確かにオレ「属性は何でもいい」って言いましたよ? でも人妻とか妹とか噛ませ犬は属性と違くない?

桜良 壽ノ丞

いやいやいや、属性って、そういう事じゃないじゃん。



 転生、転移、人生のやり直し。憧れるよね、うん、オレは憧れてた。

 いや、憧れてたけど、憧れてる素振りは全く見せなかった。

 転生して最強とか、そういうの正直馬鹿にしてる側についてた。フリだけね。

 実はめっちゃウキウキしてました。


 でさ、実際に自分が「あーこれ死んだ」って思った直後。23歳で死ぬとか、マジかーって思ってたら、なんだか体が急に軽くなってさ。

 あ、オレさっき崖で足踏み外して岩で背中打ったはずなのに何で? とか色々考えたわけ。


 夢? って。


 ざんねーん、夢じゃありませーん! って、その時聞こえたんだよ。妙に軽い感じの若い女? の声で。


「は?」

「あー、ようこそ~。はいそこ座って」

「……?」


 なんかですね、周りは真っ暗なんですわ。んで正面だけ明るくて、粗末な木の丸椅子があって、向かい側にはムカつくくらいいい肘掛け付きの椅子に座った女がいるわけよ。


 顔立ちは日本人みたいだけど、長い赤髪に白くて丈の短いワンピース。何こいつ、今時のバンギャだってそこまで髪赤くねーわ。

 つか、声が低い上に酒やけしてるっぽいのが気になる。


「あーあの、状況説明要ります? こっち側の知識ある人?」

「……何言ってんすか、つかあんた誰? ここ何?」

「あー、分かんない側の人か。まあいいや、座って、説明するから。そんなあたし暇じゃないし」


 説明って。いや、何となく分かってるんだ。これ、あれだろ。転生させてあげます、だろ。心の中で小躍りしてるけど、うっひょーとか絶対言わないぞ。


 しっかし足を組み直したり、頬杖ついたり、どうにも態度が悪いな。これが噂の女神か?


「えーっと、要するにあなた、死にました。崖から足踏み外して、岩に背中打って、即死。そこまで把握できてる?」

「いや、あー……まあ、そうですね。即死かどうか分からないけど、落ちた後の記憶はないです」

「うん、それがね、即死。即死ってそういうものだから。で、あなたあまりにも人生で幸運な場面が少なかったもんだから。運がまだ残ってるのよ、そういう人って困るの」

「……はあ」


 なんだこのある程度こっちが設定分かってるていで話す感じ。も、もしかして転生転移系大好きっ子だった事、バレてんのか?


「次に生まれ変わった時、最初からそんなに幸運貯め込んでると、めいっぱい運使われた時に周りの人が不幸になるの。あいつだけ幸せばっかりって、周りの性格めっちゃ悪くなるの。運が良すぎる人は出来るだけ減らしたいの、分かる?」

「……理由が衝撃的なんですけど」

「で、まあその運をある程度転生前に使ってもらいつつ、違う世界に行ってもらおうって、そういう感じ」

「あの、説明が雑過ぎませんか」


 この説明で分かる奴、いる? ラノベ読み漁ってるオレでも自信ないわ。


「だーかーら! 転生前に何か1つ有利な条件を持って人生をスタートできるってこと! ああ、でも万能とか強運とか不老不死とか何やっても無罪とか、そういうの駄目だから。女神を連れていくとかもナシね」

「そういうの選ぼうとした奴、やっぱりいたんですね」

「まあね。で、色々話し合った結果、有利な属性を1つあげようって話になったの」

「誰と話し合ったんすか」


 有利な属性って何? 火が有利なのか、水が有利なのか。闇属性とかもカッコいいけど、有利かどうか分からないよな?


「あの、転生先の世界ってどんな世界ですか」

「んー、平たく言えば、よくある異世界ファンタジーって感じ」

「何でこっちがイメージできる前提で話進めるんすか」

「何? 分かんないの? 面倒くさいんだけど」

「いやいや面倒って、あんた一応女神ですよね? そういう態度はどうかと」


 こんなのを神として崇める人生とか絶対嫌なんだけど。ご利益ゼロじゃん。

 確かにこんな女神が出てくるアニメもあったけど、あれはギャグモノだから許されたのであってさ。


「あー……ごめんね、一応ニーズに合わせてこんな格好と態度してるんだけどさ」

「ニーズ?」

「うん。みんなこういうちょっと強気なのに押されると弱い感じの女神が好きなんでしょ? そういう設定、下界じゃ多いって聞くし」

「あ、設定なんですね、すみません。オレ、そういうの気にしないんで」

「良かった。あと設定バレついでに言うと女神じゃない」

「は?」

「俺男。これ女装だから。何で女神じゃないんだ! こういう時は女神が登場するもんだろ! って言われるのいい加減ウザくてさ」


 2段階で落とすのやめて。ああ、これ酒やけじゃなくて普通に男の声だったのか。


「で、何属性にするのさ」

「女神設定やめたとしても、その格好で股開いて座るのやめてもろて」

「あー悪い悪い」

「世界観とかボスの属性とか、そういう説明がないと決められませんよ」

「そういうの先に説明しちゃうとダメじゃん。絶対ズルするもん。チートって、バレた時友達なくすよ? 友達いた事あるか知らないけど」


 設定抜いてもいい加減な神だなこいつ。しかも言葉がいちいちムカつくんだけど。


 どんな世界なのかは教えてもらえない。何を属性に選んでも有利かどうか分からない。それが貯まりに貯まった運の代わりって、オレ結局運ないじゃん。


「何が有利に働くか分からないなら、何でもいいですよ。神様がこれってのを決めて下さい」

「でも気に入らなかったら後で文句言ったりするんだろ?」

「まあ、言いますね。文句どころか結構恨むし、何なら呪いますね。五寸釘持って京都行って夜の貴船神社不法侵入とかもうやりたくないんですけど」

「捕まれ馬鹿! 1度はやったみたいな事言うのやめて? 丑の刻参り発祥の地まで行く執念と拘りは他で使って? 俺も神なのになんか怖い」


 属性って、いっそ無属性か? でも言葉のあやってやつで、何にもない奴みたいな感じだと困るんだよな……。じゃあ最強属性とか?


「さ、最強属性でお願いします」

「何に対して?」

「すべてに対してです」

「そういうの無理だって分からない? そっちの世界で例えるなら、ブラックホールに勝るとか、元レスリング選手の霊長類最強女子に勝るとか、そういう事言ってる自覚ある?」

「え、有利な属性でも霊長類最強には勝てないんですか」

「だってあっちが最強なんだから。最強には勝てないじゃん」

「まあ、言葉通りではそうなりますけど」


 いい案だと思ったのにな。オレより前にいた奴がずるくてセコいせいで、後に続くオレらの選択肢が狭まってるじゃんか。

 転生したらまずそいつらを呪わないとな。いっそ呪い属性にするか?

 ……全員を不幸にすれば、相対的にオレが幸せになれるよな。


「何か黒いの漏れてるけど。ほら属性! 早くしてくれって」

「あー、神様は恨まないんで決めて下さい。つか、提案型でお願いします」

「じゃあ適当に読み上げるから、気に入ったのでストップかけて」


 うん、そっちの方がいい。傾向も分かるし、オレにはない発想の属性があるかも。


「じゃあいくよ」

「おねしゃす!」

「幼馴染、人妻、ガーターベルト、噛ませ犬、熟女、妹……」

「ちょっと待って下さい!」

「あ、妹属性に決定?」

「いや違いますけど!?」


 は? え? 属性ってそういう事? 4大元素とかそういうのじゃないの? 1つも出てこないんだけど!

 妹属性が有利に働くって何? オレ男だぞ、人妻って、噛ませ犬って何!


「属性ってそういうのですか!?」

「は? 何、自分の貧相な発想力を棚に上げて、こっちの提案にケチ付けてるわけ?」

「あ、いや、そういうわけでは」

「提案してくれって、自分で言ったよな?」

「それは、そうです。はい、すみません」


 解せぬ……何だよ、それならイケメンとかでいいじゃねえか。


「じゃあ絶世のイケメンでお願いします」

「あーそういうの、後から絶世のイケメンって言った奴に塗り替えられるけど大丈夫?」

「うっ……じゃあ、世界で偏差値100のイケメンで!」

「分かった。じゃあ俺あれ好きだし、アンデッドドラゴンのオスが……」

「メンは人ですよ!? せめて人でお願いできないですかねえ!? あなたの主観じゃなくて転生先の人の主観による人のイケメンでお願いできないですかねえ!? つかアンデッド死んでますよね!?」

「じゃあ最初からそう言えよ。ほら、じゃあ世界で偏差値100のイケメンにしてやるから」

「ちょっと待って下さい!」

「何?」


 うわー神イラついてるわ。人の人生左右する場面でそれなくない?


「念のため確認させて下さい。人が奴隷になってる世界とか、人が家畜になってる世界とかじゃないですよね」

「文明は地球よりやや遅れてるけど、人が支配する世界だからご心配なく」

「え、エルフ族とかいますか」

「はあ?」

「あ、すんません、ちょっとファンタジーに夢見てました」

「いるに決まってるだろ何言ってんの、ファンタジー舐めてる?」

「いるんすかー!」


 これテンション上がる! エルフの女の子って、だいたいアニメとかじゃ可愛いじゃん! あーエルフで一番のイケメンの方がいいのかこれ?


「うわー、悩むなー」

「何? イケメンになった後の妄想なら他所でやってくれるかな」

「いや、違いますけど」

「ほら、早くしてって」

「もうちょっと! もうちょっと情報をくれませんか」

「教えたら教えたでさ、役に立たない知識だったとかこれは教えられてないとか後で文句言いそうじゃん」

「まあ、言うと思います」

「恨むでしょ」

「まあ、恨みますね」

「異世界に藁人形と五寸釘と京都と貴船神社があったら丑の刻参りするでしょ」

「まあ、しますね」

「むしろなくても藁の栽培から神社建築から京都って領土作るところまで全部用意するでしょ」

「しますね」

「じゃあやだよ、教えない。何しても恨まれるもん」


 ……何が無難なのか。こうなりゃ常に1番イケメンの人でいくしかない。

 主人公的な生活とか、魔王を倒すとかは別の人がやるだろ。


「よし、決めました。世界で偏差値100のイケメンの人でお願いします」

「はいはい、了解。んじゃあ……」

「マジイケメンじゃないと許さないっすからね、神様」

「分かってるって」

「オレが納得できるイケメンでお願いしますよ」

「どの面下げて言ってんのか、ちょっと鏡見てから言ってくれる?」

「あ、霊長類でオレより最強にイケメンの奴がいたら……」

「早く行け馬鹿!」


 そんなこんなで。オレはようやく異世界に飛ばされた。


 転生って、マジあるんだー。

 つか妹とかイケメンとか、属性扱いなんだー。


 これはそういうお話。参考になるならしてもろて。





* * * * * * * * *




私の悪ノリ短編にお付き合い下さり有難う御座いました!

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確かにオレ「属性は何でもいい」って言いましたよ? でも人妻とか妹とか噛ませ犬は属性と違くない? 桜良 壽ノ丞 @VALON

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