第4話 クリア

 画面が切り替わり、岬を望む風景から、常に手前にあった人影が一歩ずつ岬の先端に向かっていく様子が映し出される。

 画面は岬の先端から少し右にずれた景色をうつして、その風景は徐々にスピードをあげ、広い海原と広い空が目の前に広がった瞬間、暗転した。

「……ど、どうなったんだ?」

 真っ暗な画面が映し出された状態のまましばらく、じっと待っていれば、画面にゆっくりと「クリア」の文字が現れる。

 そしてさらに下に「クリア特典 受け取りますか?」の文字が。

「クリア特典?」

 一体なんだろうと「はい」を選択すると、ゲーム上に現れた自宅と表現されていた部屋が映し出された。

 画面手前には先程まで俺が操作していたであろう人物の影。

 これの何がクリア特典なんだ? と眺めていれば、手前の影がゆっくりとこちらを向いた。

「っ! 鋼太郎!」

 思わず声を上げてしまう。

 そこにはこのゲームをやれと言ってきた鋼太郎が映っており、部屋の様子を映し出していたカメラは、ゆっくりと鋼太郎を主体にするように動き、画面いっぱいに鋼太郎が映し出された。

『ゲームクリアおめでとう。君に託してよかった。途中で止められたらどうしようかと思ったけど、君ならきっとクリアまで頑張ってくれると信じていたよ。僕の死を選んでくれてありがとう」

 字幕を読んでいるものの、頭は全く動いてなかった。

『思った通りに死ぬってなかなか難しくって。でも、君は叶えてくれた。僕のゲームデータはこれで消去されるけど、クリアした君には特典として、新たに君のデータを入力できるようになるよ』

 映し出されていた鋼太郎が徐々に砂嵐に巻き込まれ、画面いっぱいに砂嵐が吹き荒れる。

 理解の追いつかない俺は、ゆっくり立ち上がり、玄関を出て、隣のインタホンを鳴らしていた。

「はい」

「おばさん、鋼太郎居ますか?」

「鋼太郎? ちょっとまってね」

 いつも通りのおばさんの声が聞こえ、一呼吸置いたぐらいに部屋の中が騒がしくなった。

 慌てて開かれた扉から出てきたおばさんは、顔色が真っ青で手紙のようなものを握りしめ泣き叫んでいる。

 その声を聞きつけた俺の母親や隣近所の人たちがやってきて、辺りは途端に騒然とした。

 おそらくこの中で一番状況を理解してるのは俺であり、そして理解できていないのも俺だろう。


 俺はその喧騒を背中に、戻ってきた部屋の中、砂嵐が収まった画面を見つめた。


『死にゲーにようこそ! 条件を入力する?』

 

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