第13話
寒い。優花は腕をさすった。応接室は暖房を入れても、効いてくるまでに時間がかかるようだ。夕陽が窓から覗いている。室内は赤くて、寒い。
「それでですね、処分についてですが…………」
横川先生が言いにくそうに、顔を顰める。横で優花の母親は息を飲んだ。
「停学処分になるかと」
もちろん、文化祭で犯した諸々のルール違反に対する罰だった。さらに、ハルカやゆうとがやってくれたことも、優花は自分がやったと言ったのだ。あの二人に、迷惑をかけるわけにはいかない。
その後、横川先生の事務的な説明が続く。優花の母はその言葉に必死に耳を傾けていた。
夕陽が絶頂を極める。強いオレンジ色が、世界を染め上げた。ヒューっと風が窓を撫でる音がする。今日も風が強い日だ。
そのとき、優花は応接室の机を両手で強く叩いた。勢いのまま立ち上がる。自然と、横川先生を見下ろすような形になった。
「私、学校を辞めます」
夕陽も完全に落ち、今度は世界が藍に埋まった。運転席の母は何も言わない。学校を辞めるといった後、理由を語った。今まで横川先生にやられたこと、もっとピアノを弾きたいことなどを冷静に告げたのだ。
横川先生は口ごもり、明らかに動揺していたが母は受け入れてくれたようだった。
そして今、優花は助手席に乗りシートベルトを締める。聳え立つ体育館を見上げて、ここでの演奏は楽しかったなぁと思い出に浸った。
「じゃあ、行くわよ」
母親が前を向いたまま言う。その包み込むような声が車内に響き、心地よい。ふっと息を吐くと、目の前が白く霞んだ。そして車が発進した。
赤く輝くテールライトが、校門を潜り、夜を走り抜けていく。
テールライトは夜のみ輝く 譜久村 火山 @kazan-hukumura
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