夢と現実。境界線上で行なわれる恋人のフリは、甘く、爽やかで、どこか苦い

 欲望に忠実で、しかし、いざという時に少し引いてしまう…つまりは普通に普通の健全な(?)男子高校(童貞)が主人公のラブコメ作品。

 ある日、親しくしている後輩の女子──ヒロインから「付き合っているフリをして欲しい」と頼まれた主人公。彼は、自身が抱えるとある事情からヒロインの申し出を受けることに。こうして始まる“偽物の恋”には、不思議な夢と謎の少女が絡んできて…。

 「夏休みが終わったら──」

 そう語るヒロインの真意とは…?



 一人称の軽快な語り口で綴られていく本作は非常に読みやすく、物語のテンポも良いので、非常にサクサクと読み進められた印象です。それでいて、適度な描写もなされており、物語の情景を簡単に思い浮かべることができました。

 特に印象深かったのは、ヒロインの仕草や表情でしょうか。明るく活発なヒロインの一挙手一投足に主観である主人公がよく目を配っていて、笑ったり、怒ったり、おどけたり…。幼さを残しながらも、大人になろうとする。そんなヒロインの些細な仕草がよく描かれていて、ヒロインの魅力を目いっぱいに感じさせてくれます。

 それは裏を返せば、主人公がきちんとヒロインのことを見ているということでもあるんですよね。主人公自身は冗談半分でヒロインのことを褒めちぎりますが、やはりもう半分は本気なんだろうな、と。自然とそう感じさせてくれる描き方がなされているように思います。

 そうした“愛”が感じられるからでしょうね。ヒロインだけでなく主人公も、私は好きになれました。…うん、男子高校らしくて、とてもいいと思います!

 さて、そんな主人公とヒロインのラブコメのですが、タイトルも示しているように、始まりはある種、ラブコメの王道とも呼べる「恋人のフリ」からです。恐らくここから“本物”になるのでしょうが…。

 もう、ね…。始まりの時点で距離感が本物! なんなら夫婦! それくらい、二人の距離は近いです。そう、甘々です!

 ラブコメなので当然といえば当然ですが、それにしたって甘い。二人の掛け合いなんて、本当に、夫婦漫才です。お互いがお互いを思って、信頼しているのが伝わってくる。双方向の思いやりが垣間見られるラブとコメディに満ちた日常の積み重ねが、本作の魅力です!

 でも、不思議と胸焼けしないんですよね。むしろどことなく、さっぱりとした甘さをしています。だからこそ読みやすいんですが…。

 理由は恐らく、本作のもう一つの魅力である「夢」にあるのだと思います。

 ヒロインとの甘い日常にしばしば現れる不思議な夢と、夢に現れる謎の少女。彼女の存在が、甘さを適度に中和してくれる一方で、物語への興味を引いてくれます。どうやら主人公のこともヒロインのこともよく知っている素振りなのですが、その正体は果たして…?

 また、実はヒロインにも大きな謎があるんですよね。

「夏休みが終わったら…」

 彼女が語ったその内容の意味。そして、不思議な夢と、謎の少女の言葉。これらの不思議さがあるおかげで、ただ日常を描いただけではない。謎解きにも近い楽しさを覚えながら、飽きずに最新話まで読み進める事ができました。

 興味といえば…。実は本作、主人公の名前が不思議なまでに出てこないんですよね。私の記憶違いでなければ、最新話(15話)まで一度も出てきません。あらすじにも、人物紹介もない。ですが、きちんと違和感なく読み進められると思います。少なくとも私は、読み進めてからかなり経った頃に気付かされました。

 主人公以外の名前は、きちんとあるんです。ちゃんと作中で、主人公目線で紹介もされます。が、主人公だけは無いんです。真っ白です。それこそまるで、主人公の生きる世界そのものが夢であるかのような…。

 …となると、意図的と考えてしまいたくなりますよね。そうであってほしいと願ってしまうのは、私のわがままでしょうか。真相は、作者様のみぞ知る、ということで。こうしたギミック(?)にも思わずときめいてしまいました。



 きちんと王道甘々なラブコメをしながらも、夢と現実の境界がどこか曖昧な世界がただ甘いだけの作品に留めない。むしろ物語に幅と奥行きを持たせ、読者たる私をうまく惹きつけてくれる。そんな、確かな面白さも兼ね備えた作品だと思います。

 個人的にはやや男性寄りかなとは思いますが、どんな方にもオススメしたいラブコメ作品。必見です!