バッドエンド→グロリアエンディング

聖女の隣を護衛として歩く。

彼女はこれから精霊王の間に行き、もう城に戻ることはない。

彼女の隣を歩くのもこれが最後だ。

彼女との時間は幸せものばかりだったのに胸が苦しくなる。

最後だというのに。

まだ話したいこと、伝えたいことがたくさんあるのに声にならない。

俺が馬鹿だからなのか。

言葉にならない、まとまらない。


彼女と初めて出逢ったのも精霊王の間に続くこの廊下だった。

聖女が現れたとお城で聞いたときはただのお姫様だと思ってた。

でも彼女を初めて見たとき窓からさしこむ太陽の光が眩しくて、目の前に立つ彼女が俺に微笑んでた。

おとぎ話の聖女って本当にいたんだって。

この人を守ってゆくんだって。

本当に嬉しかったんだ。

あの瞬間も今みたいに何も言葉が出なかったな。


俺は騎士団長だから当たり前みたいに俺の命はこの国のためにあると思ってた。

だけど彼女に出逢って彼女といろんなこと話して彼女が隣にいる時間を過ごして変わった。

変わってしまった。

今の俺は俺の命も俺の未来も全て彼女に捧げたいってずっと彼女だけを守り続けたいって思った。

それなのに今日が最後なんだって。

突然そんなこと言われて。

彼女が俺を変えたのに彼女は俺から離れていくんだ。

精霊王が目を醒ましたからなんて理由で彼女はこの城から出ていくんだ。


こんなのっ……嫌だ!


彼女を精霊王の間まで送りとどける。

そんな命令などっ……きけるものかっ!

俺と離れて俺以外の誰かが彼女を守るのか?

目を醒ました精霊王がいなくなればいいのか?

どうすれば彼女をこの先も守れるんだ?

俺は馬鹿だからわからないんだっ!!


精霊王の間に着いたとき俺は、この想いのまま彼女の手をとり抱きしめた。

彼女はぽつりと愛らしい声で嘘だと言った。

その時の表情はわからなかった。


大きな扉の前。

静かな廊下には二人しかいなかった。

男性は苦しそうに狂おしいほどの愛しさに悶え、女性を強く抱きしめていた。

女性は暫しの逡巡した後、おずおずと男性の背中に腕を回した。

二人の影が一つの影になる。

ハッピーエンドの曲が流れる。


―――あと一歩だった幸せな異世界生活。


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私はお前におとされない!! うめもも さくら @716sakura87

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