第6話 そして、ダンジョン娘は――
「お父さん、早くー!」
馬車のドアから身を乗り出して、アナが手を振った。俺は門を施錠してゆっくりと馬車へ向かう。
――あれから二年がたった。アナは見事に昇級を果たし、二等級のダンジョンになった。一階層が小都市ほどの規模を持ち、地下百層を超える超巨大な人工建造物だと推定されている。
向こうでの理屈はよく分からないが、たぶん大規模な落盤でもあって深層階が発見されたのだろう。
我が家の収入は見違えるようになり、いろいろあって俺は家の周辺一帯を買い上げ、屋敷を広げた。そりゃもう、いろいろあったのだ。
リルは行商人をやめて、俺とアナの家庭教師になった。ふたを開けてみれば、彼女は王宮に仕えても見劣りしない学識の持ち主だったのだが、それもそのはず。
彼女は成人まで、隣国の名高い賢者に育てられたのだという。どういうことかと尋ねると、彼女はひどく懐かしそうに眼を閉じて空を見上げたものだ。
「……私もね、ダンジョンだったんですよ」
「そういうことか」
聞いてみれば納得しかなかった。彼女も数多の不安な夜を庇護者と共に乗り越え、幸運を重ねて大人になったのだ。
今日は少し離れた町まで、こちらの世界のダンジョンを実地で観に行くことになっている。アナの成人まであと六年。きっと大いに今後の参考になるだろう。
そんな俺たちの前に、街道沿いに建てられたテントと人だかりが現れた。
「あれは…?」
「むっ……奴隷市みたいですね……」
リルが眉をひそめる。やがて商人の売り口上がここまで聞こえてきた。
――さあさあ次は本日一番の目玉! 毎朝銀貨を枕元に生み出す、不思議なギフト持ちの女の子だよ。
俺たちは顔を見合わせた。
「見過ごせないな」
「見過ごせませんねえ」
額面からするとまだほんの小さな下級ダンジョン。生きながらえるのはかなり困難そうだ。だが、俺たちには知識と経験がある。
リルが馬に一鞭呉れ、俺たちは人混みをかき分けてテントの前へ向かった――
第一種・二等級ダンジョン。性別(♀)・12歳 冴吹稔 @seabuki
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