第15話「何故、キミはそこに居たのか?」

 遅い……。


 風月、瞳、翔子は沈黙したまま、待ち続けた。

 店内に客はそんなに居ないはずだが、注文したいちごパフェと紅茶、バナナパフェとコーラ、ステーキ定食と水が来るのが遅い。


 今日のマスターは忙しいのだろうか?


 風月はいつも一人でこの喫茶店に来ているので、いつもよりいちごパフェが来るのが遅いと思っていた。

 瞳は腕を組んで、なにか考え事をしている。

 翔子も腕を組み、更には脚を組んで目を閉じている。

 それを見た風月は……。


 この人たち、静かになったら静かになったで、なんか……なんか重い!!


 騒がしいよりは幾分マシだが、スカジャンのヤンキーと黒髪の美少女が一緒の席で黙って座っているのも、これはこれで風月には重かった。

 すると……。


「ところでよ……。ちょっとだけ、話があるんだけどさ……」

「え?」


 突然、話を切り出してきた瞳。

 翔子の目が開く。

 ちょっとだけ、眠っていたようだ。


「どうしたの、瞳ちゃん?」


 本人も無意識なんだが、いつの間にか、自然に瞳の事を『ちゃん付け』で呼べるようになっていた風月。


「……あのさぁ、ずっと前から気になっていることがあるんだけどさー」


 そう言いながら、瞳は翔子の方に顔を向けた。

 瞳に合わせて、風月も翔子の方に顔を向ける。

 二人に顔を向けられた翔子は、さすがに困惑した。


「オイ。なんだ、お前ら?私がいくら美少女だからって、二人で私を見つめるんじゃない」


 翔子は迷惑そうでありながらも、まんざらでもない様子。

 そして、瞳は喋り出した。


「なぁ、翔子……。お前、もしかして、あたいとフーゲツが海に行った時……お前も海に居たよな?」


 ……。


 三人の間に沈黙が流れる。


 ……。


 沈黙は1分間続いた。

 そして……。


「あ!?」


 沈黙を破ったのは、風月だ。

 なにかを思い出したらしい。



≪以下、回想シーン≫



「ふざけんな!コラ!!ジュース出せるからって、いい気になるんじゃねぇぞ!!コラ!!」


 剛樹瞳が、自動販売機にショルダータックルを何度も何度もしていた。

 海に居る老若男女たち全員が、怯えて震えあがっている。


「なにやってんだ、あのヤンキー!!」


 風月は思わずベンチから立ち上がり、自動販売機にショルダータックルをする瞳を止めに行った。



 ……。

 瞳と風月が居る自販機から、少し離れた砂浜の上。

 黒く長い髪を、海風になびかせる制服姿の少女が一人居た。

 その少女は腕を組み、瞳と風月のやり取りを見つめる。

 彼女が着ている制服は、風月が来ている制服と同じ……『聖ダーミアン女子高等学校』の制服だ。

 黒髪の少女は踵を返し、なにも言わず、そのまま去って行った。



≪回想シーン、終了≫



「あ!本当だ!!そういえば、翔子ちゃんらしき人が海に居た!!?」


 さりげなく翔子のことも「ちゃん付け」している風月だったが、それよりも、回想シーンで明らかになった翔子のことが気になった。

 確かに、黒く長い髪のミステリアスな雰囲気した美少女で『聖ダーミアン女子高等学校』の制服を着ているとなれば、翔子以外は考えられない。


「なんか、自販機にショルダータックルしてる時、やけにこっち見てる奴がいるなーって思ったのと、屋上でショーコと会った時、なんか初対面って感じがしなかったんだよな……」

「……」


 風月は思う。


 自販機にショルダータックルという奇行をしながらも、冷静に周囲を見ていた瞳の感覚がわからない……。

 それと、瞳と翔子は同じクラスなんで、屋上で会ったのは初めてではないだろうに……。


 1秒の間に風月はそう思ったのだが、話の腰を折りそうなんで黙ることにした。


「なぁ、ショーコ……。あの時、海に居たのって、お前なのか?」


 瞳にそう聞かれた翔子は……。


「ああ。あの時、私も海に居た……」


 !?

 瞳と翔子は驚いた。

 まさか、あの(瞳が自販機にショルダータックルをして、風月がそれを止めていた)時、同じ場所……海に翔子が居ただなんて!


「ええ!?翔子ちゃん、あの時、海に居たの!?」


 驚く風月をよそに、翔子は自分の髪を撫で始めた。


「……なんか、ずっと引っかかっていたんだよなー。屋上でショーコと会った時、どうも初めて会った気がしなかったんだよなー……。まさか、あの時、お前も海に居たのか……」


 珍しくシリアスな表情で話す瞳。

 一方、風月は「だから、同じクラスなんだから、そりゃあ、屋上で会ったのが初めてじゃないだろうが」と思っていたのだが、めんどくさいのでツッコミは入れなかった。

 そして、瞳は問い詰めるように、翔子に顔を近づける。


「ショーコ……。お前、あの時……なんで、海に居た?」

「……」


 瞳と翔子の視線がぶつかり合う。

 まるで、視線と視線がぶつかって火花が散っているかのようだ。

 風月は思わず、固唾を呑む。


 確かに……何故、あの時、翔子は海に居たのか?

 そして、何故、なにも言わずに、あの場から去ったのか?


 風月の頭の中で次々と疑問が湧き出てくる。

 そして……。


「あの時、私が海に居たのは……」


 静かに翔子の口が開かれる。

 瞳と風月は全神経を耳に集中させた。

 何故、あの時、翔子は海に居たのか?


「……あの時、私が海に居たのは……」

「……」

「……」

「……何故、私があの時、海に居たのは……」

「……」

「……」

「……」

「……」



 翔子の口は開いたまま、閉じなかった。

 瞳と風月は、大きく目を開いて、翔子の言葉を待っている。

 だが、翔子の口は動かない。

 何故、急に口を開けたまま、声を出さなくなった。


 そして……2分30秒ほどの沈黙が流れ……。


 口の中が渇いた翔子は、ついに言葉を発する。


「……。何故、私はあの時、海に居たんだ?」

「……」

「……」


 目を開いたままだったんで、眼球が乾ききった瞳と風月は思った。


「知るか」


と。



 未だに注文したいちごパフェと紅茶、バナナパフェとコーラ、ステーキ定食と水はまだ来なかった。


 少女たちのティータイムはまだ始まらない。

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少女たちのティータイム ~ヤンキーちゃんと眼鏡ちゃんとマッドちゃん~ 団子おもち @yaitaomodhi78

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