第8話 卒業生、春
ステージの上に設置された看板の『第73回
「……あっという間だったな」
「うん」
俺が呟くと沙月は頷いた。
こんな当たり前だったことも、もうすぐ当たり前じゃなくなる。
「てか結局泣いてんじゃん」
「そういうの言わなくていいから。そっちのが泣いてるし」
「女子の涙は
強がるように言う彼女の目は真っ赤に腫れて、頬には幾つもの涙の跡がついている。これが映えかよ、と俺は自分の頬を拭いながら笑った。
「なあ沙月」
「なに八生くん」
「卒業しても遊ぼうな」
「当たり前よ。まだ島行けてないし」
「なんでそんな島行きたいんだよ」
「みんな一回は夢見るでしょ、海賊王」
彼女は笑って、釣られるように俺もまた笑う。こんな会話も当分無くなるのかもしれない。でも何も怖くなかった。
今日で卒業。今日で終わり。
けれど、この花が枯れることはない。
俺たちの青春はまだまだこれからも重なり続けるのだから。
『改めまして、三年生の皆様――』
だだっ広い体育館に声が響く。
そこで俺ははじめて在校生代表の顔を見た。彼は何かに見惚れるように潤んだ瞳を真っ直ぐこちらに向けている。
その光に満ちた目に、俺たちみたいになれよ、とはさすがに言えないけれど。
『ご卒業おめでとうございます』
俺は黙って、左胸に咲いたコサージュを見せつけるように背筋を伸ばした。
(了)
青色レイヤード 池田春哉 @ikedaharukana
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