先輩かて詩になるやん
「でも、そっか」
「なになに!? 急に一人で納得せんでもらえる!?」
既に閉園時刻を過ぎて閑散とした園内を、ゆったり歩く。飼育員さんや係員さんとすれ違うも、何かを言われることなくただ挨拶をされるだけ。まぁペース配分をミスってこうなる客も珍しくはないのだろう。
「いや、そんなに長く離れる可能性があるなら、早くしておかないとと思って」
「なん、五年分の誕生日パーティーとか?」
「ううん、エッチ」
「エッチ!? 城戸ちゃん見かけによらずほんまえっちよな!」
「行ける、と思ったら先輩の病室でこう……ガッと行くから。覚悟しておいて」
「怖いわ! 基準もわからんと覚悟なんかできるわけないやろ!」
こういうことはおいおいでいい、とか思ってたからあんまりそういうこと考えてなかったけど……早々に計画を練らなければ。帰りに教材を買って帰ろう。
「……城戸ちゃん」
「なに」
「…………するならはよぅしてや? 城戸ちゃん来る度にドキドキしてまうわ」
っ!!!!! あっぶな。今この瞬間この場所で襲いかかるところだった……。私自身が動物になるところだった……。
「……はぁ、そんなえっちな子に育てた覚えはないわよ」
「城戸ちゃんからんなこと言われる筋合いないんやけど!?」
×
予定通り、先輩は大学を卒業すると同時にアメリカへ渡った。私は勉強を続けながらバイトをして、早く会いに行けるよう準備を進めている。
もちろんモニター越しの通話も、メールも手紙も……とにかくあらゆる手段でやり取りはしていて、寂しさはあれど心細さはない。
中でも私が好きなのは、
一枚あたり大体10曲前後入っていて、どの曲も私達の日々や出来事が詩的に綴られており、耳から入って脳に伝わり、心を揺らす。
「ほんっと……詩ばっか書いてたなぁ」
正直に言えば、嫌だった。デート中も、病室に二人でいる時も、先輩には他のことをせず私だけ見てほしかった。
けれどきっと、こうなる未来がわかってたんだろう。時空を超えて私が喜ぶ方法を、あの頃の先輩は既に見出していたんだ。
「さて。課題やりますか」
次に先輩と会う時、CDは何枚になっているかな。もしかすると早々にネタ切れを起こすかもしれない。そうなったら今度は私の番だ。作曲に自信はないけど、作詞ならなんとかなる気がする。
『そんなんゆーてもしゃーないやん、城戸ちゃんが詩になるんやもん』
ふと、心の中に聞き馴染みのある関西弁が浮かんできて。
「そんなんゆーたら、先輩かて詩になるやん」
ふと零れた、中途半端に移って下手くそな自分の関西弁が、妙に愛おしく感じられた。
離れてたって。魂は、心は、いつもすぐ傍にいる。
詩ばっか書いてんな 燈外町 猶 @Toutoma
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