世界に一つだけの英

たてごと♪

世界に一つだけの英

「あらジンディ。久しぶり」


「やほー、ファネーラ」


「あ、こっこんにちは……」


「はいこんにちは、貴方あなたは? 私はファネーラよ」


「あ、ぼっぼく、ノフォールっています……」


「ノフォール君ね。初めまして、よろしくね」


「よっよろしくお願いします……」


「えーなにジンディ。こんな可愛らしい男の子連れちゃって、なんか目覚めちゃっ」


「違ううぅぅう!」


「あら必死?」


「ぐぬぬ」


「それで? 本日のご用向きは?」


「それが、こいつとはちょっと前に出会ったんだけどさ。身寄りが無いんだ」


「それをいいことにかどわかしちゃっ」


「独り立ちまでって条件で面倒る事にしたんだよ!」


「あら青天のへきれき? 〝魔術と結婚した女ウィッチクラフト・ワイフ〟さん」


「ぐぬぬ」


「いえでも本当に珍しいじゃない。貴女あなたが弟子るなんて」


「……見てらんなかった」


「え?」


「見てらんなかった! あ、あいつら、寄ってたかって……っ! だ、だから……っ」


「ふうん。まあ、それもいいでしょう。でも、それで私の所に来たっていうのは、つまり」


「……そうなんだよ。できないんだよ。こいつもがんってるのに、あたしだって手ぇ抜いてないのに……」


「あらまあ」


「あたし〝魔術師メイジ〟だし、じゅつしか教えらんないのに……なのに」


「なら見捨てちゃう?」


「……真面目に悩んでるんだよ」


「ごめんなさい。ところで、技能スキルの鑑定は?」


「受けた。受けさせたけど……」


「芳しくなかった?」


「……一つも無いって」


「一つも」


「〝魔術マギ〟どころか、他のどんな技能スキルも無いって! 何やらせてもダメだって! う、うそだよな? そんなはず、無いよな……?」


「それは困ったわねえ」


「でもお前なら! ファネーラならどうにかできるだろ! あたしがじゅつつまづいて、師匠にも見放されてたとき、お、お前が……」


「そんな事もありましたねえ。でも私が、お金とかじゃあ動かないって事は貴女あなたも」


「……あい、お土産みやげ。ヴァルアンテッサていの〝遊牧民の蜜パストラル・カスタード〟な」


「大船に乗ったつもりでいなさい」


「金より安いんだよお前」


「と、いうわけなんだけれども。ても、いいかしら?」


「あ、そっその、るって……?」


「私ね。〝導師グル技能スキル持ってるのよ」


「〝導師グル〟……?」


「そう。その人に必要なのは何か、それがわか技能スキルね」


「す、すごいです……!」


「でもねえ、これってひどい副作用があるのよね」


「ふ、副作用、ですか……。それってあの、三日三晩苦しむとか……」


「うーん、それくらいならまだマシねえ」


「えっ」


「違うの。何が必要かわかるって事は、その人の現状も全部わかっちゃうって事なのよ。何から何まで全部、ね」


「ぜ、全部、ですか……?」


「そう、丸裸。暴かれたくない事だって、たまには有るでしょう。それをみだりに言いふらしたりはしないけど、少なくとも私には全部わかってしまうわ。まあまあ、〝人物鑑定アプライズ〟の上位みたいなものねえ」


「……」


「あらあら、うふふ。どうするの? やめるって言っても〝遊牧民の蜜パストラル・カスタード〟は返さないけどゼッタイに」


「いや。ゼッタイなのかよ」


「そう、ゼッタイ。……命に代えても」


「この上なく真剣な顔しやがって……何がお前をそこまで……」


「それでは、どうしますか? ノフォール君」


「……」


「……」


「……す……」


「ん?」


「お、お願いします!」


「あら」


「このままじゃジンディ様に、ずっと迷惑掛けっぱなしだから……だったら、だったら……!」


「えーなにジンディ。様付けで呼ばせてるの? やらしいわあ」


「本当に違うから! こいつがやめてくれないだけだから!」


「あらごちそうさま」


「ぐぬぬ」


「はいはい、それでは失礼しますね。えーどれどれ……っえ」


「え……な、何だよ……」


「……うーん、これって……はー……」


「そんな、やっぱダメなのか? ダメじゃないよな?」


「はいわかりました。導きが必要なのは、ノフォール君じゃなくてジンディだわね」


「何だって? それって、あたしの教え方がマズかったとかそういう……」


「それはむしろ、逆ねえ」


「逆? どゆ事?」


「まず残念ながらね、〝魔術マギ技能スキルが無いのは本当よ」


「……っ……」


「でもねえ、この子。一般的なじゅつとかは全然だけれど、オリジナルのじゅつだけ一つ、完成させてるわ」


「えっ! そうなのか? そうなのかノフォール!」


「……はい」


「やった……やった! やったやったやったやったやった! よかったノフォール……っ!」


「あっジンディ様……っ、苦しいです、苦しいです……」


「でも、でも何でだ? できるんなら何で言ってくれなかったんだ?」


「あ、そっその、それは……」


「これは言えないわよ。言ってしまったらある意味、世界が終焉おわるやつよこれ。だから、私からも言えないわあ」


「何、それ……そんなすごいもん、自力で創っちまった、って言うのか……」


「そうねえ、ある意味すごいわ。まあ間違いなく、史上初じゃないかしら」


「ん、いや待て。さっきからその、ある意味ってどういう意味だ? まさかポンコツだとか……」


「んーん、本当にものすごじゅつよ。使われたら本当に世界が終焉おわるわね。だからねえ、本人にも使うつもり無いみたいよ」


「そ、そっか……せっかくそんなにすごいのに、使えないのは残念だなあ……」


「……」


「で、でもさ……ノファールが何もできない奴じゃないって、あいつらが言うみたいな能無しじゃないってわかって、よかった……本当によかった……」


「それは本心かしら?」


「え……何だよ」


「どうせ、見限るつもりサラサラ無いんでしょう? だからこそ鑑定の結果も、素直に飲まなかったんでしょうし。能力ので人を判断するって、貴女あなただいきらいな判断基準だったわねえ」


「ぐぬぬ」


「そういうわけでジンディ、貴女あなたこの子と結婚しなさいな」


「……は?」


「え、あっあの、ファネーラさん?」


「まあ本当にこんいんを結ぶとかは、別にしてもね。この子がとんでもない宝物だって事だけは、間違いないわ。貴女あなたは一生掛けて、この子をまもり抜くのよ。ゼッタイに手を放してはダメ」


「いや、どゆ事? どゆ事?」


「説明はしないわ。仁義に反してしまうもの」


「じ、仁義ぃ?」


「いいから黙って言う事を聞きなさい。私が間違った導きをした事が、一度でもあったかしら?」


「あっはい」


「よろしい」


「あ、そっそのファネーラさん! あ、ありがとうございます……」


「ふふ、がんってね。応援するわあ」



     †



「ふええ、美味おいしいですううぅぅう!」


「たんまりといただいたわ。たんとおあがり」


「こんなに美味おいしいのに、ファネーラは甘いものダメなんて可哀そうですう」


「いいから食べなさい。ほらほら」


「うにゅう。それにしてもあの、〝魔術と結婚した女ウィッチクラフト・ワイフ〟が弟子ですかあ」


「そうよ。笑ってしまうわね」


「寄るひと寄るひと、ことごとく平手打ちにしてたって聞きますよお? 物理で」


「どうせ力とか名声とか、そんなのが目的の人ばっかりだったんでしょう。彼女、そういう人たちだいきらいですもの。まあそれって、あとあの彼を拾ったのも、彼女の生い立ちの影響なんでしょうけどねえ」


「生い立ち、です?」


「それはそれはひどかったのよ。ええ……ひどかったの」


ひどかったんですかあ」


「彼女がメキメキ力をつけたのも、それを見返したいっておもいが原動力にあったんでしょうね」


「えっとお、それはそれでカッコいいですけどお、その手段が目的になっちゃうのはアレじゃないですかあ?」


「〝魔術と結婚した女ウィッチクラフト・ワイフ〟、だなんて呼ばれちゃってね。本当におかしいわあ」


「ところでところでえ、〝魔術マギ技能スキルが無い人ってじゅつ、使えないんじゃなかったんですかあ?」


「うーん、使える使えないで言えば、実は使えるのよね」


「えーじゃあ、〝魔術マギ技能スキルの存在価値ってえ」


「船よ」


「船え?」


「そう、船。大海を渡るには普通、船が必要なの。泳いで渡ろうとしたところで、体温奪われ続けて普通に衰弱するし、そもそも人はしおより速く泳げないし、大波や肉食魚からも逃げきれるわけが無いし。現実的に無理なのよねえ」


「えーそんなの死んじゃう。なのにその男の子くん、泳いで海を渡りきっちゃったのお?」


「そうなのすごいでしょ。じゃなくて本当に、命の危険があるのよ。普通じゃないわあ」


「そっかあ、それは確かにお宝だねえ」


「ううん、違うの。宝物ってったのはそっちじゃないわ」


「あー、オリジナルのじゅつう?」


「そうそれ。あんなすごいもの、生まれて初めて見たわあ」


「えーそれ、どんなシロモノだったんですかあ? 言っただけで世界が終焉おわっちゃうとかヤヴァイですう」


「あら。やっぱり聞きたい?」


「聞きたい聞きたーい」


「うふふ、ナイショにできるわね?」


「言わなーいゼッタイ言わなーい」


「〝ジンディがノフォールを好きになる魔術メイクジンディ・フォーリンラーヴ・ウィズノフォール〟。彼がいのちけで獲得した、彼専用の、世界に一つだけのじゅつよ」


「……わーお」



     †



はな】(名詞)

 〈とても美しい花〉転じて〈とても優れた者〉の意。

 そーいやこの字って{くさかんむり}だった。



゠了゠

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世界に一つだけの英 たてごと♪ @TategotoYumiya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ