鋼鉄の犬(その12)

新宿の誠友会の自社ビルの裏口で、その角ばった外国車は停まった。

ヘッドライトを消してから、オンボロ車をバックさせ、隣のビルの陰に潜んで様子をうかがった。

誠友会ビルは暗闇の底に沈んでいた。

運転手がトランクを開けて段ボール箱を取り出して裏口の扉の前に立った。

続いて、辺りを注意深くうかがいながら降りた松谷は、運転手を従えてビルの中へ消えた。


車には沙保里ひとりだけが残っていた。

「今だ・・・」

ビルの陰から飛び出した。

車のドアを開けて手を差し伸べ、

「沙保里さん、お父さんの頼みで迎えに来たよ」

と言うと、・・・沙保里は予想に反して奇妙な動きをした。

首を振っていやいやをし、後退りさえしたのだ。

「さあ、帰ろう」

「いや。帰らない」

「帰ろう」

「いや」

差しのべる手と払う手が綾になり、もみ合った。

その時、誠友会ビルの裏口の扉が開き、松谷が顔を見せた。

「野郎!」

野獣のような雄叫びとともに拳が飛んで来た。

目から火花が散った瞬間、地べたに叩きつけられていた。

松谷が片足を後ろに引いた。

尖った靴の先が脇腹を蹴りに来ると分かって、頭を抱え海老のように丸くなった。

その時、傍らの可不可が、燃え上がるかと思うほどの恐ろしい目で松谷を睨みつけ、低い声で唸った。

可不可に恐怖を感じたのか、あるいは、酒に酔って判断力を失くしたのか、・・・松谷は内ポケットから小型の拳銃を抜き、いきなりぶっ放した。

一発、二発、三発と当たったが、弾丸を平然と跳ね返した可不可は、松谷目がけて跳びかかった。

「可不可。止めろ。殺すな!」

大声で命令しなければ、松谷の喉に喰らいついた可不可は、確実に喉を噛み切っただろう。

その時、暗闇の中からダークスーツ姿の男たちがばらばらと駆けて来て、可不可の下敷きになって息も絶え絶えの松谷の腕に手錠を打った。

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