鋼鉄の犬(最終章)


「ああ、松谷を捕えたのは、警視庁の組対5課。暴力団と覚醒剤密売を取り締まる組織だ。誠友会と城西の半グレ集団が大麻リキッドのシノギで提携する動きは、とっくにつかんでいたらしい。たしかに、昔のヤクザは大麻に手は出さなかったが、今は金になれば見境なしにどんどん手を突っ込んで来る」

所轄署で事情聴取を受けて家に帰ると、可不可とそんな会話をした。

「沙保里さんも無事家に帰ったので、これで時給プラス百万円ゲットですね」

「それはどうかな。・・・契約の最終日の3日目に探偵は馘になっていて、何とか救出できたのは4日目だ」

馘になったのではなく、暴力団に怯えてみずから引いてしまったのが事実だった。

「では、ボランティアですか?」

「ああ、玲子さんに頼まれなければ、ここまではやらなかったろう。完全なボランティアだ。時給分だけは請求書を送ってもいいだろうけど・・・」

カラ元気でそう言うしかなかった。


「でも、今回の可不可の働きはすごかった。まさに弾丸を跳ね返すスーパードッグだね」

「でも、空までは飛べません」

「時給が入ったら、弾で剥げた鋼鉄の植毛の手入れをしよう」

そんな気休めを言うしかなかった。

でも、滞納中の国民健康保険料を払うのが先か?

この国では、収入がなくとも、息をしているだけで支払う税金が多すぎる!


「感情が欲しい」

と可不可は口癖のように言うが、拳銃を構えた松谷に立ち向かった時の表情は、感情の沸点をはるかに超えた憎悪と狂気にあふれていた。

「可不可には、ヒトと同じ感情がすでに備わっている」

と思った。


(了)

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鋼鉄の犬~引きこもり探偵の冒険4~ 藤英二 @fujieiji_2020

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