死にゲー

御手洗孝

第1話 起動。

 とある日。

 小さな頃からお隣さんで、親友とは言わないが、それなりに付き合いのある幼なじみの鋼太郎が、引きこもっていたはずの自室から、突然俺の家にやってきた。

 おばさんに頼まれて、訪ねていっても3回に1回の割合で会ってくれるかくれないかの状態で、鋼太郎自身が外出するなんて、驚き以外の何物でもなかった。

 俺の部屋に招き入れ、母さんがお茶とお菓子を持ってきてしばらく、黙ったままだった鋼太郎が大きく息を吸って吐き出し、小さなメモリーカードのような物を差し出す。

「こ、これさ、やってみてほしいんだ」

「やるって、なにこれ?」

「や、やってみたらわかるから。スマホでもいいし、パソコンでも、他のゲーム機でも」

「いやいやいや。スマホとパソコンはわかるけど、ゲーム機でどのハードでも起動できるようなデータって無いだろ?」

「い、いや、これは大丈夫なんだ」

 なんだかよくわからないが、引きこもっていた鋼太郎がわざわざ外出してきてまで言うんだからと、俺は「わかった」と言ってパソコンを持ってきて、起動する。

 すると、それを見た鋼太郎は立ち上がって出ていこうとした。

「帰るのか?」

「う、うん、それ、渡しに来ただけだから」

「一緒に見たりするんじゃないのか?」

「ぼ、僕は、いいんだ」

 よくわからないが、鋼太郎は足早に部屋を出ていき、母さんの「もう帰るの? 」という声がした後、玄関ドアが締まる音がする。

「一体何なんだ」

 訳はわからなかったが、せっかくパソコンも起動させたのだしと、もらったメモリーカードのようなものを、パソコンのカード差込口に入れてみた。

 とたん、これといった操作をしていないのに画面は真っ暗になった後、白い文字で「死にゲー」と出てくる。

「ゲーム? しかも死にゲーってなんてタイトルだよ」

 タイトルらしきものが消えると、今度は「アナタは正しい答えにたどり着くことが出来るのか? 」とサブタイトルらしきものが現れた。

 エンターキーを押せば、画面は切り替わる。

『アナタはこの世界に別れを告げることにしました。ただ、どのようにしてこの世界から居なくなるか、まだ決めていません』

「え、死にゲーってそういうこと? 意味違うだろ。それにしても、これは自殺ゲームなのか? あいつ、なんてもの持ってきたんだ。っていうか俺にやらせてどういうつもりだよ」

 自殺ゲームをとにかくやれと置いていったって、自殺しろって言ってんのか? と少々気分が悪くなった。

「何、俺あいつになんかした?」

 暗に死ねと言われているのかと、ため息ばかりが出てくる。

 鋼太郎の思惑がまるでわからず、不満が胸に広がったが、とりあえず起動してしまったのもあるので、ゲームを進めてみることにした。

『このゲームでは条件にあった死を選ぶ必要があります。さて、アナタに用意された人生最後の瞬間の条件はこちら』

「なるほど、選ばれた条件に合わせるように死ななきゃいけないっていうことか。画面は、一昔前のパソコンゲームみたいな感じだな。静止画がメインで多分、この画面手前にいる後ろ頭な人物が俺が操作する主人公ってところか。しかしホント、なんでこんなのやらせたかったんだ?」

 そう言いながらも、俺はゲームを進めていく。

 この場に鋼太郎が居ないのだから律儀に進める必要はないし、こんな意味の分からないゲームなんて止めてしまえば良い。

 だが、何故か適当にするのも憚られ、止めることもせずに結構真剣にゲームを進めていた。

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