やっぱり、これが一番

ゆきまる書房

なんだかんだいつもと変わらない味

「ただいま……」

 疲れた。玄関を開けた途端、どっと疲れが襲いかかってきた。気を抜くと、このまま玄関に倒れ込んで、気が付いたら朝なんてことになってしまいそう。それは非常にマズい。私は自分の頬を両手で叩くと、玄関を閉めて勢いよく靴を脱ぎ散らかして、家に上がった。


「よし、じゃあ、始めるか」

 準備を終えた私は、机の上に並べた食材をざっと眺める。スーパーで買ってきた焼き鳥のももとねぎまと皮。同じく、スーパーで買ったイカの刺身。レンジで温めたごはん。冷蔵庫にあった残り物の白菜の浅漬け。それと、気力で作り上げた卵焼き。

「じゃあ、いただきまーす」

 持っていたチューハイの缶を開け、私はチューハイを煽った。炭酸のパチパチした感覚が喉を通り、飲み終えた時に鼻からレモンの風味が抜けた。安いけど、このチューハイが一番おいしい。一口飲んで「あー!」と声をあげた私は、机に缶を置き、代わりに箸を手に取った。箸を伸ばした先は、切り分けられたイカの刺身。小皿に入れた醤油を刺身につけ、そのまま頬張った。イカの甘みと醤油の塩味がマッチして、口の中で絶妙なハーモニーを繰り広げる。噛めば噛むほどイカの甘みが口中に広がり、その歯ごたえの良さと相まって、いつまでも噛んでいたくなる。

「ん~、やっぱり、刺身はイカよね~」

 イカを堪能した後、次に卵焼きへと箸を伸ばす。少し大きめに切り分けた卵焼き。今日は白だしで味付けをした。一口食べると、口の中で白だしの風味がふんわりと広がる。じゅわりとしみ出る白だし。マヨネーズも入れたから、食感もふわふわだ。卵焼きはやっぱり、しょっぱいのが一番だ。

「さーて、お次はっと……」

 私は箸を置き、焼き鳥の串に手を伸ばした。どれにしようか迷ったが、やはり最初はももだろう。ももの串を掴み、私は串に刺さったもも肉を一つ頬張る。一口噛んだ瞬間、じゅわっと肉汁が広がり、甘いたれと肉汁が絡んで、口の中が幸せでいっぱいになる。私は串を置き、急いでご飯をかきこむ。ご飯の甘みが抜くのうまみとたれの甘さを皿に引き立て、かきこむ手が止まらない。

「あ、いいこと思いついた」

 かきこんだご飯を咀嚼して飲み干すと、私は焼き鳥を全て櫛から外し、外した焼き鳥を全てご飯の上に乗せた。そして、ご飯と焼き鳥を一気にかきこむ。するとどうだろう。肉とご飯が口の中で混ざりあい、ずっと踊りまくっている。弾力のある肉と、程よく焦げたネギ、そしてぷりぷりの皮とそれらを引き立たせるご飯。最高だ。

「あ、そうそう、これも忘れちゃダメだった」

 ご飯と焼き鳥を半分ほど平らげ、口の中が油で少ししつこくなった時、私は白菜の浅漬けに手を伸ばし、浅漬けを口の中に放り込んだ。シャキシャキという白菜の食感と、浅漬けのさっぱりした味に、口の中がリセットされる。

「あー、やっぱり、口直しには漬物が相場って決まってんのよね。さて、じゃあ、次は……」

 今度は醤油をつけたイカの刺身を二切れ口の中に放り込み、イカの甘みを存分に味わう。今度は卵焼きを食べ、卵本来のうまみと白だしの甘みを味わい、とどめにお手製の焼き鳥丼だ。文句なしに美味い。仕上げに缶チューハイを煽ると、思わず「あー、美味い!」という声が漏れてしまった。

 これだ、なんだかんだこれが一番美味いのだ。高級レストランのディナーも、少し奮発して買ったケーキももちろん美味いが、やっぱり家でこうして飲む酒が一番美味い。アルコールの回った頭でそう結論付け、私は今度はどれを食べようかと箸を伸ばした。

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