラキラとした目で興味津々と何か面白いことはないかと構内を闊歩している。


 翼会でも新人獲得のため、構内で機体を一部組み立ててて展示をしている。藤井と石橋は機体の説明役だ。他のメンバーはチラシを持って駆け回っている。


「すみません。これって、テレビでやっている番組に出るやつですか?」

 新入生とおぼしき女子が藤井に話しかける。


「翼会にご興味が?そうです。人力エアーレースに参加するため飛行機を作っています。」


「初めて見ました。こんなに大きいのですね。」


「そうなんです。初めて見た人はみんな驚きます。部品全部、一つ一つ作っていくんです。リブなんてたくさんあるのでものすごい手間がかかります。」


「リブって何ですか」


「えーと、リブは英語だけど訳せば小骨。ほら、サカナの骨って背骨から生えてカラダを作っているでしょ」


「あーなるほど」


おい藤井、お前の中では主翼はサカナが横たわっているのか

横で聞いていた石橋が頭の中でつっこむ。


「スペアリブのリブは違うんですか?リブってアバラですよね?」


「え・・・っと」

「スペアリブの骨はあばら骨ですね。でもリブは小骨、の意味なんです。この黒いパイプがメインスパー、主桁という部品ですが、飛行機を持ち上げる空気の力はこの部品が最終的に受け持ちます。これにくっつくものだから、リブ、という訳なんです。あばら骨も小骨ですね。あっちは曲がってますが」

石橋は見かねて口を出してしまった。


「まあそうですね。アバラの質問はやり過ぎでした」

といって悪戯っぽく口の端を持ち上げた。

「サカナの小骨は身の中にあるから、空気の流れとは関係ないですよね?主翼のリブは翼断面を作る大事な部品ですよね」


藤井と石井は顔を見合わせる。


「えーと、君は一体・・・」

「私も飛行機作ってるんです。ラジコンの小さいやつですけど。」


 えー、経験者か。ずるいじゃないか。


「そうですか」

 ぶすっと藤井が答える。そういうとこだぞ、と石橋は思いつつ、女子に言う。

「それで、うちの人力飛行機はどう思ったんですか?」


「ええ、感銘を受けました。こんなに大きいんだって。一人ではどうしても作れない大きさですね」


「そうでしたら、入部説明会を15日にするから、是非来てください」

そういってチラシを渡す。


 女子はチラシを受け取り、ぺこっと頭を下げてから歩いて行った。


「ずるいよなー、リブ知ってたんだ・・・」

 藤井がぼやく。

「いや、ラジコンって言ってたから人力でリブが何処を差しているのか聞きたかったんじゃないかな」

「そういうもんかね。彼女が入ったらイッシーが面倒見ろよ」

「そう言うなよ。経験者は貴重さ。まだ入ってくれるか分からないし」

「まあそうだけどな」

「たぶん、上手くいくよ」

 ニッと石橋は笑った。


 二人は新歓活動に戻る。


* * *


 三人の出会いが、翼会の機体デザインに大きな変化をもたらすのはそう遠くない未来である。


「リブが魚の骨だと誰が言った」おわり







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リブが魚の骨だと誰が言った 国枝 安 @y-kunie

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