第5話

 もちろんただ会うだけで終わる気なんてない。折角同じ世界にいるのに、たった一度会って終わりなんて嫌に決まっている。

 そのためには、また会いたいと思ってもらわないと。当然ゲームの攻略サイトには載っていないから、これからすることはオリジナルのシナリオだ。


 フェルディナント様は二十二歳で、ユーディトより二歳年上。両親が歳をとってからの子であるために十六歳で王位を継ぎ、その時から宰相である侯爵が政治を担っている。

 家族構成は、弟に私と同い年で終わらないグランドツアーに出かけているマクシミリアン王子、妹に十四歳で一度も宮殿から出たことのないアントニア王女がいる。行動範囲が対照的すぎるけれど、とにかく三兄妹全員変わっているのだ。


 好きな食べ物は蒸した白身魚、好きな飲み物はワインの海水割り。地元の特産品とかではまったくなく、地産地消は度外視の輸入品。自分の生まれ育った文化より異文化の方を好む傾向にあり、古代地中海世界の彫刻を買い求めている。発掘調査隊をわざわざ送るくらいだ。フェルディナント様曰く、全て己の手元に置かれている状態が自然らしい。どういうことなの。


 毎週水曜日の仮装パーティーではコリント式兜を被り、丸盾と槍を持って軍神の扮装をするのがお決まりになっている。周りは一応それに合わせているものの、本気度が足りずに不興を買うのだった。


 要するに、かなりの変な人である。ゲームというくくりなら恋愛系でなくともそれなりにいるタイプの人間だけれども。実は暗い過去が……とか、芸術にその身を捧げたとかではないのがリアリティがある。一つのことに熱中するかと思いきや意外にすぐ飽きて、しばらくしたらまたブームの周期が来るところ、自分ではそれを認めないところ。なんだか現代のオタクみたいで親近感が湧いてくる。それでいてオタクっぽい素振りはしないのも良い。



 本人自筆でも本人が中身を考えたわけでもない頭の中で思考を纏める。

 今はギリシアがブームのはずだから、喋る内容はそれでいこう。服装も意識して。無駄に世間話をすると好感度は下がる。

 

 

 

 

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夢の世界で生きる王様に夢を見る 久守 龍司 @Lusignan

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