エピローグ★【ジュキ視点】

 街道沿いの宿屋の一室、質素なベッドが二つ並んだうす暗い部屋――


 俺たちはそれぞれのベッドに腰かけて向かい合っていた。


「あのトランクの中、実は今までにジュキからもらった手紙やプレゼントが入ってたの」


 レモは恥ずかしそうに打ち明けてくれた。


「全部とっておいてくれてたのか――」


 なんていとおしいんだろう…… 俺はまたレモを抱きしめたい衝動に駆られる。いけねぇ、押さえなくちゃ! 一時の衝動に身を任せるより俺は、彼女を大事にしたいんだ! そもそも節約のために部屋を一つしか取らなかったのが間違いだったのか!?


「ジュキ、どうかした?」


 レモがいたずらっぽい瞳で俺をのぞきこむ。


「い、いや、あのな、むかしの手紙やプレゼントがなくったって、今は俺自身がいるからいいだろってことよ!」


 慌ててしどろもどろになる俺。


「うふふ、そうね!」


 レモは大胆にも俺の隣に座ってきた。


「あたし今、すごく幸せよ!」


 満足そうにほほ笑む彼女の笑顔が、うす暗い部屋をぱっと明るくする。


 俺も幸せだって言おうとして、でもこんなうす暗い部屋で二人きり、そんな話したら――などと躊躇していると、


「大きなベッドが一つの部屋の方がよかったかしら?」


 と、からかわれた。


「俺はレモの護衛じゃなくなったってあんたを守りたいんだ! 襲っちまったらシャレになんねぇだろ?」


「でもあたし、守られてるだけの女の子じゃないのよ?」


「――――!」


 レモの朱い唇が近づいたと思ったら、俺の口もとを軽くかすめた。


 うわぁぁぁ、いま絶対キスされた!! 心臓が飛び出しそうになるのがバレないよう、レモを抱きしめる。強く、強く―― 十年分の想いがあふれてきて、どんなにかたく抱擁ほうようしても足りなかった。 




 ――もうお前は魔界の姫ではない。ただのレモネッラだ――


 アンリの兄貴が言ったように、ようやく俺たちは姫と騎士という立場から自由になったのだ。


 だがその言葉には続きがあった。


「――ジュキエーレよ、私の大切な妹を幸せにしてやってくれ……」


 礼拝堂の天井から飛び立つ前、俺の頭の中には確かにアンリの声が響いたのだ。おそらく彼は魔法でテレパシーを送ったのだろう。




 もちろんだよ、アンリ閣下。これからは護衛としてじゃなくて恋人として、レモを守ろう。そして俺がこの手で彼女を幸せにするんだ!

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魔王の娘は護衛の騎士と逃げ出したい ~恋心を隠してきた幼馴染から「愛さない」と言われてショックを受けていたのに私が追放された途端、溺愛されて幸せです~ 綾森れん@初リラ👑カクコン参加中 @Velvettino

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