第4話 女神の言葉。

俺は車のドアを開けて助手席に湖西凛を座らせると「今日…忙しいかな?」と聞いた。


「池端さん?」

「良かったら、あのラーメン屋行かないかな?体の調子が悪かったら別の店でもいいから、久しぶりだから何処か食事…」


正直、女性を誘うのにいきなりラーメン屋はどうなのかと思ったが洒落たものは何も知らない。


「いいよ。じゃあ家にはご飯食べて帰るって入れる」


こうして2人でラーメン屋に行く。

普段はカウンター席なのだが今日はテーブル席。


そして背脂醤油ラーメンを頼んだ俺を見て湖西凛は味噌チャーシュー麺を頼んで「貧血にはお肉でお医者さんからも牛とか豚を食べなさいって言われるから頑張っているんだ」と言って笑った。


「貧血酷いのはいつから?」

「もうずっと、学生してる時から」


「そっか、今度お肉のお店とか行く?」

「え〜、いいけどさ」


そんな話をしていても届くラーメン。

さっさと写真を撮ると「あ、これ次来る?」と湖西凛に聞かれる。


「そうだね」

「じゃあさ、私も撮って池端さんも撮って、更に私の手だけ写り込ませて「彼女とラーメン」とかにしてみたらどうかな?コメントが返ってくるかもよ?」


「それは楽しいけど湖西さんに悪いよ」

「悪くないよ〜」


そう言って味噌チャーシュー麺の写真を撮った湖西さんはスマホを触ると俺の所に「彼氏とラーメン」と言って入ってきた。


そこには腕だけ出ている俺が居た。

「どう?イケてる?」

その言葉だけで俺は真っ赤になってしまう。

その顔を見られたかわからなかったが湖西凛は「その写真も使ってさ、池端さんの写真と合わせようよ」と言ってラーメンを食べた。


俺は食後の丼と共に「彼女とラーメン」を撮った。


「おお、池端さんは食後にしたんだ。なんか良いね」

「なんか送るのが勿体ない」

素直に言葉が出た。

これは他の人には見せたくない。


ただ発信者としてそれはどうなのだろうかと思ってしまった時、湖西凛は「それは好きにして良いんだよ」と言った。


驚いて「え?」と聞き返す俺に「だってさ、毎日善意で掃除をしてくれる人やさ、音楽をかけてくれる人達だって休みたい日は休んでいいから、池端さんが嫌な日は休んでいいんだよ」と言ってくれた。


その言葉ですら俺には天啓だった。

いつの間にか義務になっていた。


誰かに何かを届けたい。


届けたいが届けなければならないになっていた。


俺にとって湖西凛は女神のようだった。

ラーメン屋を出てコンビニに立ち寄る。

口直しにお茶を買って少し飲んでから車を走らせると湖西凛が「少しだけボヤいてもいい?」と言ってきた。


「どうぞ」

「ありがとう。私ってさちょうどいいんだって」


「ちょうどいい?」

「ちょうどいいブス、ちょうどいい遊び相手、ちょうどいい女…そんなちょうどいいなんだって」


今まさに湖西凛を女神のようだと思った俺は素直に面白くなく「そんな…失礼な話だ」と行った時、湖西凛は「あの酔っ払いもワンナイトラブの遊び相手にちょうど良かったのにすっぽかされたって怒ってた」と続けた。

俺はあの巨体の牛男を思い浮かべて「アイツ…」と言ってしまう。


「池端さんもラーメンに誘いやすかったから、ちょうどいいから私を誘ったんじゃないの?」

「そんな事ない。あの…あのさ、変な風に思われたくないと言うか嫌われたくないと言うか…」


「池端さん?」

「湖西さんは俺の欲しいものを全部くれた凄い人で、嫌われたくないし、好かれたいし、これからもたまにで良いからこうして会えたらって思ってる。顔を忘れないように、声を忘れないように会いたいです。それでいて普段は今までみたいなメッセージのやり取りをしたい……あ…焦ってムキになって変な事…ごめん」

勢いで言ってしまって焦ってしまう。

なんとしてでもここで伝えなければと俺は思った。


「私?私が池端さんの欲しいもの?」

「うん。止まり木の話も、メッセージを人に送る話も、さっきの送りたければ送ればいいも全部欲しい言葉だった」


少しの沈黙。

会話の邪魔だからと車の音楽は止めているので対向車の走行音が聞こえてくる。

少しの沈黙の後で湖西凛が「そっか。嬉しいです、ありがとう池端さん」と言った。


「私こそこれからも会えたら嬉しい。ほら、私って可愛くないし、何処にでもいる顔してるし…、貧血ですぐ調子が悪くなるし…」

「俺は湖西さんと会えたら嬉しいから体調優先でいいし、それこそ辛い日は呼んでくれれば送るからさ」


「なんか照れる」

「俺も照れてる」


「ありがとう池端さん」

「俺こそありがとう湖西さん」


なんかこれ以上は踏み込めなかった。

ちょうどいい女扱いをしている風に思われたらと思うと踏み込めなかった。

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