フォー・シーズン
「―――――見つけた」
王城の上空にて眷属たちを、鎧袖一触に無双をして十分を超えた時だった。
戦いの最中、アルマはある一点へと視線を定める。
王城の上層部だ。
戦闘中、複数並行発動していた術式のうち、探知のそれに反応があり、空で動きを止め、
「■■■―――――!」
「おっ?」
そこに大量の眷属たちが殺到する。
人型サイズのロボットが数百体。彼らは肘や足裏の加速器を吹かしながら、ただ速度を以てアルマに激突しに行った。
互いの激突や自壊すら無視した質量による圧殺。全方位からアルマへ集結し、空に巨大な球体を作り出し、
「しゃらくさいっ!」
虹と翡翠が駆け抜け、何もかもを吹き飛ばす。
その中心でアルマは拳を振り上げ、
「描け、≪
手を開きつつ、振り下ろす。
その先は、探知術式に反応があった王城の上層部。ゴ―ティアの瘴気に包まれたそこに対して、七つの筆剣が魔法陣を描き出す。
直径五メートルの複雑な文様が刻まれた法陣が一瞬で完成し、
「―――≪セプテム・コロル≫」
七色の収束砲撃が王城へと叩き込まれた。
その極光は、軌道上の周囲にいた眷属たちを掠めただけで蒸発させるが、
「あぁ?」
王城に直撃する直前、膨大な量の瘴気に受け止められた。
その瘴気は王城全体から放出され、すぐに形を得初める。
それだけではなかった。
周囲一体にはびこっていた大量の眷属たちは自ら王城に張り付き、取り込まれ、形成の一部となっていく。
結果、生まれたのは混沌の獣だった。
王城全体を包み込む瘴気から映えるのは大量の頭であり、手足であり、尾であり、翼だった。
様々な哺乳類も、虫も、魚も、人間も、あらゆる生命のパーツだけが生えだす集合体。
「……生命に対する冒涜というかなんというか。クトゥルフ系だってもうちょっとマシだろうけどね」
呆れ気味に呟けば、多頭が群れが一斉にアルマを仰ぎ見て、
「■■■――――!」
その口から瘴気による砲撃を吐き出した。
七十にも及ぶ光の柱は正確にアルマへと向けられたが、彼女は僅かに眉をひそめるだけで動かない。
代わりに筆剣が空を駆けた。
七重の魔法障壁が作り出され、押し込まれながらも砲撃を受け止める。
「ふむ。合計で七十……なるほど? ……おっ?」
砲撃の合計数にアルマが思考を巡らす中で、眼下、あちこちで大規模な爆発が起きた。
それは虹の光だったり、真紅の炎だったり、深い蒼光、黒白の暴風、赤黒の雷撃でもあった。
どれもアルマが感心するだけの威力があり、一つ一つが究極魔法か、それに近しいものだ。
だが混沌は、その表面を損なったに過ぎず、総体としては大したダメージは受けていない。
「はーん? 明らかに威力とダメージが釣り合ってないな。ゴ―ティアめ、また面倒なことを」
流石因縁の相手と言うべきか、対処の速さに舌打ちをしつつ、
「なら、こっちも手を変えるだけだ」
アルマは指を軽い動きで回し、転移門を開いた。
●
「はい、一旦集合! 作戦タイム!」
突然開いた転移門を潜り、御影が見たのは力強く言い放ちながら魔法を行使するアルマだった。
城の正門から数十メートル離れたところで、アルマは両腕にいくつもの環状魔法陣を展開しながら腕を広げる。
「おっ?」
声は同じように転移門から現れたウィルだった。
連られて見上げれば、空に何十枚もの翡翠の魔法陣が浮かんでいる。
空を埋め尽くすような魔法陣から一斉に鎖が伸び、瘴気の塊から生えている頭や四肢等に絡みつき、動きを止めさせた。
それを確認したアルマは一つ頷き、
「よし、これでちょっとは大丈夫。いいかい、みんな?」
自分たちを見回す。ウィルだけではなく、トリウィアやフォン、アレスにヴィーテフロアも転移門から現れ、カルメンとパールもいた。
トリウィアが空から伸びる鎖に目を細め、呆れ気味にため息を吐く。
「結界から発生させた拘束魔法ですか? よくもまぁ、これだけの規模の魔法を、無詠唱の無宣言で」
「僕の場合、指や腕が詠唱代わりって話しただろう? そういうことだ。ま、そんなことは良くて、状況が変わった」
アルマはウィルを始め、八人を見回し、
「僕らが景気よく連中の眷属を潰しまくったせいで、手口を変えてきた」
言った途端に、他の八人は顔を見合わせ、声を落としつつ、
「僕らがって……主犯はアルマ様じゃないかのぅ」
「私達は遠くから見てたけど、明らかに殲滅速度が違ったわよね」
「というか私達の倒した数全員合わせてもアルマのに届かないんじゃない?」
「私としてはマルチバースの技術に触れられたのでわりと満足できたから良かったですが」
「ははは! 謙遜が過ぎるなぁアルマ殿!」
「うんうん、そういうところが可愛いよね」
「この人たち、いつもこんな感じなんですかアレス。楽しいですねぇ」
「まぁ……」
「おっほん! 聞き給えよ君たち!」
大きく咳払いをしたアルマは、みんなの視線を集め、混沌の塊となった王城を人指し指で指す。
「あれは去年のクリスマスで僕らが戦った羽化体とさほど変わらない。ただ、強制多重召喚によって存在が重複したから、真体顕現が滞ってる。だから、羽化体の情報をあぁやって外壁に張り出して、一時的な防御にしているんだ。本体は、あの奥で情報統合と真体顕現を完遂しようとしているだろう」
言い切って、アルマは再度みんなを見回し、
「つまり、パワーアップするための時間稼ぎをしているというわけだ」
「なるほど」
御影は前半は半分くらいしか理解できなかったが、最後の一言で理解できた。
最初の解説を理解できたのはトリウィアくらいだろう。
だからと、アルマは言葉を続ける。
「まずは外壁に穴を開けて、ウィルとアレスが突っ込んでヘラ、ないしはゴ―ティアを物理的に消滅させてくれ。その間、外壁部分を残った僕らで消し飛ばす。内と外から、あいつを攻めるってわけだね」
「分かりました」
「…………良いんですか?」
アルマの指示にウィルはすぐに頷き、アレスは僅かに躊躇いを見せた。
言葉は、自分が本体を叩くという大役でも構わないか、ということだろうと、御影は推測する。
気持ちは分からなくもない。
だが、アルマは微笑みながら頷いた。
「いいさ。正直、本体倒すだけなら誰が言っても良い。なんなら表面の羽化外装を殲滅するほうが大変だしね」
だからと、彼女は言う。
「因縁があるだろう? 決着を付けてくると良いさ」
「―――はい。ありがとうございます、スペイシアさん」
「ん。ウィルも頼むよ」
「勿論です! 任せてください、先輩ですから!」
胸を張るウィルは可愛いなと御影は思ったが、アレスが半目を向けていた。
そこの関係性は、御影とウィルとはだいぶ違うので見ているだけで面白い。
「あの、アルマさん。私もアレスたちについていってもよろしいですか?」
小さく手を上げ、意見を発したのはヴィーテフロアだった。
「私はあまり殲滅力がありませんし、羽化外装を削るのには役に立たないと思います」
それに、と彼女はにっこりと笑う。
「私も、ヘラには因縁がありますので。えぇ、はい」
「笑顔が怖いな君は。いいんじゃない?」
苦笑気味のアルマは肩を竦める。
「こっちはこっちでなんとかしないとだし。君の先輩たちが頑張るさ」
「では、よろしくお願いします。先輩方」
「わぁ。私、先輩って言われるの初めてだ。ちょっとくすぐったいね」
「四月には何度も言われるようになる、慣れておけよフォン」
「私はウィル君の先輩なわけですが―――えぇ、任されましょう」
「おん? トリウィア? どこに張り合ったのじゃ?」
「はいはい、カルメン。そこの色ボケ恋愛雑魚は放っておきましょうね」
トリウィアが反論のために声を上げたがみんなは無視し、ウィルだけが慰めた。
結局トリウィアが満足そうにしていたので大したものだと御影は思う。
「それで、アルマ殿。まずはウィルたちを通す穴を開けるというがどうする? さっき≪神髄≫ぶち込んだが効いてなかったぞ? 単なる火力を上げれば良いのか?」
「あぁ。確かにかなりの強度だけど、一箇所に究極魔法をぶつければ足りる。僕も僕で最大火力出すし、君たちも同時に発動すれば問題はないはずだ」
「なるほど……なるほど」
うんうん、と御影は何度か頷けば、アルマは怪訝そうに眉を顰めた。
御影は、並んでいたトリウィアとフォンの間に割り込み、彼女たちの首に腕を回し、
「おや?」
「うわっ、ちょ、胸が顔に……!」
「先輩殿……今更他人行儀だな。トリウィア、それにフォンは……ほら、ちょっと背伸びをしろ。……よし、いいぞ」
思い切り引き寄せる。
互いの頬がくっつく距離になり、
「合体技、やるか」
御影は、言う。
「―――ほう」
「おー」
トリウィアのオッドアイとフォンの鳶色の目がきらりと光る。
「二人でずいぶん楽しんだらしいじゃないか。私も混ぜてくれないと寂しい。地味にウィルともまだだし」
「それはまた今度でね、御影」
「言質取ったからな? ま、今回は三人でやるとしよう。なんなら先輩方も混ざりますか?」
「冗談でしょう」
パールは苦笑しつつ、言葉を返す。
「あなた達ほど上手く合わせられないわ。それに、私では火力が釣り合わさなそうだしね」
カルメンも手の平を軽く振り、パールに続いた。
「わしも無理じゃの。他人に合わせるとか苦手だしのぅ」
「それは残念。ふぅむ。となると」
そして、最後に視線を向けたのは、
「………………なんだよ」
腕を組み、しかめっ面をするアルマだった。
つい先程まで全体に指示を出していた歴戦の強者のはずのアルマが、意地っ張りの子供に見えて御影はおかしかった。
「いや……そうだなぁ。うむ、何も無いか」
「はぁ?」
両隣のトリウィアとフォンが信じられないものを見るような目で見てきたが御影は無視した。
「だってほら。私達は火力が足りないからやるが、アルマ殿はそういう問題ないだろ? ん?」
「…………………………君ね、マルチバース広しと言えども僕をそういう扱いするの君くらいだぞ?」
「わはは、光栄だな」
笑い、
「だったらさらに調子に乗るとするか。どうだ? 私達はアルマ殿からすれば力不足も甚だしいだろうが、一緒に混ざりたいと思わないか?」
御影の誘いにアルマは唇を尖らせた。
眉を顰め、口を開こうとして閉じ、組んでいた腕を解いて、両手を腰に添えて、つま先で地面を何度か蹴る。
「……アルマ殿。どういう儀式だ。それも魔法か?」
「うるさいな……こういうの慣れてないんだよ」
頬を赤く染めてから、何度か彼女も咳払いし、
「まぁ僕だったら? 君たちに混ざらなくても、その気になればブラックホール生み出してこの街ごと消滅とかできるんだが……」
「それはいけません! だめですよそれは! どうか穏便に! 城の一部吹き飛ばす程度で済ましてください! これはマジのやつです、えぇ!」
みんながヴィーテフロアに半目を向けたが、笑顔で返された。
「…………まぁ、そういうことだ。だから、仕方ないね。無駄な被害を出さず、効率的にやるためにも。ここは力を合わせようじゃないか」
「つまり?」
「――――僕も、混ぜてくれ」
照れながらも言うアルマに、御影は自らの頬が裂けるんじゃないと思うくらいに歪んだのを自覚した。
●
「よぅし! アルマ殿の可愛い顔も見れたことだし、派手にやるとするか!」
「御影! 君は本当に! 君じゃなかったら次元の果てに追放してるからな!?」
「アルマさんも大概御影さん大好きですねぇ」
「というか今のは御影が意地悪が過ぎるんじゃないかなぁ」
四人は横一列に並んでいた。
既にウィル、アレス、ヴィーテフロアは上空に、カルメンとパールは後方で待機している。
前方には巨大な混沌の塊、ゴーティアの羽化外装がそびえ立つ。
未だアルマの拘束によって身動きを止められているが、
「拘束もそろそろ壊される。行くよ、みんな」
「承知!」
「ヤヴォール」
「是!」
アルマの声に三人は応じ、そして四人は揃って左腕を突き出した。
そこに浮かぶのは、魔力供給術式が施された環状魔法陣。
「術式拡張、意識共有深化、行程共有――――」
環状魔法陣にアルマがさらなる術式を追加し、四人は言葉を重ねた。
『――――≪オーロジウム・テンポルム≫!』
叫び、それぞれの手の中に光が形を得る。
それは懐中時計だった。
御影は赤、トリウィアは青、フォンは黄、アルマは緑。
四人の足元に巨大な、しかし外周部のみに術式が刻まれた簡素な魔法陣が浮かび上がる。
まず声を上げたのは御影だった。
「夏に盛り!」
時計を握り潰せば、赤の光が彼女を包み、足元の魔法陣に赤の刻印が刻まれた。
彼女は思う。愛しき少年に救われた夏を。
「秋に実り」
トリウィアが告げれば、青の光が彼女を包み、魔法陣に青の刻印が追加され、
彼女は思う。愛しき少年と結ばれた秋を。
「冬に安らぎッ」
フォンが叫べば、黄の光が彼女を包み、魔法陣にさらに色を増やし、
彼女は思う。愛しき少年と飛んだ冬を。
「そして春に巡り会う―――!」
アルマが結び、緑の光が彼女を包み、四色を宿した魔法陣が完成する。
彼女は思う。愛しき少年と出会った春を。
四人は腕を振り上げ、一歩踏み出した。
『四季を抱きしめ、真っ直ぐに! あなたの下へ!』
光が溢れ出す。
四色の光輝は溶け合い、混じり合い、虹色となって四人の前後、多重魔法陣を形成。
御影は、トリウィアは、フォンは、アルマは。
まったく同じ動きで、拳を振りかぶり、
『≪
叫ぶ。
声を、心を重ねて、
『≪エレクタ・アマヴィ・カレンダリウム≫―――――!!』
突き出した。
刹那、極光が解き放たれる。
御影の穢れ祓い、トリウィアの消滅、フォンの加速減衰、アルマの万物干渉。それら全ての特性を一つに融合させ、膨大な魔力によって統合収束された共鳴魔法。
虹色は突き抜け、ゴーティアの羽化外装に直撃し、
「――――!」
一瞬で突き抜けた。
王城を貫通し、さらにはアルマ自身が作り出した結界も貫いて、空に上っていく。
その光が大穴を作り出したのアルマたちは目撃し、
「頑張って」
誰もがそう呟きながら、大穴に飛び込んだ三人を見送った。
超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方 柳之助@電撃大賞銀賞受賞 @ryunosuke1213
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