第17話
俺と陽子さんは観音寺で行われた室戸豊栄さんの葬儀に参列した。葬儀は参列者の少ない質素なものだった。琴平さんの車椅子は陽子さんが押した。俺は押せなかった。猫だから。
夕刻、室戸さんは灰になって帰ってきた。彼の遺骨は綺麗なガラスの骨壺に入れられていた。色ガラスを繋ぎ合わせた美しい壺だ。大内住職が室戸さんから預かっていたものらしい。遺骨は細かな粉になっていた。量も壺の半分くらいまでしかなかった。色ガラスが飲み込んだ光は室戸さんの白い残影を七色に染めた。
観音寺のイチョウの木の下で、ガラスの壺を膝の上に乗せた琴平さんは赤い空を見上げていた。彼女は、力なく呟く。
「秋なのね」
俺の言葉は通じないが、それでも俺は答えた。
「秋なのさ」
琴平さんが少しだけ笑ってくれたような気がした。
風雨に打たれて疲れ果てたイチョウの葉がハラハラと舞い落ちる。俺がその落ち葉を挿んだアポリネールの詩集を、琴平さんは大切に壺と体の間に置いた。
夕日が沈もうとしていた。俺は彼女に背を向けて歩き始める。舞い散る黄色いイチョウの葉を低い陽射しが照らす。
その時、琴平さんが声を漏らした。俺は振り返る。
琴平さんの膝の上の骨壺に赤い夕日が当たり、色ガラスがそれを反射して彼女の周りを赤、黄、緑、オレンジ、青、藍、紫の光で囲んだ。美しかった。ハラハラと葉を舞い散らせるイチョウの古木の下に虹が広がっている。まるで、秋を春が優しく包んでいるようだった。悲しい冬はいらない、そう言っているようだ。
やはり室戸豊栄は天才だった。
琴平さんは涙を流し、膝の上で虹を放つ骨壺を覆うように強く抱きしめた。そして、声を上げて泣いた。
落葉が静かに降り注ぐ。
秋は泣き続ける。
季節が恋を牽いていく。
(了)
俺とイチョウとポエムと虹と 与十川 大 (←改淀川大新←淀川大) @Hiroshi-Yodokawa
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