第45話:眷属

神暦2494年、王国暦231年6月27日:旗艦艦上・ジェネシス視点


「偵察艦からの信号です。

 敵です、前方に敵の大艦隊がいます!」


 刻一刻と戦いの時が近づいている。

 敵は俺が考えていた以上の海洋大帝国の艦隊だ。

 それも一カ国ではなく三カ国の連合艦隊だ。


「偵察艦からの信号です。

 海一面の敵艦隊です。

 見える範囲だけで三百の戦船がいるそうです」


 最も勇気と実力があるはずの、旗艦乗組員が恐れている

 ここは気合を入れてやった方がよさそうだ。


「数を恐れるな!

 一隻一隻確実に沈めて行けば勝てる」


 この十カ月、集められるだけの情報を集めた。

 我が国と交易している南蛮国はもちろん、大陸の海賊や商人からも集めた。


 そこで分かった一番重要な事は、我が国が情報弱小国だという現実だ。

 いや、我が国だけでなく、大陸国も周辺国も情報弱小国だった。

 この世界に魔道具の大改革が起きていた事を知らなかった。


 魔道具革命ともいえるその大発明により、はるか遠くの国とその周辺国が軍事経済両方の大国となっていた。


 彼らはこの軍事力と経済力で戦い続けていた。

 生き残った国は、争いに馴れた列強国に成長したのだ。

 世界最強国だと思っていた大陸国は、弱小国に成り下がっていた。


 大陸国だけでなく、我が国も弱小国となっていた。

 もし俺がこの国に生まれていなければ!


「敵艦隊、突っ込んできます」


 互角の艦隊が戦うなら、有利な位置を取ろうと風魔術を使う。

 俺と同じ考えなら、水魔術を使う。


 だが、これほど圧倒的な数があるのなら、位置取りなど関係ない。

 移動に魔力は使わず攻撃に使う。

 初撃で我が艦隊は抵抗空しく壊滅してしまうだろう。


「クエレブレ」


 俺が切り札の一つを使わなければ。


「お呼びでございますか?」


 俺の眷属召喚に従って、純血種竜のクエレブレが現れた。

 今まで戦っていた北の大地から一瞬で呼び出せるのは最高だ。


「向こうの戦いはどうなっている」


「戦いなどと言うほどのモノではありません。

 我に恐れ逃げまどう人間どもを捕らえて捕虜にしているだけです。

 本当に殺してしまわなくていいのですか?

 食糧が足らないのではありませんか?」


「足らないのは穀物だけだ。

 永久凍土の北方を、はるばる歩いてきた連中なら、肉だけで生きていける。

 連中には肉を与えて大地を開墾してもらう」


「そうですか、特に問題がないのでしたらかまいませんが、三十万はいますよ?」


「三十万もいてくれるのなら、新たに手に入れた土地の開拓が進む」


 大陸に味方する代わりに手に入れた領地は結構広大だ。

 北の列強国が大陸国に割譲を要求していた土地は、我が国の四倍以上ある。


 凍てついた北の大地ではあるが、一年に一度は穀物を収穫はできる。

 農地面積で比較して収穫できる穀物量は半分だが、四倍の広さがあれば倍の穀物が収穫できるし、何より我が国と違ってほとんどが平地か森林だ。


 山や魔境が多い我が国は、国土の広さに比べて耕作地が少ない。

 だが今度手に入れた北の大地は、平地が多くて利用できる割合が大きい。


 それに、四倍の広さがあるという事は、鉱物資源がある確率も四倍だ。

 大地に埋蔵されている鉱物の量を考えれば、何としても手に入れたかった。


 だから、切り札である純血種竜と言うカードを切ったのだ。

 クエレブレはとても良くやってくれた。


「それで絶対に殺すなと言っていたのですね」


「ああ、そうだ、できるだけ殺すな。

 今から戦う船に乗った連中もだ」


「慌てて逃げようとしている連中ですね」


 我が艦隊上空に純血種竜が現れたのを見て、三カ国連合艦隊が逃げだしている。

 純血種竜を斃すほどの魔道具を持っているか心配だったが、大丈夫なようだ。


「クエレブレ、連中にも威圧をかけて身動きできないようにしてくれ。

 あの艦隊は拿捕して我が国の物にする。

 できるだけ壊さないようにしてくれ」


「分かりました、お任せください」


 俺の上空で待機していた純血種竜クエレブレが三カ国連合艦隊の方に行く。

 味方の水兵達が安堵の息を吐く。

 敵だけでなく、彼らも恐ろしかったのだろう。


「「「「「ドッーン」」」」」


 敵艦隊から一斉に魔術攻撃が始まった。

 多くの敵兵が強化した魔道具杖を構えている。

 クエレブレはまだ威圧を行っていないようだ。


 絶対に勝てる弱い人間が相手だから遊んでいるのだろう。

 後で厳しく注意しておかなければいけない。


 窮鼠猫を嚙む、どのような隠し玉を持っているか分からない。

 敵に攻撃する隙を与えることなく圧勝するのが一番なのだ。


 とはいえ、今回は大丈夫だろう。

 隠し玉があるのなら、俺とクエレブレが話している間に使っている。

 何かあるとしたら、敵の主力である本国艦隊が来た時だ。


「直ぐに連中は降伏する。

 捕虜にする準備をしておけ」


「「「「「はい」」」」」


 さて、この海戦は勝ったが、問題は大陸国をどうするかだ。

 南蛮の連中を恐れて皇都を捨てて逃げたくせに、未だに俺達を蛮族扱いする。

 今直ぐ滅ぼしてやりたいのだが、四億もの命を背負うのは辛い。


 対南蛮連合軍用に、皇帝に傭兵団設立を認めさせた密偵連中に任せよう。

 あいつらなら、大陸国の金と食糧を使って謀叛軍を育ててくれるだろう。

 俺は皇帝達が裏切った時に備えて食糧を確保しておくだけでいい。

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26番目の王子に転生しました。今生こそは健康に大地を駆け回れる身体に成りたいです。 克全 @dokatu

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