本作は元々第21回だったかの書き出し祭り(※1)に出品した作品で、会場内順位は10位近辺(真ん中くらい)。
ここまで書き続けて読んでいただけてるのはとても嬉しく、また想像もしなかった事でした。
で、これ元々の構想ではだいぶ違う感じの話だったんですよね。アウトラインプロセッサ「nana terrry」の本作用ファイルの中に最初の構想を記録したノードがあるので、その内容を貼って見ましょう。
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グンヒルドと血斧王(※2)みたいなカップルの話を書きたい
主人公は辺境拍の子弟で遊学から帰ったとこかなんか。
(のちに家督を継ぐはずだった兄が病死し、口さがない宮廷スズメから毒殺の下手人ではと噂されるが、それをむしろ面白がるくらいのタイプ)
実際に非道な手段にもためらいはないがこの件に関しては無実。
ヒロインは権門の子女だが前妻の子で、継母に疎まれ相続からは外され、素行不良をでっちあげられて親の勘気を受け、修道院へ送られることに。
あろうことか異母妹の社交界デビューに立ちあわせるという嫌がらせを添えて――
(ここまでされるいわれはあるのか?!)
能力的には有能だが、自己評価は低い。誤解されても放置する。
何となれば妖術という武器を密かに手に入れたため、常道での問題解決を放棄してしまった。
恋すると一途で可愛いが嫉妬深い。
件の社交界デビュー付き添いで主人公と出会う。
当日会場を襲う、本来なら王都などに出るはずのない(と主人公は知っている)モンスター。
実はヒロインが自分を連れ去らせるために仕込んだ従属モンスターなのだが。
この不穏な事件に際し、たまたま協力して当たる形になる。ヒロインはあまり表に出たくないので、主人公を隠れ蓑にする
・二人の協力で事件は一応の解決を見た形に
後日再会してお互いの身上を知り、主人公は彼女に興味と好意を抱いて縁談に持ち込む。意気投合していたこともあり特に障害もなく進展するが、突如主人公の兄が急死し、辺境伯の爵位と責任が降りかかってくるのだった。
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といった感じのものでした。ここから紆余曲折を経て現在のものになるんですが改変後のプロットはこう。(以下)
主人公の辺境伯三男ギリアムは隣国(ニステル)との国境近くにある大学都市、ラドヴァからの遊学帰りに王都に立ち寄る
王城前の通りは延々と渋滞した馬車の列。
馬車の一台からついと路上へ降りた少女の姿がギリアムの眼を射る。
美貌ながらどこか昏く思いつめた表情には、常の貴族女性とは違った、なにやら彼を強く引き付ける雰囲気があった。
同行の家臣(ギリアム付きで紋章官を兼ねる)デレクによれば、その馬車は有力貴族ウィルスマース伯たるハイベリン家の紋章を掲げていた。
どうやら貴族子女の社交界披露が行われるらしい。
そんな時、突如上空から現れた有翼の下級魔族(カルキドリ)。ハイベリン家の馬車が粉砕されるのを目撃。
遊学先でダンジョン探検の経験もあるギリアムは、沿道の人々を護るために剣と魔法を駆使して立ち向かう。
馬車の陰に身を潜めた少女を助けて安全な場所へ(彼女の馬車は粉砕されていた)走るが、どうも様子がおかしい。
(実はこの襲撃は狂言で、彼女はそれに乗じて修道院送りの運命から遁走する心づもりであった)
・この一件の背景はこんな感じ
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ニルダは先妻エリノア(若い時から家同士で決めた許嫁であまり愛情はなかった)の子。4歳の時に母が亡くなり、父ダグラス・ハイベリンがしばらく前に都で見初めていた女メラニー・カンブレーを後添えに入れる
(なお先妻の家は没落して離散、結婚した時点ではすでに、「せめて娘を頼む」状態だった)
一年後、五歳年下の異母妹ユーディットが誕生。蜂蜜のような金髪が可愛らしい娘で、父はすっかり溺愛。
それを良いことに後妻が父にあれこれと吹き込み、父は妹の方を女子相続人にと考えだす。後妻たちにとってニルダは邪魔なので、修道院という名目の幽閉場所へ送る算段。
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事情が半ば飲み込めず、ギリアムはしばし彼女と口論。
どうやら彼女には、表社会で流布する「魔法」とは別体系の術の心得があるらしく、悪魔を呼んだのも彼女自身の思惑であるようなのだ。
その背後にただならぬものを感じたギリアムは、「きっと力になる」と約して彼女をいったん家族の元へ戻すのだった。
そんな一幕がありつつ無事に故郷の辺境伯領へ戻ったギリアムだが……彼を待っていたのは、父と兄の事故死と、それに伴って予期せず飛び込んできた、家督相続の責任だった……
はい。初期案では事件の舞台はお披露目の行われる王宮内。二人はその場で魔法を使って共闘を演じ、意気投合して縁談が芽生える、といった筋立てだったんですね。
これが現在の形になる理由は、お分かりだと思います。
・ニルダの妖術が世間に流布する通常の魔法と違うところを、このシチュエーションの戦闘ではうまく描けない。
・ニルダが早急に継母一族との対立から脱してしまって、以後のストーリーに占める立ち位置が希薄になる。
・ギリアム兄の死因が病死と、ストリー構成要素としてはやや弱い。
幸いこういう難点に早期に気づくことができました。そこで、
■祭り版での最終形:ニルダの脱出計画をいったん失敗させ、その代わりにギリアムとの約束を残すことで後日へのヒキにする。
祭り版はこちら
https://ncode.syosetu.com/n3558iw/15/
■(連載版での追加)連絡手段としてギリアムの血を材料に使い魔「ダヴ」を生成し、彼に渡す
■(連載版での追加)兄の死に辺境の異民族を絡めることで、ニルダの救出に着手するまでの時間的ギャップを埋め、辺境伯という立ち位置とその厳しさ、ギリアムの軍才を描く。「ダヴ」も空中偵察などに利用して、離れていてもニルダとのきずなが深まる仕組みを作る。
:王都での下準備などを描き、ハイベリン別邸での密会といった印象に残るシーンを用意して、二人の目標をすり合わせる
とまあ、こういった仕掛け、修正を施して今の形になったわけですね……
nanaのノードに残った文章を見る限り、この辺の話はそれぞれほぼ数行のプロットとは呼べないメモで書き留められているので、やはりほとんどの執筆はパンツァー的なメソッド(シートオブパンツ方式)で描いていたようです。
初期プロットのまま強引に描き進めていたら、なんかこう、少し展開に無理のある感じを引きずりつつごく普通(?)の悪役令嬢と破天荒スパダリの話になった気がしますね。パンツァーなりに熟考して自分なりの持ち味を生かせるパターンに組み上げることができて、本当に良かったです。
註
※1:プロ作家肥前文俊先生がここ数年にわたって主催してる、4000文字以内の書き出しパートで小説の「続きを読みたさ」をメインに競う匿名競作企画。この種のイベントとしては参加者枠100名と最大規模を誇り、祭り作品からの書籍化も多数。
さぃぶきも21回から参加してます。
過去最高実績は「黒妖精のCANCION」での会場三位。
内容は
■80年代初頭、南米の架空の小国リナレスを舞台に、軍事独裁政権による政治犯と精神疾患患者の隔離施設収容と、その地に残る奇怪な妖精伝説。そして収容者の間に広がっていく未知の言語と文字による浸食を軸に描く怪奇サスペンス、というものでした。
※2
アイスランドサガの「ヘイムスクリングラ」などに登場する、ノルウェー王エイリーク一世(血斧王/ブラッドアックス)とその妻、グンヒルドの事。二人の物語はエイリークがヴァイキング行に出た先での出会いと、グンヒルドが師事する魔法の師匠である二人のフィンランド人にまつわる大層理不尽で血なまぐさいエピソードで始まるのですが、それぞれの性格と出来事への反応などが奇妙な魅力を放ってやまないのです。