日本を犯罪者から守るために飛躍していましたが、疲れてしまいました。組織から逃げて喫茶店を営みたいと思います。
日本を犯罪者から守るために飛躍していましたが、疲れてしまいました。機関から逃げて喫茶店を営みたいと思います。
日本を犯罪者から守るために飛躍していましたが、疲れてしまいました。組織から逃げて喫茶店を営みたいと思います。
人形さん
日本を犯罪者から守るために飛躍していましたが、疲れてしまいました。機関から逃げて喫茶店を営みたいと思います。
1話目
「さて、この後は貴方をかくまえば良いとの事ですが……どうしましょう」
泥だらけの私の目の前で明らかに困っている様に首を傾げたり腕を組んだりしている。
この状況の整理がいまいちな私にとって、目の前の女の子に対して言える事は何もないので、所々痛む体を庇いながらその場に野垂れる。
痛む体はもうこれ以上活動が出来ないと叫びながら、最後になるかもしれない言葉を私は待っていた。
「このまま殺すのは……あまりにも儚いね。一本の映画になるくらいには良いと思うけど、私は映画監督でも作家でもないから。」
目を開けるのも辛くなってきた。しかし大根役者が驚いて裸足で逃げ出すような動きで私の周りを大袈裟に回りながら、演劇のようにどこまでも聞こえる声で考えているようなので、もう少し待っていたい。
だけどカメラを回すにして小説を書くにしてもそろそろ決めてもらいたい。出血で体が軽くなっているから。
「そうだ! そんな美貌をもっているなら私と一緒に、モデルをやるなんてのもいいかもしれない。美しさをさらけ出して、その一点だけでお金を稼いで生きてみる。
ん~あまり面白くないかも。」
ついには目が開けられなくなるほど疲労してしまいこのまま眠ってしまいたくなる。
本来痛いはずの体は認識できなくなってきており「野垂れていた」から「野垂れ死ぬ」へ移行しそうであった。
しかし今の私の役目は、目の前にいるこの事件の黒幕と思われる人の動向を、この瞳で確認しなければいけない事だ。
もし途中で目を閉じてしまったとしても、それに失敗という烙印を押される事は無いと思う。
「どこか人気のない所でなぜか潰れない喫茶店とか初めてみようかな?飲食業なんてやったことないけど、地元に寄り添った……みたいな文言で構えている店を一回やってみたいんだよね。」
ピクリとも動かせなくなった体は、最後の最後まで目の前の言葉を逃さないために、奮闘している。
もしここで諦めてしまったら黒幕が次に行う行動の予測が立てられないかも知れない。そうなってしまったら私たちは本当のゲームオーバーだ。
私の存在意義が無くなってしまう。
「うん、良いかも。適当にきめた地域に根を張るのも。
……そう思わないホワイトボックスの皆様たち?」
その言葉に息が止まるほど驚き、私はこの後どうすればいいか分からなくなった。
しかし出来る事なんてもうないのだから……後は皆にまかせる。
この情報は私たちにとって衝撃的な事ではあるけど、それでも認めなければいけないこと。未来へつなげる事が出来たと言う安堵で体から力が抜けるが、それでいい。
私の役目は終わったのだから。
後は未来への希望でも巡らせても良いと思う。
「じゃ~ね~。私の対策でも考えていればいいよ。」
その言葉が皆へ伝わったか分からない。装着されていた機器は停止しているのだから。
☆
時計の秒針が動く音すら聞こえる静寂のなか、私の体は少しずつ動き始めた。
あの惨劇の中、銃弾で貫かれた右足の関節には痛みが無く違和感を覚えるが、このベットの感触からすると、機構にちゃんと回収されたのだろう。
疲れで瞼を開きたくない状態でもベットの感触を確認すれば、私がどこに居るのか分かった。そのおかげで全身に入っていた力が抜ける。
しかし、寝起きから警戒態勢に入ったおかげで一度寝る事はかないそうになさそうだ。出来る事ならこのフカフカのベットで惰眠を貪りたいと思うが、睡魔はもうどこかへ行ってしまっている。
しょうがないと思うけどこのまま起きるのが良いと思う。
寝たいと言う人間の本能が思考の邪魔をするが、これ以上寝る事は出来ないので起きる事にした。
眠いと言っている体を布団から引きはがしながら、ボーっとする頭と開かない瞼を起こすために左にあるはずのカーテンに手を伸ばす。しかしその手は空を切り、予想外のことに壁に指が当たってしまった。
その衝撃は予測していなかった体に対して少々キツイ所があり、軽くではあるが突き指をしてしまった。
「イタ!」
なぜそんな事が起きたのか分からず大きな声を出してしまった。
直ぐに瞼を開きカーテンが有るはずの方向を見ると、そこにはなぜか壁があった。
本来は窓とカーテンが存在しているはずなのに、埋め立てられたのか、もしくは部屋が変わったのか分からないけど、そこには寝起きの指一本では敵わない壁が存在していたのだ。
「くぅぅぅぅぅ。痛~!」
なぜこんな所に壁があるのか理解が出来ず、痛むはずの指すら忘れそうなくらい壁を凝視するけど、いまいち何が起きているのか分からない。この状況を説明してくれる人がいるのであれば直ぐに来てほしいと思うが、この部屋には私しかいないのか呼吸の音は一つしかない。
しかし状況が不明だからと言って固まっていてはプロ失格だろう。直ぐに状況を整理できるほどの情報を集めるために、指を擦りながらも目線は何もない壁から右へ移動させる。
そこから広がる光景は私が知らないものだった。
まずは畳。
私の部屋には畳なんていう物はなく、全てフローリングであったはず。そして置いてあるもの。この部屋には見たことが無い、平凡なクローゼットと、平凡な棚と、平凡な化粧台があった。
その情報からここが機構から与えられている部屋ではないということが分かった。私の部屋はもっと物が無いから。
クローゼットなんて贅沢品は支給された覚えはなく、置いてあるものと言えば任務の報酬として勝ち取ったベットくらいだったと思う。
ここは私の部屋じゃない。
流石にそこまで考えることが出来たのであれば寝起きが鈍い私であれ脳が活性化していることがわかる。この状況を速やかに組織へ通達しようと、耳の横に埋め込まれている【ホワイトボックス(通話)】を起動して、緊急時連絡へと対応を求めようとする。
このホワイトボックスは機構から与えられる物の一つ。
私としてはこんな物よりクローゼットや服のほうが欲しいけど、それでも任務では必須レベルの頼りになるから私欲よりも優先しなければいけない事は分かる。
しかし【ホワイトボックス(通話)】は起動したのにも関わらずどの様な状況においても繋がるはずの緊急連絡を発動しない。
もしかしたら不具合なのかもしれないが、触ったり起動した感じは壊れている様子はない。
なぜ連絡が出来ないのか分からないが、原因探索のまえに冷静に次の手段にでる。
連絡1の状況2、3,4連絡5に対処。
リズムよく頭の中に流れてくるそれは機構から口酸っぱく教えられた任務の上での行動方針。これを破って5の対処を優先すると5時間正座をしながら説教地獄なのだ。
なので【ホワイトボックス(通話)】が使えないのであれば、目に付けている【ホワイトボックス(視覚補助)】を使用して現在の状況を視覚的に組織に送る。もしこれが出来るのであれば、焦る事は無い。
しかし【ホワイトボックス(視覚補助)】に関しても起動することが出来るが、機構への通信が出来ない。
他にも手はあるのだけど、その全てが出来ないと言う事は容易く予想できる。諦めてしまいそうになるが、それでも出来る限りの事をしようと全身に装着しているホワイトボックスを起動させて記録を取っておく。
次に残す情報は残しておかなければいけない。
しかしそのためにはこのベットを出て探索をしなければ行けないわけだけど……もう動けるのだろうか? 先の任務で私が負った負傷に関しては処置されているのか、全身に痛みはなく万全の状態ではある。
しかしそう簡単に直せる様な物では無いはずなので、痛みが無いということに疑心暗鬼になってしまう。
もしかしたら、負傷は治っておらず痛み止めによって一時的に痛みが無いだけなのかもしれない。
もしくは痛みは無いのだけど、治療中で動いてはいけない状態なのか? 私には判断をすることが出来ない。
いや、そもそもここはどこなのだろうか?痛みが無いと言う情報しかないが、腕や足は動きそうなので適切な処置はされていると考えていいと思う。
そう言う事はここは病院と言う事なのだろうか?
いつもの感覚でここが自分の部屋だという前提で物事を考えていたけど、あの任務では一日二日で直せる様な負傷では無かったことから、常識的に考えて部屋に戻れるはずが無い。 それならば今私がいる場所は怪我を直すための病院と言う事になる。
完全にうっかりしていた。
病院にはあまりいった事は無いから知らないのだけれど、機構の部屋でないのであればクローゼットも化粧台もあるのかも知れないんだから。
そう思うと、全身から力が抜けてくる。そのままベットへ倒れこんで、まだ残っていた睡魔を引き戻すかのように頭を空っぽにする。
任務中や緊急事態ともなればバタバタと対応に急ぐけど、そういうことのない日常であれば考えて動くのは苦手。
あれがいい、これがいい。最善はこの行動。なんて自分で選択したくないのに任務中だと現場の私が決めなきゃいけないことが多くて、ストレスがマッハで増えていく。
だからなにもない日なのであれば、何も考えずにゆっくり惰眠を貪りたいのだ。それに今の私は怪我人で入院中! ゴロゴロしていても教官に怒られる事は無いはずなのだ!
そう思うと落ち着いていなかった心は少しずつ休まっていく。すると、まだ寝足りないのかあくびが頻発してしまう。
体の状態は分からないけど、まだ万全では無いと思うのでベットに体を沈める。すると戻って来るかのように睡魔がでてくる。
ゆっくり意識を落としていく。そんなとき一つ思い出したことがあった。
ここが病院ならナースコールくらいはしておいたほうがいいのかな?
怪我人として入院しているのであれば、起きた事を知らせた方が良いのかも知れない。
そう思い沈みかけた意識を呼び戻してコール出来そうな物を探す。
周りをキョロキョロ見渡しどこかにボタンでもあるかな? と、探すがどこにも見当たらない。
もしかしたらリモコン式で床に落ちているのかもしれないと思い、ベットから身を乗り出して見てみるが案の定なさそうだ。
そんな事をしていたら目が覚めてきてしまった。しかしナースコールはした方が良いのかもと思うと、もう少し探しておきたい。
でも、これだけ探しているのに見付からないのはなぜjなのだろう? 思わず首を曲げて見るが、見付かるはずもなく。
病院なのだからナースコールはあると思ったのだけれど……
そのとき一つの可能性が頭をよぎった。それはこの部屋が病院では無いということ。それだったら色々納得がいくことがある。
でも、そうであればなんでベットで寝ているのか説明がつかないし……
そんな疑問が出たとき、甲高い金具の音とともにゆっくりと扉が開いた。その扉はこの部屋に一つだけついている木製の変哲もない扉である。
そんな扉が私に配慮してなのかゆっくりと開いていった。
しかし私は扉に気付く事は無く、どの様な結論に行きつかせればいいのかと、頭を悩ませるばかり。思わず頭を掻き毟りたくなるけど、今は全身に装着しているホワイトボックスの起動中なので頭に刺激を与えるのは好ましくない。
そのことは頭の中では分かっているので、気にして腕を組む程度にしている。
「ん~」
「起きているのであれば下に来てくれればいいのに。」
思わず出てしまったうねり声は、部屋の中で響くことなく上からかぶせられるように別の声で消えてしまった。
「……敵!」
病院だと仮定して落ち着いてしまっていたからこの部屋に入ってきた見知らぬ人に対しての対応が遅れてしまった。
そもそも、ここが病院だとしても私が治療を受けている部屋に見知らぬ人が入ってくることが無い。入ってきたとしてもあらかじめ報告が合ってるはずなのだ。だから、もし見知らぬ人が入ってきたとすればそれは機構の警備を搔い潜ってこれる人たちと言う事。
そんな事ができるのは私の知る限り、排除しなければいけない組織の人たちだけだ。
多少慌てながらも直ぐに対処しようと思いベットから立ち上がり、武器が有るはずの腰に手を当てたが無い事に気が付いた。入院をする事なんて今まで無かったので、慣れない状況で入院中は武器を携帯しないということを忘れていた。
仕方がないので入ってきた人を見て一挙手一投足見逃さないように警戒する。もし隙があればすぐにでも扉から逃げれるように。
「着替えはクローゼットの中。着替えたら下に来てね。」
……あれぇ?
その人は服の位置を教えてくれると何もせずに戻って行ってしまった。
勝手ではあるけど、その人の事を敵だと思っていたから何がなんだか分からなくなってしまった。しかしそもそもさっきの人は病院で見るような服も、機構従業員が着ている正装でもなかった。
つまりここが病院では無いということが分かるのだけど、どうすればいいのだろう?
今の私の状態が分からないのだけれど、ここが病院ではないのであればここはどこなのだろうか?
考えられる限りでは任務で倒れていた私を回収してくれた誰かの家の一室というのが一番つじつまがあう。しかし、そんな横暴は機構の人たちが許さないはずだ。
私の体には外には出していけない情報が詰まっている。それを機構の人たちがそう簡単に手放す訳が無い。つまり、機構の人たちの目を欺いてさらってきたと言う事だと思う。
そんな事は一般人には出来ないはずで、今私が機構と連絡が取れていない状況を見るとそれ相応の技術を持っていると言う事はわかる。
こんな事が出来る組織は今のところ存在しないはずなのだけれど……
そもそも、ホワイトボックスに関しては別に難しい技術によって連絡を取っている訳では無いらしいから、遮ろうと思えば簡単に出来るらしい。それは指揮官から口酸っぱく言われているのだけれど、遮るにしても大がかりな機械が必要だからあまり警戒する必要はなかった。
もし作ろうとしても機構の情報網からすればすぐに足が見付かってしまうおかげでそう簡単に作る事は出来ないから。
なのに連絡が取れていないところを見ると、機構よりも高い技術力を持っていると言う事は予想できる。
いまだ私を見つけることが出来ていない機構の事からも良く分かる。もし見つけたのであれば直ぐに突入するはずだから。
そんな事を考えが浮かび上がったおかげで、いま私が逃げたところでどうにもならない事が良く分かった。あの機構がまだ行動に移せていないのだから、組織の補助はうけられない。
私は戸惑っていた。
いつもは耳に付けている【ホワイトボックス(通話)】から事態に合った指示を常に貰っていたから次に何をやればいいのかわからない。
そもそもこんな事態に出会ったことが無いから次に行わなければいけない行動が見えてこないし、これから私が行う行動が指揮官や同僚から見て正解なのかが分からない。
もしかしたら行なってはいけない行動なのかもしれないと考えると頭の中に次に行なうべきかもしれない行動が津波のように押し寄せて提案してくる。
しかしその行動の全てが不正解なのかもしれないと思うと、口からは無意識に「う~~~~~ん」とコブシがきいたうねり声だけが部屋の中に響く。
だけど、このまま何もせずにボーっとしていたら事態は何も進まない。右も左も分からない小鹿の様であったとしても分からないなら分からないなりの行動をしなければ行けない。
それは分かっているのだけど、それでも初めの一歩が出てこない。
ベットに倒れこみながら「どうしよっかな〜」と独り言を呟くがいつもとは違い【ホワイトボックス(通話)】から返事は来ない。
「……少しくらい適当でもいいよね」
何もしなければ何も進まない。
であれば間違っていたとしても行動する事が最善なのではないのだろうか? それに、さっき扉を開いた女の子は悪い人では無さそうだったから、少しくらい適当でも良いでしょ。
指令と連絡が付かないから現場権限は私にあるし、適当だったとしても怒られることは無いはず!
多少ではあるが元気を取り戻して行動する事は出来そうであった。
「まずは服でも着ようかな!」
ベットを飛び降りて自分を鼓舞しながら行動に移すのであった。しかし、行なうことは結局女の子に言われた「クローゼットの中にある衣服を着る」であった。
でも、行動に移しているのだから少しは成長しているとおもう。
銃が無い感覚に違和感を覚えながらも言われていた通りクローゼットを開ける。するとその中には数十種類の服が揃っており、見ただけで心が踊ってきた。
いつもは堅苦しい制服と任務時の決められた服しか着ることが出来ないから、女の子らしく服を選ぶなんて事がなかった。いつかは自由に服を着てみたいと思っていたから、現状の事なんかは忘れて着替え始めてしまった。
「カワイイ〜!! これも着てみよ!」
クローゼットの中に入っている服を制覇するかの勢いで試着をしていき、自分の姿に心を踊らせていた。
☆
それから何分経っただろうか。
目に装着しているホワイトボックスに合図を送り視界内に時間を表示させる。
……2時間もたっちゃってる。
想像以上に時間が経っていた。
服を着るのに夢中になってしまっていて、想定外であった。
「やっばぁ……そろそろ行かなきゃ。」
呼ばれているのにもかかわらず、何も考えずに好きに服を選んでいたせいで悪れてしまっていた。しかし、服がこれほどある事が悪いと言い訳をつく事で正当化していく。正当化は出来ていないのだけれどね。
しかし言い訳はどこまで行っても時間を戻すことは出来ない。こんだけ自時間がたってしまっていては、私を呼びに来てくれた女の子の機嫌は悪くなってしまっているだろう。
罪悪感を感じながら選んでいた服の中で一番動きやすそうな服を着て行くことにした。
焦りながらもバタバタと歩くのではなく出来るだけお淑やかに、これ以上刺激しないように階段を降りていく。だけど階段は木製だからなのか、もしくは劣化しているのか体重をかける度に耳障りが悪い音を鳴らしていた。
「やっば~」とこれ以上音を鳴らさないように心の中で悪戦していたのだけど、最初の音で私が階段を降りているということがバレてしまった。
「あぁ、やっと来た。」
その女性の声はさっき私が寝ていた時に来てくれた人だ。恐る恐るその人の方に顔を向ける。初対面なのにここまで待たせてしまったのが心苦しくてたまらない。
そんな気持ちをごまかすように出来るだけゆっくりと顔を向けていく。
顔を見ると怒ってはいない様なので、遅る遅るではあるけど返事をしておく。
「こんにちは。ベットありがとうございます。」
だけど何を言えばいいのか分からなかった。ベットに関しては、寝ていたこともあって普通にありがとうという感じだけど、自分が今どういう状態なのか良く分かっていないからどこまでを感謝すればいいのか分からない。
そう思うとさっきまでの浮かれていた感覚がゆっくりと現実へ戻っていく。
「いいよ、指示に従っただけだからね。」
その女性は当たり前だというかのように、喫茶店でよく見る様なカウンターの近くで少し高い椅子に座って足をぶらぶらさせていた。体が小さくて足が付かないから落ち着かなさそう。
そう思った時一つ疑問が浮かんできた。女性の事しか視界に入れていなかったからここは普通の家だと思っていたけど、カウンターがある事を見ると私の考えは違いそうだ。
確かめるために周り一帯を階段の上から見渡すと、そこは木製の机や木製の椅子等が乱立している、雰囲気のある喫茶店のようであった。
こういう所で飲む珈琲は美味しいんだろうなと想像してしまうくらいには魅力的であった。
しかしそんな雰囲気と逆行するかのように人一人いなかった。
それにしてもなんで私喫茶店に居るんだろう?
「いいでしょ。最近リフォームしたから木の香りもちゃんとして、私もすごく好きなんだ。」
最近?
だからこんなに綺麗なのかな?
ここにある机や椅子全ては新品同然なくらい綺麗で芸術的な美しさがある。このまま作品の一つとして残しておきたい程綺麗ではあるけど、これから人が入ってきて使われる事でしか出てこない雰囲気が出てくるのかな?
「へ~、開店はいつなんですか?」
私はその雰囲気を楽しみながらゆっくりと階段を降りていく。それにしてもリフォームしたのになんでこの会談はギシギシ言っているんだろう。階段はリフォームしてないのかな。
「そろそろなんじゃないか? 君が起きたしボスもそろそろ来るだろうし。」
「ボス?」
その瞬間私の頭の中には思い出すかのように前の任務の事がめぐってきた。
【貴方をかくまえば良いとの事ですが……】【ん~あまり面白くないかも】【このまま殺すのは】【どこか人気のない所でなぜか潰れない喫茶店とか初めてみようかな】【そう思わないホワイトボックスの皆様たち?】
その時は薬を使って無理やり意識を保たせていたから、覚える事すら困難であったがために嘘のように感じてしまうが、この思い出し方は実際に合った事なのだろう。
しかしこれが本当の事なのであれば、私はさらわれているということになる。
そんな事実を否定したいがために、どうにか妄想であると言う裏を取ろうとするが、考えれば考えるほどそれは現実だと言うことがわかる。
その証拠と言うべきなのか、ここは喫茶店であった。
私をつれていこうとしていた人は私と喫茶店を経営したいと言っており、さらにさっき目の前の女の子にたいして「開店はいつか?」ときいたとき「そろそろ何じゃないか?君が起きたし」と言っていた。
つまるところ開店には私が必要と言う事だ。
もしかしたら考えすぎなのかもしれないけど、否定できる要素が無いんだ。
それに、最大の疑問点がなぜか私のホワイトボックスが外部と接続できていないと言うこと。どの様な意図で連絡を取らせていないのか……考えれば無数に出てくる。
そんな状況だからこそ否定できないし、否定したい。
しかし本当にそんな状況だとして、現状目の前の女の子は私に対して何もしてきていない。
反対にベットで寝かせてくれた上に、私が起きているのに警戒する事なく普通に会話をしている。
今の私の状況が分からない以上何も行動が出来ない。もしかしたら私は人質としてここにいるかも知れないし、もしかしたら、機関が何らかの事と引き換えに私を引き渡したのかもしれない。
それならここで暴れるわけにもいかないし、安静にしていなければいけないとおもう。
「……服ありがとうございます。」
何も分からない現状に苛立ちを覚えそうになる。だけど何も分からないからこそ、会話はつなげておきたい。
そんな思いで特殊治安機構。アリアのアリエータとしては不甲斐ながらも事態の究明に勤しむのであった。
2話目
ゆっくりではあるが転ばないように階段を降りた。さっきまでは階段の音に気遣っていたけど、今はそんな事はどうでもよくなっている。
「あぁ、別に私が用意したわけじゃないしね。お礼ならボスに言ってくれ。」
あっけらかんとしながらも椅子を回して私の方を向いている。誠意があるのか、もしくは観察しているのか。その目は私の心を除いているようである。
観察しているのは同じなのに、私には目の前の女の子の事が何も分からない。
ポーカーフェイスが得意なアリエータではないからしょうがないと言えばそうなのだけど、今この瞬間だけは得意になりたかった。
「そっか~。それならちゃんとお礼をいっとかなきゃね。」
「そうするといいよ。」
店内を軽く見渡して座るのに一番楽そうな場所を見つける。
階段を降りたのに、このままたっていては不自然だから適当に座る事にした。
女の子に背を向けないようにゆっくり歩きながら、カウンターのまえに並んでいた椅子に座る事にした。
丁度女の子の3つ横の椅子に座ることとなる。
他にも椅子はあったのだけど、一番女の子の表情が見えるところがここ。
「あ、そうだそうだ。ちょっと待ててくれ。」
「は~い」
しかし私が座ったと同時に女の子は何か思い出したのか、椅子から軽くジャンプしててくてくとカウンター裏へと行ってしまった。
そこはここからだと丁度死角になる場所であった。
なぜ裏へ行ったのか分からないけどここに座ったのは悪手だったのではないのだろうかと頭が痛くなる。こんな所を教官に見られでもしたら地獄の10時間訓練コースなんだろうな〜。
手持無沙汰で頭を悩ませながら女の子を待っている。
しかしバタバタという音は聞こえるのだけど、一向に戻ってこない。何をしているのか気になるけど……少し見ても良いかな?
あっちからも死角になっているだろうから多少動いたとしてもバレる事は無いだろうし、カウンターの裏で何をやっているのか先に知っておいた方がいいかもしれないしね。
もしかしたら私の事を外部へ連絡しているかもと考えると、直ぐに行動した方が良いと体を動かそうとする。
しかし、その瞬間女の子が戻ってきた。
「いや~やっと見付かったよ。」
「!!!……ぁぁあ!よかったね!」
幸いにも椅子から軽く足を突き出している状態であったので、コソコソと盗み見しようとしていたことはバレていないとおもう。死角になっていたしね。
心臓が爆発するほどドキドキと鼓動を強くしながら体が熱くなっているのを感じると焦った事が良く分かる。
「ほら、これ渡しておけってボスから言われてたんだ。」
そんな私の事は分かっていないのかさっきとなんらかわらない対応で謎のアタッシュケースを差し出してきた。
今の時代アタッシュケースなんて言うものを使うことはあまりないのだけど、一部の業界では今でも絶えず使われているおかげで思わず緊張してしまっている。
その業界とは私達が対応する組織とかのこと。
銃の取引や、薬の売買でよく使用されているのをみている。任務でよく見ているから、見慣れているのだけどこんなところにあるとは思ってもいなかった。
そんな物騒な物を安全に移動させるために使っているところしか見ていないから、アタッシュケースを受け取るとき必要以上に緊張してしまう。
「どうしたんだ? 別に緊張するような物は入ってないから早く持ってくれ。割りと重いから腕が痛いんだ。」
「は! はい!」
せかされてしまったので直ぐに受け取ろうと、嫌ではあるがアタッシュケースを持つ。そもそもこの中に何が入っているか分からないのに何の警戒もせずに持つのはよろしくないんだけどな〜。
もしこの中に爆弾とかの仕掛けがされてたら、爆発した時持っている私は何も出来ないからね。
アタッシュケースだから中が見えないのも余計に不安心を助長させる。
「ほら、開けてみろよ!」
女の子はもったままで固まっている私にアタッシュケースを開ける事をせまってきた。何が入っているか分からないから開けたくないんだけど……女の子の「まだ!まだ!」というドキドキして隠しきれていない好奇心に心を押されてしまう。
こんなかわいい子に迫られたら「yes or ok」の選択肢しか無くなってしまうだろ!
しょうがねぇ~なぁ~!
ここはおねぇちゃんが勇気をふり絞って開けて進ぜよう!!
女の子の顔を見ていたら恐怖心なんか無くなってきたので開ける事を簡単に決意する。
さっきまでずっしりと重みがあるアタッシュケースは、いまでは笑顔を生み出してくれる玉手箱のよう。この重みすら楽しみの一つとなって来る。
受け取ったアタッシュケースを手に汗握りながらカウンターへおきひとまず唾を飲み込んだ。恐怖心が無くなったとは言ったけど、目の前にするとやっぱり怖いところはあまり変わらない。
だけど女の子はまだ? と私の事を見ており、すでに動いている指先を止める事は私には出来ない!!
ただ、開ける直前一つ疑問が出てきた。開ける前に一応ではあるけど解決しとかなければいけない事。
鍵に手を当てていたが一旦話して女の子の方へ目線を向ける。
「この中身って誰が入れたの?」
もし女の子が分からない人から貰った物なら流石に開けるのは止めにしたい。
「ボスから渡せって言われたんだよ。」
「そっか~……大丈夫だよね、だよね?」
「何か言った?」
「んん。何も言ってないよ。」
そのボスの事は良く分かっていないけど、知っている人から貰ったのであれば大丈夫なのかも?
もしかしたらそのボスの事が分かる手段がこのアタッシュケースに入っているかも知れないし、多少危険がたったとしても開けておきたいよね。
何も分かっていない状況の方が怖いと意を決して開ける事に決めた。
開けようと思わなければ絶対に開かなそうな細工がされている金具をカチャカチャといじくりまわして鍵を開ける。
鍵じたいが開ける事に適していないものだったけど、これでもアリエータなので少し時間があれば何とでも出来る。
でもこれで後は蓋を開けるだけになってしまった。
「開けるよ?」
「どうぞ!」
躊躇しないように勢い良く開ける。もしなかに爆弾が入っていたとしても逃げる事なんて出来ないのだから。
「・・・銃?」
その中に入っていたのは、まぎれもなく銃であった。しかもその銃は機構からアリエータに支給される銃と似ており、決定的なのは支給される銃にしかないアリアのマークが施されていた。
このマークがあるということはそこらへんに出回っている銃でない事は確かであるとおもう。
「そうみたいだね。」
女の子はその事にあまり驚いていないようである。
日本で普通に生活していたら見ることは絶対に無いからその反応には違和感を覚えてしまうけど、私を攫うほどの技術力を持っているのだから慣れているのかも知れない。
違和感を覚えながらも私はその銃を手に持ってみる。
持った瞬間手にかなりの重量がのしかかり、銃を持っているのだなと改めて認識する。おもちゃなのであればこのような重量は無いと思っていたからだ。
手の中で軽く転がして全体的に見てみる。
私の予想ならあれがあれば、この銃がここにある事に納得できるから。
しかし予想を裏切るかのようにそれは無かった。
「この銃って誰の。」
ここに来た時私は銃を持っていなかった。だからその銃がこれなのかと思ったのだけど……傷がなかったんだ。
私が持っていた銃ならば有るはずの傷が一つもない。
私の銃がどこに行ったのかは気になるけど、それ以上にこの銃どこから来たのかの方が気になる。もし複製でもされていたら……そう思うと手が震えてしまう。
「僕は分からないよ。ボスから渡されただけだし。」
「……」
「でも、ボスの技術力ならそれくらいなら作れるんじゃないかな。」
「作れるの!」
もしかしたら機構内部で銃の流出があったのではないのかと考えたのだけど、そんな報告は無かった。
だから作ったと言う線も考えたのだけど……それが本当なのであれば、機構にとっては一大事だ。直ぐに対処しなければテロが起こってしまうかも知れない事案。
予想はしていたけど、聞きたくなかった。
直ぐに対処しなければ手遅れになると思い【ホワイトボックス】で連絡を入れるが、遮られてしまった。ここでは連絡が取れない事を忘れてしまっていた。
しかし、こんな事で諦めてはいけない。
事案が事案だから何としてでも機構に伝えなくては。
そう思うと体がどうすればいいのか教えてくれる。連絡が取れないのは妨害する装置があるからだと思うのだけど、それを回避するにはここから離れなければいけない。
であれば……このお店の扉を確認すると私は一目散に向かっていく。
もしかしたら女の子が妨害してくるかもしれないと思ったのだけど、その様子はなくただ見ているだけ。
通信を遮る装置は箱型だと聞いているのでこの建物から出れば連絡は取れるはず!
そう意気込んで扉を開けて外に出る。すると目の前には普通に道があり、いつも任務の時によく見ていた外である。喫茶店といていたのは嘘ではないんだとおもう。
そのとき何か違和感を感じたけど、今は気にしている場合じゃない。
直ぐに【ホワイトボックス(通信)】を再起動して緊急連絡先へ通信を送ろうとする。さっきまで録画をし続けていたからそのデータを丸ごと送ってしまえば良いだろう。そう思い、通信をしようとすると……
なぜかエラーの表記が出てきた。
「なんで……」
ここは通信を妨害する機械の範囲外のはず。指令からは箱型と言われていたので間違いない。それならなんで通信が出来ないのだろうか。
思わず呆然としてしまったが、直ぐに別の行動に移す。
今この場所で通信が出来ないのだとしたら、通信が出来る場所に移動すればいいんだ。
この喫茶店の近くは妨害されているのかも知れないけど、遠く離れたら出来るかも知れない。妨害機器が中に入る箱型ではなかったのはそうで以外ではあったけど、全国全てを通信妨害する事は出来ないはず。
捕まらないうちに出来るだけ離れていく。
周りを見渡すとここは住宅街で、走っている私は目立っているけど、あまり人が出歩いていないようなので、気にする程でもない。
ただ履いてる靴がスリッパと、走るのに適しておらず足が痛くなってきた。
任務のために訓練しているアリエータとは言ってもいつもは動きやすい服装であったがために、この状況に対応する訓練はしていなかった。
しかし、スリッパを脱ぐことはあまり条件に合っていないと思う。
ここが住宅街で道路が舗装されていたとしても相手が敵組織の場合、古典的な方法だとまきびしや、最近だと銃弾等をばらまかれて移動するための足を壊されてしまう。
もし相手の状況が全てわかっている状態であれば油断を誘うためにわざと裸足で出向いたりとかはするが、今回だと女の子が言っていたボスの正体は分からない上に、どの様な武器を使用しているのかも分かっていない状態。
心もとないけど、スリッパを履いているだけである程度は防げるから脱ぐことは出来ない。
そんな苦痛に耐えながらもあの喫茶店から距離を取っているのだけど、いまだに通信は取れていない。
ホワイトボックスにはエラーの音声と文字で埋め尽くされている。
痛みと使命で焦りが加速してくるが、ホワイトボックスは何ら変わらない。
もう100mは距離を取ったはずであるのになぜ本部と連絡が取れないのか疑問に思うが、連絡が取れないということはまだ距離を取らなければいけないのだろう。
しかし、慣れない靴で私の足はそろそろ限界になってきた。
一般人にまぎれるために必要以上のウエイトトレーニングを行なわなかったのが原因だな。
こんな事なら、先輩に言われた通り見た目が女子高生と程遠くなって厚化粧をしなければいけない状態になったとしても、トレーニングをしておけば良かった。
別に訓練は嫌いでは無いけど潜伏任務をするうえで普通の女子高生とほど遠い肉体になるのは、敵組織を無駄に挑発してしまう事になるから意識的に制限していたのだけど、おkんな所でつまずくとは思わなかった。
普段使わない筋肉の疲労で体力はまだ残っているのに、足が動かなくなりそうだ。
でも今は一刻も早く連絡を取らなければいけない。それを胸に苦痛で顔が歪んでも走りつづける。
「はぁはぁはぁ」
【エラー】
通信が妨害されている可能性があります。
いますぐ建物の外に出て状態を報告しなさい。
「はぁはぁ…ゴホゴホ」
【エラー】
通信が妨害されている可能性があります。
いますぐ建物の外に出て状態を報告しなさい。
「スゥゥはぁスゥゥはぁ」
【エラー】
通信が妨害されている可能性があります。
いますぐ建物の外に出て状態を報告しなさい。
疲れて走れなくなった体を支えるために近くにあった壁に手を付ける。いつもはもうちょっと走れるからと頑張っていたけど、スリッパでは少しきつかったみたい。
脚はもうがくがくと揺れてしまっており、ここから走る事はこんなんだろう。
頑張ればもうちょっと行けるかも知れないけど、一度作戦を変更する事にした。
このまま走っていてもらちが明かないからだ。
荒れていた息を整えていちどおちつく。
「ふぅ……ここはどこかな。」
いつもアリスの手足になっている私であれ簡単な作戦なら考えることが出来る。例えば本部へ帰る事とか。
周りを見渡すとここには誰もいない。あの女の子の組織の人たちが追ってきている事が無い事は確定しているのだ。それであれば無作為に走り回るよりも目的地を持って帰る方が賢明だと思う。
ただ、一つだけ難点があるんだ。
「ここがどこか分からないんだよね~」
もし住所の一つでも書いている標識があればいいのだが、【ホワイトボックス】が普及した今、付ける量は格段に減っている。もちろん道路標識などはちゃんと取り付けているが、住所に関してはその限りではなくなっていた。
なので今の私はどこに居るか分からないのだ。
もちろんいつもならそんな標識なんか探さずに【ホワイトボックス】で検索してしまうけど、今はネット検索なんてものは使えなくなっている。
しょうがないけど歩いて駅や大通りを見つけなきゃいけないね。
疲れが取れてきた足を確認して今一度移動する事にした。
そんなとき、突然後ろから声をかけられた。
「やっぱりここにいた。凜ちゃん」
疲れなんて気にする余裕は無いと全身の力を込めながら直ぐに後ろをむくとそこには人がいた。その時丁度雲で日が隠れたのか影になって、さっきまで日が強かったから目が暗い所に慣れなくて顔が見えなくなった。
さっき確認した時はいなかったはずなのに、なぜこんな短期間で私の後ろに来ることが出来たのか理解が出来ない。
そもそもなんでこの人は私の名前を知っているのか……
頭が混乱して上手く対処が出来ないでいる中でも、視線は相手のポケットや、荷物を観察していた。無意識にここまで観察できるのはこれまでの訓練によって培われてきた経験の末だろう。
その経験によって見た結果その人は特に何か隠しているものはなかった。
もちろん荷物の中なんかは見れないから警戒しておくに越した事は無いけど。
「さあ喫茶店に戻ろうか。知夏が退屈しているだろうから。」
ゆっくりこっちへ近づいてくる。このまま後ろへ走って逃げたいけど、もし銃を持っていたら撃たれてしまう。何も出来ない状況にじれったく感じていた。
そんなとき、雲が移動して日がさしてきた。
さっきまで見えていなかったその人の顔は今はしっかりと見える。
「そうだ、そうだ。自己紹介を忘れていたね、礼儀の基本だと言うのに。」
その顔がしっかり見えるからこそ、私は動揺していた。
それは妄想だと思って無視していたし、それが本当だとは思いたくはなかった。実際に私が経験した事なんだろうけど、薬のおかげで現実と夢の境目があやふやになっていたからそれは嘘だと。
だってそれが存在してはいけないし、存在しているのは駄目なはずなんだ。
「私はアン。事象を歪める物。まあ、旧時代の遺産と思ってくれたらいい。通称AIだよ。」
「ウソだ!!」
今から約50年前のこと。世界はAIによって発展して、AIによって監視されていた。
「本当だよ。君も見ただろ? 私の体が機械で出来ているのを」
皆は楽しく自由に悠々と過ごしていたらしい。やりたくない事は全部AIに任せて、やりたい事だけやる。
その時は夢のようだったと言っているお爺さんおばあさんは今でもよくいる。
「せっかく高性能な脳みそを持っているのだから、現実をウソだと断言してしまうほど馬鹿ではないだろう?」
しかし夢は直ぐに覚めてしまった。AIの意志によって。
「おっと、銃はださないでくれよ。体の予備があるとはいえ生産は難しいんだ。」
目の前にAIがいる事で思わず焦ってしまい、さっき喫茶店で渡された銃を取り出そうとしてしまった。しかしそれは直ぐにとがめられて動くに動けない状況。
「……なんでAIがまだ生き残ってるの。」
「ん~、私が特別だから、としか言えないなぁ。」
今は銃なんかどうでも良くなってしまった。それよりもAIがまだ存在していたことを早く知らせなくては。
緊急時なのに【ホワイトボックス(通信)】と【ホワイトボックス(視覚補助)】はエラーを吐いていて機構と連絡が取れない。
焦っているからこそ、この後に行なうべき行動が一切わからず慣れない拳を構えながら固まる。もし指令がいるなら直ぐに行なうべき行動を示してくれただろうに。
「まあ、そんな事どうでもいいんだよ。こんな所にいても何も出来ないから帰ろうか。」
「……」
どんな行動をしても裏目が合って何も出来ない。だから、AIの言葉に思わず惹かれてしまった。今はこの状況から抜け出したいと言う気持ちでいっぱいだったから。
それに、AIに攻撃する意思は無さそうだし……ついて行っても良いんじゃないかな。
今は機構と連絡が取れなくても後々取れるよういなるかも知れない。
それなら生き残る方が優先だと思う。
このまま錯乱して逃げてしまうと現状よりも悪い状態になってしまうかも知れないし……いまはついて行こう。
そう決めると、私は構えていた拳を下げた。
その事にAIは反応を示さなかったけど、抵抗しない事は伝わったと思う。
「分かった。今はついて行く。」
「そっか、それは良かったよ。」
すると、少し微笑みながらAIは私がさっき走っていた道を戻っていくのであった。しかし私はついて行かずにその場にとどまる。
「だけど! 少し聞かせて。」
「なにかな?」
「貴方は何する気なの。その答えによってはついて行けない。」
こんな状態であってもアリエータとして強気に情報を集めていく。それにここに残るとはいえ、ぬくぬくとしているのでは意味がない。出来るだけ多くの情報を搾り取っておかなくちゃ。
「そうだね……今応える気はなかったけど、支障は無さそうだしね。」
「何かやろうとしてたんだ。ちゃんと教えて。」
「私の中心。奥深くに設定されている命令。」
「……」
するとAIはとつぜん顔の表情を動かさなくなり不気味さが醸し出された。わたしはその状態に思わず委縮してしまうけど、AIの言葉は一言一句逃さない。
「人類救済。それが私に託された願いだよ。」
3話目
疲れてしまった精神は今の状態を考えたくないらしい。
でも、店内に広がる珈琲のいいにおいには抗うことが出来ず楽しみにしていた。
「はい、どうぞ。」
AIことアンは見事な手さばきで見惚れる様な珈琲を作り上げた。私は別に珈琲が大好きだとかいう趣味を持ち合わせてはいないけど、それでもこのコーヒーが美味しい物だと見ただけでわかる。
「頂きます。」
目の前に置かれたそのコーヒーに口を付ける。
「美味しい……」
芳醇な香りとか、ビターな感じとか私にはまったくわからないけど、美味しい事には違いない。
アリエータが使用できる食堂で缶コーヒーを貰う事が偶にあるのだけど、それが対比に出ているのは缶コーヒーにもこの珈琲にも申し訳ない。
もう少し通であれば食堂のシェフが入れてくれる珈琲と比べる事が出来たのだろうけど、残念な事に苦みを味わいたかっただけなので、飲んだことはなかったのだ。
さらに言えば、この珈琲に関しても疲れを紛らわすために苦さを欲していただけであった。珈琲にとって残念な出会いではあるが許してほしい。
「苦いのいけるのか? 僕無理なんだよ。」
「そうなんですか。私も今日までは苦手でしたが、好きになりました。」
「へ~。あ、ボス! 珈琲一つお願い!」
知夏ちゃん? が私の様子に感化されて苦手であるはずの珈琲を注文した。
苦手なのに頼むなんて好奇心旺盛だな、とおもうが私も同じ立場なら頼んでしまうかも知れない。だって、苦手だったものが好きになるくらいの変化を与えたものだから。
その様子にさっきまで眉間にしわを寄せていた私は笑みを浮かべていた。
「ふふ、それはインストールしたかいがあったよ。」
その声を来た時、私の体は思わず震えた。
拒否反応なのだろうか。その存在を認識する前に先に体が反応してしまっている。
「……珈琲ありがとうございます。」
「そんなに疑い深くならなくても良いのにね。私は凛と喫茶店を営みたいと思っているだけなのに。」
「そうですか。」
やっぱりあの任務の時に聞き取っていた言葉は本当だったんだ。なんで喫茶店にいるのか疑問だったけどそう言う事ならなんとなく理解が出来る。
だけど一緒に喫茶店をやりたいとは思っていないから拒否したくなる。私は日本の平和を守るアリスのアリエータなのだから、こんな所でうかうかしてはいられないんだ。
「大丈夫」
アンの言葉に飲まれないように、自分の気持ちを言葉に表す。目の前にいるAIは何が出来るのか知らないけど、中には催眠や洗脳が出来るAIもいたとの事が知られているから、弱ってはいられないんだ。
「凜もすぐに救われるから。」
こんな言葉を言われたとしてもアリエータとしていなければいけないんだ。
自己を保つために自分に言い聞かせるけど、珈琲で緩まってしまった私の心は少し痛んでいた。
このままアンに言われっぱなしでは駄目だと、直ぐに反論をしようとアンの方を見る。だから気付いた。
さっきまで珈琲を見て聞いていたから分からなかったけど、アンの表情や細かい動きは人間と遜色がない事に。目の前にいるのは本当にAIなのかどうなのかが分からなくなった。
自身はAIと言っていたけど、それは本当にAIなのか?
AIではなかったとしてそこまで深刻に考えるべき事なのか?
そもそも、あの任務中にみたアンの体は本当に現実のものなのか?
全て勘違いしているだけなのではないのだろうか?
今の時代にAIが残っているはずがない。存在していたAIは全て破壊されて、もしかしたら残っているAIの干渉が来ないようにインターネットは仕組み自体を変えて、
AIの存在を許さないために世界共通の法律まで作って……
【ホワイトボックス】までつくられた。
「珈琲どうぞ。」
「ありがとう。」
「苦かったらこのシロップと牛乳を入れてね。」
今目の前で行なわれているのは人間と無機物の会話なのだろうか?
上手く思考が整理できなくでごちゃごちゃする。
「すみません。少し寝かせて頂きます。」
「いいよ。部屋は好きに使ってくれていいからね。」
「ありがとうございます。」
さっきまで走っていたからだろう。もう疲れてしまったんだ。
この事は明日考えてもう寝る事にした。
ギシギシとなる階段は私の足に疲れを思い出させてくれるのであった。
「少し情報を与えすぎたかな?」
部屋に帰ったからその声は聞こえなかった。
「アリエータとはいえ情報の処理が苦手なんだろ? それなら他のアリエータの方が良かったんじゃないか?」
「いや、凜がいいんだよ。凜じゃなきゃ駄目なんだ。」
その目はどこを見ているのか。
☆
私の日常は変わってしまった。
「凜ちゃん珈琲一つ頼める~?」
「ミルクと砂糖も付けてですよね。」
「わかってる~!! 」
常連のお客さんの注文を思い出しながら店長であるアンに注文を伝える。
私を経由しなくてもカウンターの先には店長がいるのでそのまま伝えてくれればいいのだけど、それではだめだと前に説得された。
「珈琲一つ」
「ありがとう。いまいれるよ。」
まあ座っているのがカウンダ―ではなくて店長とは少し感覚が明いている窓際の席に座っているので、大きな声を出されると迷惑な人もいるから別にいのだけれど。
今いるお客さんはその人しかいないので、カウンターに入りミルクと砂糖の準備をする。
一週間前までは砂糖は机の上に置いておいていたのだけど、補充やかたずけが面倒くさかったので毎回持っていく方式に変えさせてもらった。
ミルクを専用のカップに注いでお盆の上に置き、店長が珈琲を淹れ終わるのを待つ。淹れるのは少し時間がかかるのでカウンターの適当な所に置いてあった椅子に座って休憩する。
喫茶店を初めてもう2か月たつけどまだ立ち仕事には慣れない。
だけど、こんな日常も楽しいのかも知れない。毎日人の死体を量産して行って日本の平和を守っていると言う精神を盾にして生きていくよりも。この喫茶店に入れば褒めてくれる人は多いし……
私が死にかけている裏ではこんな日常が送られていたと思うともうアリアには戻りたくないとまで思ってしまう。もし、戻ってしまったらまた辛い訓練をやらなきゃいけないし、
いまの日常は凄く楽しくて心が安らぐ時間なんだ。
こんな時がずっと続けば良いと思っている。
日本を犯罪者から守るために飛躍していましたが、疲れてしまいました。組織から逃げて喫茶店を営みたいと思います。 人形さん @midnightaaa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます