第6話 (最終話)止まり木男とピッタリな女。
ラーメン屋を目指しつつも湖西凛が家から来た事を気にして「湖西さんご飯は?」と聞くと「ウチはお父さんお母さんダウンしてるから今日はご飯なしか漬物とご飯くらいしか無かったよ」と言ってくれた。
その後でラーメン屋を目指しながら何があったかを湖西凛が教えてくれた。
「木曜日、仕事終わって帰宅したらそのまま法事に前乗りをするってお父さんが言い出して、それからが最悪だったんだよ」
「最悪?」
「田舎の家は圏外だし、途中でLightningケーブル壊れて充電出来ないし、集まった親戚はなんでか皆充電ケーブルがタイプCだしさ、中にはタイプBもいるんだよ」
「何その話、本当の話?」
「本当だよ。それで金曜日は仕事お休みしてたから良かったけど日曜日の朝一番に帰ろうとしたら親戚のおじさん倒れちゃって身寄りがないからってウチが病院に付き添ったりして、私なんて会社に今週休むって言ったんだよ」
「え…と、じゃあ湖西さんは木曜日に何の予告もなしにお父さんの実家まで連れて行かれて、日曜日に親戚の人が倒れてLightningケーブルが壊れたの?」
「少し違う。Lightningケーブルは土曜日の夜だよ。それで帰りにSAとか寄ってもらって買おうとしたのに、一つは混んでて入れない、一つは道が空いてるからさっさと帰りたいってお父さんが決めてケーブル買えなかったんだよ。だから帰ってきてまだ使ってない機種変の時に付いてきたLightningケーブルを出して充電したの。だからまだ35%…あ、32だ」
ここまで聞けて俺はようやくホッとして力が抜けた。
横で俺の顔を見ていた湖西凛が「そんなにホッとした顔する?」と聞いてくる。
俺は即答で「するよ」と返す。
「もしかして私が既読スルーもしないで未読するようになったと思ったの?」
「それ以上に何かあったかと心配しました」
「…そんなに?」
「そんなにですよ」
その日のラーメンも美味しくて2人で「彼氏とラーメン」「彼女とラーメン」を撮った後、車の中で告白をした。
「俺…湖西さんの事をキチンと知らないんだ。彼氏がいるとか聞いてないけど…好きです。今も何も考えられないくらいで家を飛び出してきてしまうくらい好きです。良かったら付き合ってもらえないかな?」
「池端さん…、本当?私…可愛くないし、別に付き合わなくてもこれからも池端通信を見るよ?」
「本気です。だから良かったら付き合ってもらえないかな?」
「わ…、凄く嬉しい。どうしよう。お化粧してないしラーメン帰りだし、それに貧血持ちだし」
照れてキョロキョロする湖西凛に俺は「湖西さんの全部が好きだから、OKして欲しい」と言うと、湖西凛はモジモジと「…はい。私こそよろしくお願いします」と言ってくれた。
俺は嬉しくて「やった!」と喜びハンドルから手を離したら湖西さんに「怖い怖い!ダメだよ」と怒られた。
見送る時、ラーメン味だけどと笑ってからキスをして送った。
そして帰り道に入ってきたメッセージは「ちゃんと言えなくてごめんね」だったので俺はすぐに車を路肩に停めて「変に心配してごめんなさい」と返す。
こうして俺達は始まった。
翌週、俺は湖西凛に無理を言って湖西家にお邪魔した。
男がお邪魔するとあって臨戦体制の両親の前に出た俺は「この度、凛さんとお付き合いさせていただく事になりました池端大介と申します」と土産付きで挨拶をした。
「えぇ?池端さん?まだお付き合いして1週間だよ?それに名前呼び…初めてがお父さんお母さんの前?」
「どうしても挨拶をしたくて」
真っ赤になって言い合う俺たちのやり取りに毒気の抜かれた両親から馴れ初めを聞かれた。
俺はある程度を誤魔化して「電車で辛そうにしていたので声をかけました。こちらのバス停は知っていたので信用してくれるなら送ると言いました」と説明をすると、湖西父は「ナンパか?」と睨んできて、湖西母は「アンタまた貧血で電車も乗れないくらいだったの!?」と湖西凛を怒る。
怒られても湖西凛は「遅い新年会の日、貧血気味だから帰りたいって帰ろうとしたら酔っ払った同僚が送ってやるってついてきて困ってたら池端さんが助けてくれたんだよ」とキチンとあの酔っ払いの話をした。
貞操の危険すらあった事に湖西父は頭を抱えた後で「池端さん、娘が世話になりました」と言ってくる。
「いえ、なんとなく放っておけなかっただけです」
俺の返事に湖西母は「凛、本当に滅多にない偶然よ?池端さんが居てくれて良かった」と言う。
「それで?今日は挨拶だけかい?」
「あの…少しお願いとお許しを頂きたくて来ました」
何も聞いていない湖西凛は「池端さん?」と言い、湖西父は「言ってください」と言った。
俺は「初めて会って2人で食事をしたのが夜なのでたまに平日の夜に会って食事に行く事を許して貰いたくてお願いにきました」と言うと、これには湖西凛が真っ先に反応をして「池端さん?夜ご飯?」と聞き返してくる。
「仕事で疲れても偶然同じ電車で帰れた日、あの夜道を車で送る時間も帰りの時間も無くしたくなくて、もう凛さんはこっちで仕事をしているからキチンとご挨拶しないと会えないと思ったんだ」
ここに湖西母が「凛、最近土日にお昼いないのは池端さんに会っていたんじゃないの?」と口を挟む。湖西凛は「うん。一緒にご飯してました」と言う。
ここで湖西父が「なら夜会えば昼はいらなくなるのかい?」と聞き返してくるが俺は「いえ、昼も夜も会いたいです。出来るなら早朝から迎えに来て朝ご飯も食べに行きたいです」と言う。
「ハッキリと言うのな」
「はい!」
「それは凛の体調次第だから好きにしてくれ。知ってるだろうがうちの娘は貧血が酷くてな」
「ありがとうございます」
夜会う事を認められて喜ぶ俺に「池端さん…、それの為に来たの?」と湖西凛が聞いてくるので俺はニコニコと「はい。そうしないとこの先結婚の挨拶とかに来た時の心象が悪くなると思ったんだ」と思ったままを伝える。
「結婚!?」
「俺はその気だから湖西さんが良くなったら教えて」
「おいおいおいおい、なんか熱意が凄いな」
「本当、凛は何をしたの?」
「何もしてないよ!嬉しいけど順番が無茶苦茶だよ池端さん!」
「そんな事ないよ。湖西さんが大切だからキチンと行動してるんだよ」
俺の熱意に驚いた湖西父が「お前、どうやってこんなに惚れさせたんだ?」と言い、湖西凛は「知らないよ!私はちょうどいい女でこんな経験無いんだよ!」と赤くなる。
湖西父が湖西凛からちょうどいい女の説明を聞いている時、湖西母から「あの、熱心なのは嬉しいんですが、重い貧血で普通の事が難しい事もありますよ?家事とかも…」と言われた。
「大丈夫です!家事は俺もやります!」
「ご迷惑をかける事だって」
「迷惑だなんて思いません!」
「…えっと……えぇ……」
困惑する湖西母の後ろで怒り出す湖西父。
「うちの娘をちょうどいい女だと?」
「お父さん、怒る事ないよ!」
俺は怒る湖西父を一度放って湖西凛に「湖西さんはちょうどいいよね」と言う。
ちょうどいい女で怒っている湖西父は「あぁ!?」と言って睨んできて、湖西凛は「池端さん?」と聞き返してくる。
「俺、この前連絡のつかない日にちょうどいいって意味を調べたら中に「ピッタリ」ってあったからさ、それも言いたかったんだ。湖西さんは俺にピッタリな人だよ」
「ピッタリ…」
この話に湖西凛は呆気に取られ、湖西父母は「もう恋愛でもなんでもよろしくやってくれ。結婚は凛がその気になったら言いに来てくれ」「本当、今日もデートするなら行ってらっしゃい。ご飯が居るかと何時に帰ってくるかは教えてね」と言ってくれた。
2人で外に出てコインパーキングまで歩く中、湖西凛が「池端さん!」と言う。
「はい?」
「恥ずかしいよ!」
「でもこうでもしないと本気が伝えられないかなって思ったし、結婚したいし…。それに俺は止まり木男だから」
そう、俺はただ止まって木の実を用意する止まり木男だと自覚している。
だからこそ初めて欲しい、逃したくないと思えた湖西凛には本気を見せる。
湖西凛は顔を真っ赤にして「もう、ピッタリなんだから離れられないよ」と言ってくれた。
「とりあえずお昼ご飯行ったら何処かドライブしようよ。池端さんの運転は上手だから乗ってたいよ」
「ありがとう。じゃあ、行こうか?」
俺は助手席を開けて湖西凛を乗せると軽快に車を走らせた。
池端通信は近く配信停止すると思う。
それも俺の自由だと俺の女神は教えてくれた。
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