死霊と魔物
冥界に解き放たれる魔物達。その先頭を飾ったのはエクスだ。
「っしゃァ、出番だなァァァッ!!!」
現れた人狼は、炎と氷を纏いながら一瞬で走り抜け、先ずは最も近くに居た桃色の十七死天。忘現のラミスに殴りかかった。
「ふふ、私の場じッ!?」
「オラッ、先ず一体なァッ!!」
余裕そうにしていたラミスの体にエクスの拳が突き刺さり、爆発する炎に巻き込まれてラミスは焼け焦げた肉片と化して吹き飛んだ。
「……なるほどな。アレは呪いの類いだったか」
冷静に呟くイヴォル。ラミスの幻覚のことだろう。確かに、本人も幻覚とは少し違うとは言っていた。なるほどね、呪いならエクスに効かないのも頷ける。
「あれだけボロボロになれば再生にも時間がかかるかな?」
「そうだな。
そう言ってイヴォルは杖を構える。
「これで余裕が出来たな。大規模魔術を行使する」
「じゃあ、護衛は任せて良いかな……ネロ、ロア、クレス、レタム、アスコル、ボルドロ。イヴォルの……いや、イヴォルとアースの護衛をお願いね」
アースとイヴォル、クレスの魔術系は同じラインで互いを守り合う形にすればかなり万全だろう。空はボルドロ、地中はレタムとアース、地上はネロ、ロア、アスコル、イヴォル。相手がこっちを閉じ込めて来るのなら、全く動かずに要塞化してしまえばいい。
「ふむ、そこまで状況が整うならば……これで良いか」
イヴォルの体が宙に浮かび、彼を中心に見えない無色の魔力で作られた無数の陣が球状に展開される。
「
宙に浮かぶ固定砲台と化したイヴォル。この状態のイヴォルは高速で幾つもの魔術を発動できる。
「やぁやぁ、何を油断してるのかなぁ? この僕が居るって言うのにさ」
僕の背後に現れた黒ローブ。闇そのものと宣ったその能力は本物らしく、一切の予備動作なく彼は現れた。
「してないですよ?」
迫る闇の凶刃。しかし、それはエトナの短剣に防がれた。
「へぇ、やるじゃないか。中々面し――――」
「――――
黒いオーラを纏う黒い結晶の拳。ラヴのくれた装備によって更に威力が上がったその拳は、何と一撃で黒ローブの体を爆発四散させた。
「ワンパン。やるね、メト」
「いえ、殺せてはいないのでワンパンではありません」
それはそうだけど。
「おぉ、始まったね」
放たれ始めたイヴォルの魔術。しかも、一つ一つが見たことも無いような大魔術だ。迫る死霊の軍勢は大体これだけで倒せるだろう。問題は、
「俺、正直暇してるんですが……何かいないかなぁ」
呟くベレット。その背後の空間が歪み、青緑のローブ……シアンが現れ、その刃を振り下ろす。
「あれ、防げない。空間魔術? 厄介な相手かもなぁ」
即座に血の防御を展開するベレットだったが、シアンの剣はそれを貫通してベレットの首を刎ね飛ばした。が、宙を舞うベレットの首から赤い血が伸び、胴体と繋がり、いとも容易く元に戻る。
「お前……吸血鬼か」
「そうさ。俺は吸血鬼、ヴェレッド・ヴェルエール。お前程度の木っ端じゃとても敵わない強敵だよ」
ベレットの体から血が噴き出して伸びるが、シアンは転移でどこかに逃げ去った。
「あら、逃げられたか。暇が潰れるかと思ったんですけどね」
「……そろそろ、状況が変化するかな」
気付いたことがある。多分、冥王にとって
実のところ、彼らが冥王にとってそこまで重要度の高い戦力でない可能性はあると前々から思ってはいた。前回、冥王は二人だけしか
そして、その疑念はこの戦いで確信に変わった。十七死天はそれぞれ特有の技能を持ち、色々と重宝する人材だが、その戦力自体はそこまで高い訳ではない。
今のところ、十七死天で最も強いのは雷黄の死天ケトランティヌスだ。その彼でさえ、イヴォルを前にすれば一瞬で倒された。
「つまり、これはこっちの戦力を確認してるフェーズってところかな」
大量の魂を生贄に捧げて作られた結界。そのコストは尋常ではないが、元はイヴォル一人で簡単に殲滅できる程度の雑兵だ。冥王にとっては大した価値のない戦力だったはずだ。だから、この結界もただ様子見の道具である可能性は高い。
「冥王は慎重な性格、イヴォルが言ってたね」
それは恐らく、真実だろう。良かった、僕はまだ全ての戦力を見せていない。奇襲力の高いエフィン率いるゴブリンスケルトン達、シルワやセイン、ディアンもまだ出していないし、ストラ達も切り札として取っている。
「
そうしないのは、こっちが全ての力を見せる最低限の戦力だけを用意したってことだろう。冥王、完全に自分の戦力をリソースとしてしか見てないね。
「まぁ、相手がどんな屑でも良いよ。寧ろ、その方が良い」
加減も容赦もせずに殺せるからね。
Chaos Odyssey Online 〜VRMMOで魔王と呼ばれています〜 暁月ライト @AkatsukiWrite
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