第2話 マグロ
もう昼を過ぎていた。
「そろそろ飯にしないか」
「そうだな。誰も来ないし、いったん片付けて飯に行くか。どうする?」
「ちょっと魚食べたいな。」
藤井と石橋は駅前の回転寿司にぶらぶらと向かった。
マグロをほおばりながら、藤井が言う。
「マグロには骨無いな…」
「寿司に小骨があってたまるか」
奴ら筋肉の塊らしい。というかこれは赤身だ。大きな骨の周りは剥き身になるし、小骨は飛行機には応用できそうもない。そういえば、いや時速90kmで泳ぐマグロの形は抵抗が少ないんじゃないか。レイノルズ数的には
Re = l * V / ν = 2 (m) × 25 (m/s) ÷ 1.11×10^-6
で (約)4500万・・・
で、いや、人力機より桁が2桁も多い。使えないか。
(筆者注:なお、最近の研究でバイオロギングによると速くても30km/h位らしいです。それでも桁が2桁多いのは変わりませんが・・・)
数字を見れば一目瞭然、速度(V)も速いし動粘性係数(ν)も小さい。同じ流体として扱えるわけがない。
じゃあもっと小さくてゆっくり泳ぐサカナなら参考になるのかな?
石橋の妄想が止まらない。
「おい、イッシー聞いてるか?」
「うん」
「いや聞いてない。俺はだいぶ食べたけど、お前もう良いのか?戻ったらたぶん何人かはいるだろうから、リブキャップの作業に取りかかろうと思うけどどうだ?」
「そうだね。人数にもよるな」
「キャップは切ってあるんだろう?」
「多少は」
「それならそれでやろう。ほら、頼むもの頼んじゃえよ。俺は締めにあおさ汁頼む」
二人は最後の注文をした。
* * *
部品を持ってラウンジに戻ると、1年生が数人談笑していた。
「先輩、今日の作業は何ですか?」
「うん、リブを作る。作業としてはリブキャップの取り付けだ。この8mm幅のバルサをスタイロのリブに貼り付けていく。範囲はそう、上面は65%から、下面は15%から。後ろは後縁材がつくからそのままつきだしておいて」
石橋が説明し、藤井のチームと石橋のチームに分かれて作業に取りかかる。
「まず見本を見せるよ」
石橋はリブ本体と部品(リブキャップ)にスチ糊を塗り薄くのばす。そして一呼吸置いてからこれを貼り付けていく。リブを見ながら石橋は考えた。そういえばこれは魚か?ちょうどスタイロフォームが青いのでちょっと魚っぽい。しかしヒレがない。
翼型は流れに対してチキンとした形になる、それを保つ強度剛性がある。2つの面から美しいじゃないか。
石橋は貼り付けたリブキャップを太いペンの腹でしごき、しっかり貼り付けた。その上ではがれないようマスキングテープでリブキャップをスタイロのリブに固定した。
「ここがポイントだよ」
最後にリブをテーブルに置き、直定規を当ててリブが真っ直ぐになっていることを確認した。
「リブキャップの付け方によってはリブ自体が曲がってしまう。人力飛行機に使う低レイノルズ数向けの厚翼は後縁が細くなっているのが普通でここが曲がってしまうんだ。しっかり確認してくれ。後縁のゆがみになってでてきてしまう」
「なあ、イッシー」
別のテーブルから藤井が呼びかける。
「なんだ」
「リブって魚っぽいよな?」
「そしたらさしずめ主翼は目刺しの串刺しか?」
「アタリ」
「ハァ。みんな聞かなかったことにしてくれ」
石橋はため息をついてまわりの1年生に言った。
* * *
第3話「リブはリブでも」につづく
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