第2話 お礼。
車を走らせると湖西凛はすぐにシートに身を委ねて辛そうにする。
俺はシートは好きに倒してくれと言うと湖西凛は少しだけ倒した。
「家族とか居るなら連絡すれば?」
「それはダメかな。お父さんは飲んでる時間だし、お母さんは運転下手だし…2人とも私の貧血を気にして近所で働けって言うから」
ウチからは頑張っても30分かかるので世間話をする。
歳を聞くと24歳、専門学校を出て今の会社に勤めて3年と少しらしい。
「池端さんは?」
「27歳」
「ずっと同じ仕事を?」
「ええ」
そんな話をしながら進んで行く。
「池端さんのご家族は?同居?」
「いえ。手前の急行駅に住んでますよ。俺は社会に出ると同時に独立しました」
「そうなんだ。車は実家に無いんですか?」
「ああ、さっきの質問はそう言う事ですね。車があるから家族と同居なのかって…。
ウチの親、ケチなんですよ。自動車保険に年齢割引ってあるじゃ無いですか、俺が居ると高くなるからって嫌がるんです。それにケチなんで例えシェアをしても中々使わせたがりません。お金の面ではレンタカーの方がいい場面もありますが乗るべきタイミングで乗れないと困りますから車を買いました」
湖西凛は俺の説明に「成程、それのお陰で私は助かりました。ありがとうございます。それに池端さんは運転が上手だね。乗ってて酔いません」と言う。
「いえいえ」と返す俺に湖西凛は「池端さんは夜ご飯はどうされるんですか?」と聞いてくる。
案外湖西凛は話好きで沈黙が苦手みたいだ。
「ああ、折角なのであの国道沿いのラーメン屋に入ります」
「あの角のですか?」
「ええ、知ってたんですね」
「はい。でも行ったことはないんです。あそこ美味しいんですか?」
「まあ、ただコッテリなので気持ち悪い日は難しいですね」
「あー…そうですね。帰ったらお茶飲んで寝ます」
「それがいいですよ」
もう後10分もすれば話に聞いていたバス停辺りに着く。
「やましい事は無いので良かったらバス停よりもコンビニが家に近ければコンビニまで行きますけど?」
「良いですか?助かります」
「ここまで来て見捨てるのは気になりますよ」
そうするとバス停の奥に駐車場のあるコンビニがあるからと言われたので目指す。
「あの」
「はい?」
「今日のお礼を考えてました」
「いりませんよ」
「それは私も困るんです。タクシーなら相当かかりますし、タクシー代の事で家の前に来られると親にバレて大変なことになったし、あの酔っ払いから逃してもらっていると思うと…。何かありませんか?」
「それ、気をつけないといやらしい事とか言われますよ?」
「言いますか?」
「俺は言いませんよ」
「なら平気です。これでも人を見て判断してます」
「そうですか?」
俺の言葉に「そうですよ」と返す湖西凛に少しだけお願いはできていたが言うのははばかられた。
だが目的地が近づいてくると湖西凛は慌てたように「何か言ってください」と言うので「笑いませんか?」と聞く。
「え?…はい」
「嫌なら拒否をしてもらって構いません。良かったらメッセージアプリのフレンド登録を頼んでも良いですか?」
突然そんな事を言えば当然「え?」と聞き返される。
覚悟をしていた俺は「いや、嫌なら構わないんです」と言って笑い、拒絶も覚悟していたのに湖西凛は「良いですよ。でも目的は?」と聞く。
「笑いませんか?」
「はい」
「何となく目に付いたものとか気になった話を送ったりします。既読無視で問題ありません。気が向いたら返事をください」
俺の趣味みたいなモノで見かけたものを撮り溜めて知り合いに発信をする。
正直この横に乗る女性はそれを見てどう思うかと気になり始めていた。
「それだけ…ですか?」
「ええ、それだけです。SNSの不特定多数に送るのって苦手で顔を知っている人に送りたいんです」
「わかりました。楽しみに待ってます」
楽しみに待つ
皆始めはそう言う。
話の後でコンビニに着くと湖西凛は中に入って行ってお茶を2本買ってきて2本とも俺に渡す。
「湖西さん?」
「お礼です。これで往復のガソリン代にはなったと思うので…これ以上は池端さんが遠慮するかもと思って我慢です」
俺はなんとなく楽しい気持ちになり「ピッタリです。ありがとう」と言って見送ろうとしたが見送りたいと言われたのでフレンド登録だけするとラーメン屋へと向かった。
背脂の浮かぶ醤油ラーメンを頼み、スマホで写真を撮ると湖西凛を含めた知り合い達に「夕飯!今日は背脂醤油ラーメン!」と書いてメッセージを流す。
その後はひとまず知らない。
とりあえず目の前のラーメンが冷める前に急いでかっ込む。
そして火傷しそうな喉を水で冷ましてからスマホを見る。
既読は10。
返事は湖西凛の「早速だね。ご飯が遅くなってすみませんでした」だけだった。
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