厳しくも美しいカードゲームの世界観とゲーム的要素の絶妙な調和が魅力的!

 ある日、唐突に異世界に来てしまった主人公。死んだわけでも、神様に会ったわけでもない。なのに唐突に始まるキャラメイク。ひとまず召喚師の竜の少女を創造して転生してみれば、そこはよく知るカードゲームのフレーバーに描かれていたような、美しくも厳しい世界だった。

 仕方がないからゲームの知識を使って無双しますか、と思ったもののキャラメイクでとある勘違いと失敗をしてしまった主人公はパックを買うことができない──つまり、簡単に力を増強できないというハードモードで異世界生活をとくることになる。しかし、手元には頼りになる魔導書さんと、チートスキルで得た1枚の真っ白なカードあって…。

 一人称で読みやすい物語。最初、タイトルからカードを使ってプレイヤー同士が戦うのかと思っていましたが、違いました。例えば魔法であればカードを使って唱える。魔物であればカードという形で使役し、召喚して戦わせる。
 なので、「ドロー! 私のターン!」ではありません。ダークな世界観のもと、もっと自由で動的な物語です。それでありながらきちんとカードゲームをしていて(後述)、まずはその独特な世界観に魅せられるのではないでしょうか?

 描かれるのは、主人公である竜の少女が送る異世界での日々。ゴブリンやコボルトといった魔物はもちろん、エルフやハーフリングといったファンタジーでお馴染みの人々も登場します。

 本作の秀逸な点としてはやはり、“マナ”を使って呪文を唱え、様々な物を召喚することでしょう。ポーションなどの道具、バリスタといった武器、生き物まで…。状況に合わせて“デッキ”からカードを使う様は正しくトレーディングカードゲーム(TCG)のよう。カードの増やし方も基本的には“パック”を開封するしかない、というのもよりカードゲーム感を感じさせる要因かもしれません。

 しかし、そこには間違いなく“リアルの異世界”があって、カードでしかなかった魔物・人々には感情と命がある。その事実に困惑しながらも、対話を重ねて“生きている”相手(人や魔物)を知ろうとする主人公にはとても好感が持てました。

 制限があるとはいえ、魔法を即座に使えたり魔物を召喚したりと、チートであることには変わりません。仲間の魔導書さんと共に敵を殲滅していく爽快感。チートスキルにかけられた制限の中、逆境へと立ち向かっていくハラハラ感。クエストをクリアしてパックを開封したり、その過程で仲間を増やしたりするワクドキ感。それらが絶妙な加減で描かれていて、飽きることなく読み進められました。

 各種カードゲームの“フレーバー”に描かれた世界観とカードゲーム的要素をうまく融合させた異世界ダークファンタジー。
 カードゲーム(特にMTG)好きはもちろん、一味違った異世界ファンタジーを求める方にもおすすめしたい作品です!

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