終章-空葬-

空葬

 星が降る。雲ひとつない夜空の向こうを、幾千の光が流れていく。すっと闇から生まれ、刹那の白い光を放ち、再び闇へと還っていく、光、光、光。

 それはどこか、涙の伝うさまにも似ていた。

「睡蓮」

 呼ぶ声に、わたしは鞠をつく手をとめて振り返る。

「姉様」

「お待たせ」

 縁側に駆け戻ったわたしの肩に、姉様が、ふわっと袢纏はんてんを羽織らせてくれた。寒かったでしょう、と姉様が微笑む。

 姉様の隣に座って、姉様にならって、空を見上げる。

 どこまでも澄んだ、冬の夜空。雲ひとつない、満天の星空。

「流れ星がたくさん……願い事、いくつできるかな」

「ほんとう……なんだか、とってもわがままになれちゃいそう」

 悪戯っぽく微笑み合う。けれど、ほんとうに叶えたい願い事なんて、たったひとつしかなかった。そのことを、わたしも姉様も、知っていた。だからこそ、かけがえがなかった。いとしかった。

 瞼が重い。もっと、姉様と、星空を望んでいたいのに。

 姉様が、ふわりとわたしを抱えてくれた。姉様の肩に、そっと、頭を預けて、わたしは甘える。姉様が微笑む気配がした。

 姉様のぬくもりがわたしを包む。うとうととわたしはまどろんでいく。閉ざされていく瞼。それでも、うっすらと、星が、また一筋、流れていくのを見ることができた。

 きれいね、姉様。

 ほんとうに、きれいね。


 姉様のうたう、子守唄がきこえる。

 慈しみに満ちた、澄んだ歌声。


 ねえ、姉様。

 すこし眠ったら、わたし、また、空を飛ぶね。

 空を舞うね。

 姉様の瞳のような、星の瞬く夜空を。

 母様の瞳のような、青く澄んだ真昼の空を。


 未来という、願いを抱いて。

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羽人物語 ソラノリル @frosty_wing

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