最終話 ピンチからの大逆転!

「それにしても謎解きみたいなお話だったね。私のリアルとは大違い」


 ちょっと落ち込み気味の水香みずかを私はなぐさめる。


「水香の彼氏の忠弘ただひろ君は信じるに値しない男だった。それだけの話よ。他にもいい男なんて一杯いるんだから良い人を探しなさいよ」


「でも、あんな良い人また出会えるかな。私」


 忠弘君をそんな過大評価してどうする!?


「い~~や。水香の彼氏の忠弘っていうやつ、最低だからそんなやつの上なんてそれこそいくらでもいるわよ」


「そうかなぁ?」


「そうだよ。水香は自分にもっと自信を持ちなさいよ。可愛いんだしスタイルだっていいんだから。私が男だったらもっと大事にしてるっての」


 そんな自己評価低くしてどうすると力説する。


「えへへ」


「そこデレない!」


「あっ。忠弘君! ちょっとまっ……」


 彼氏の忠弘君を偶然見つけた水香は、忠弘君にけよっていこうとして立ち止まる。


「どうしたの? あれ? 写真の忠弘君じゃん。って隣にいるあの女なんなのよ」


 私は状況がおかしいことに気付く。


「たまたま一緒にいたのかな。ちょっとタイミングが悪かったみたいだね」


 水香が理解のある彼女なのを見て、やりきれない気持ちになる。


「あったまきた。ちょっと文句言ってくる」


「えっ。いいよ。今日はたまたまかもしれないんだからさ」


 たまたま歩いてるだけで、隣の女と腕を組んで歩くなんて状況になる訳あるか! と私はいきどおる。


「そんなことない。腕を組まれてあんなに楽しそうに笑ってるのは許せない。水香がこんな泣き顔してるのに、それにすら気付かないなんて許せない!」


 そう、水香は涙を流していた。自分ですら気付かずに。そして私が忠弘君。いや、あんな奴は名字でいい。鬼闇山おにやまに文句を言うのを止めようとしている。


「わ、わたし泣いてなんか……ぐすっ」


 泣いていると私に言われ、それに気づきほんとに泣き出してしまう水香。本当に私は今まで生きてきた中で一番怒っていた。


「その涙が見えている以上、水香が泣いてないなんて私には言えない。それなのに、のうのうと楽しんでるあんな奴、私は絶対許せない!」


 私は水香の彼氏の鬼闇山に話しかける。


「ちょっといいですか? 鬼闇山君?」


「ほんとにいいよ! ちょっと加奈子」


 水香は私が文句をいうのをやめてほしいみたいだけど。


「そこの女なんなわけ? 君ってこの子の彼氏じゃないの? なんなの? 君と腕組んでるこの女」


と私は鬼闇山に文句を言う。するとこの鬼闇山は


「この子とは付き合ってる訳じゃないよ。昔から一緒に育った幼馴染なんだ。だから恋愛とかそういう感情はないんだよ」


とぬけぬけと言ってみせた。それを聞いた水香は


「ほんとにもういいから、加奈子!」


「よくない! 水香の心をもてあそんでこんな女と遊んでるのは許せない。しかも今日だって水香はあんたに朝、いきなりドタキャンされたから私とこうして一緒にいるんだよ? それなのになんとも思わないの?」


と私はいきどおる。


「だからもういいって」


と涙を流しながらいう水香をみて、逆に私はこのまま見逃すことはできないと思った。するとこの男は髪をかきあげニヤリと笑いながら


「僕に言いがかりをつけるのはやめてほしいなぁ。僕は別に誰とも付き合ってる気なんてないんだけど? 色んな子と楽しく遊んでるだけだよ。それとも何か? そこの女と僕が付き合って楽しく遊んでたっていう証拠でもあるっていうのかい?」


 コイツ、水香のことを『そこの女』とかいいだしやがった。そういう態度できますか。そうですか。いいじゃない。いいでしょう。分かりましたよ。この売られた喧嘩、私が買って倍返ししてやろうじゃないの!!


「水香は仕方なく私と一緒にいたのに、その理由がこの女と遊ぶためだったとか……鬼闇山君、今の時代の携帯ってほんと便利だよね?」


 私は携帯電話の色んな機能の便利さを本気でめる。


「急になに言ってるの? 加奈子?」


 何が言いたいか分からない水香は本当におろおろしている。けどここで引いたら女がすたる!


「さて、ここに鬼闇山君の写った写メがあります。今、この女と腕を組んで楽しそうにしている様子をった写真です」


と私は見せびらかすが、携帯を取り上げられないように、細心の注意を払いそして続ける。


「そしてここにもう1枚、鬼闇山君の写真があります。そこには……この水香と腕を組んで楽しそうにしてる鬼闇山君が写っています」


 そう言われてやっとこの浮気男は顔色を変える。それを見た浮気男の隣にいた女も顔色を変えた。


「この女と写ってるのが今日で、水香と一緒に腕組んで楽しそうにしている写真が一昨日です。日付も残るから最近の携帯ってとっても便利よね。さて、これでも証拠がないと?」


 私はひらひらと携帯をって証拠ならここにありましたよ? と見せびらかす。


『パンッ!』


と派手な音がする。それは浮気男の隣にいた女の強烈なビンタの一撃だった。そして女は『馬っ鹿じゃないの!』と捨て台詞を残し去っていく。


「浮気男ってみんなに写真バラまくわよ?」


と私は本気で言っていた。相手の女もビンタかまして去っていったのだ。この状況をみんなに知らせればコイツの評判は地に落ちる。


「すまない。僕が悪かった。もうこんなことはしない。水香だけを愛すると誓うよ。だからもう許してくれないか?」


あわてて謝罪してきた。さっきのコイツの態度とこのうわべだけ取り繕とりつくろった言葉を聞いて、私はさらにヒートアップする。


「……証拠見せるまでシラを切るつもりでいて、証拠があったら即『もう許してくれないか?』あんたほんとに最低なんだけど!」


 もう本当に腹が立って仕方がなかった。


「もういいよ、加奈子。私以上に怒ってくれてありがとう。だから私もこれで鬼闇山君とは、もう終わり!」


『パンッ!!』


と派手にもう一度、夏の夜空に花火があがる。

 

 水香が浮気男にビンタしていた。


「あいつにビンタしてみせるなんて。水香にできると思わなかった! よくやった!  もう行こう。こんなやつ放っておいていいよ!」


「……そうだよね、もういいよね!」


 そうよ。こんな最低浮気男は放っておいていいと私は思った。でも水香の爽快そうかいなビンタを見て少し冷静になった私は、この最低浮気男に釘をさすのを忘れない。


「あと鬼闇山君。もし後でなんか言いがかりしてくるようなら、あの写メみんなにばらまくから。水香にも私のパソコンにも写真は送信済みだからね。今回は水香にめんじて許してあげる。だから金輪際こんりんざい、水香にも私にも近づかないで。いいわね?」


と言い、両頬りょうほほを真っ赤にして呆然ぼうぜんとしているこの最低浮気男に私も


『パンッ!!!』


ともう一つ特大花火を打ち上げて、水香と一緒にその場を去った。



「今日の加奈子怖すぎ。いつものお馬鹿な加奈子はどこにいってしまったの?」


 おどおどしていた水香もいつもの元気を取り戻していた。


「どこいったってあんたのせいでしょうが! あんたにひどいことしたあの最低浮気男を問い詰めたら、証拠だせって言い出したからこっちは仕方なく証拠だしてやったのよ!」


「加奈子は私のヒーローだよ!」


めても何もでないわよ……もう、仕方ないなぁ」


 さっきまで泣いてたのにこの子は強い。


「頭なでてくれるの嬉しい」


「今回だけだからね」


 私はよく頑張ったと水香の頭をなでてあげる。


「今回だけ?」


うなずいて


「あんな最低浮気男のことなんて忘れて、ちゃんといい人探しなさいよ」


「えへへ」


「だからデレるなと……! まったくもう、しょうがないなぁ。ほっとけないんだよなぁ。誰か良い人! この子の彼氏になってやってくれませんか⁉」


と私は割と本気でなげくのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天秤にかけたのは彼女の真意。ピンチからの大逆転! 冴木さとし@低浮上 @satoshi2022

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ