冥王軍
イヴォルは忌々し気にどす黒い結界を睨む。
「ネクロ、あれはそう簡単に破れる結界ではない。膨大な量の魂を生贄に作られたものだからな」
「なるほどね。じゃあ、ここで勝負をかけるつもりかな?」
こちらが自由に動けず、逃げることも出来ない今、向こうは絶好の攻め時だ。
「恐らくな……来るぞ、十七死天が」
城の方から、大量の人影が見える。その殆どが、いや全てがアンデッドなのだろう。さっきと違うのは、鎧や剣を装備したまともな戦力であるということだ。
「まぁ、幾ら閉じ込められたところで、全員倒せば同じだからね」
条件はそう変わっていない。結局のところ、ただの総力戦だ。
「でも、僕らを閉じ込めて外から魔術を連打とかしてこないんだね」
「私が居るからな」
なるほどね。それはそうだ。幾ら身動きが取れなくても、イヴォルが居れば大抵の魔術は無力化してくれるだろう。
「さて、そろそろ入ってくるね」
「あぁ、洗礼を浴びせてやろう」
軍勢が結界に踏み込んだ瞬間、彼らの足元から巨大な火柱が立ち、灰に変わる。
「この程度では雑兵と変わらんな。少なくとも、私が自由に動ける間はな」
再度杖を振り上げたイヴォルの背後、その空間が
「――――あぁ、だから止めに来た」
褪せた青緑色のローブを纏った男がその歪みから現れ、歪みを纏う剣を振り下ろした。
「
「断る」
イヴォルの姿が魔力の霞と化して消え、シアンの後ろに現れる。
「やはり、一筋縄ではいかないか……虹の賢者」
「空間に干渉し、転移し、斬る。三工程かけるその間に私が気付けないとでも思ったのか? 遅いのだ。幾ら転移しようともな」
青緑のローブがはためき、その姿が消える。
「殺せなくとも、構わない。お前の大魔術を抑止し続けられればそれで十分だ」
空間が歪み、また男が現れた。
「勘違いしているな。お前の相手など片手間で十分だ」
シアンの振り上げた剣は振り下ろされることなく、その場で止まった。
「ッ! 空間の固定か、万能め」
「言っている場合か? ほら、貴重な戦力が削れるぞ……『
空に展開される超巨大な魔法陣、そこから紫色の花弁を持つ巨大な薔薇のような花が現れ、その根元から無数の大きな茨を伸ばした。
「幾ら固定しようが、空間自体を歪め、脆弱にすれば無意味だ……次は通じないぞ、賢者」
「次? 私が同じ手を使ってやるほど優しい相手だと思われているとはな」
シアンの姿が消える。イヴォルの居るその場所に揺らめきが見える。
「ほう」
「惜しいな」
ぐにゃり、その空間が歪むより速く、イヴォルはそこから転移で逃れていた。
「次だ」
シアンの姿がまた消える。次の瞬間、イヴォルの頭上に歪みが見えた。
「死ね、賢――――」
「クフフ」
シアンが姿を現した瞬間、魔法陣から伸びる漆黒の鎖が彼の体を雁字搦めにした。
「好き放題に力を見せて、喋って……私、人の考えを読むのが得意なんですよ。悪魔ですからねぇ」
「ッ、動けない……転移も、出来ないッ」
藻掻くも、動けないシアン。それを見てネルクスは笑う。
「クフフ、次に貴方がどこから現れるか、予測するのは簡単でしたよ?」
「良くやった、悪魔。『
虹の魔力が迸った瞬間、シアンの体が橙色に光り、爆発した。その爆発によってシアンは木っ端微塵になり、拘束するものを無くした闇の鎖は魔方陣からだらりと垂れる。
「そんな簡単に
ゆったりと余裕を持った歩調で歩み寄る褪せた橙色のローブを纏った男。
「おれはキラガ。
「一人でのこのことやって来て、死にたいのか?」
キラガの頭上に展開された魔法陣、そこから雷が落ちた。
「そこで死なせないのが僕の仕事って訳だ」
しかし、いつの間にかその場に立っていた褪せた黒いローブの男が展開した黒いバリアによってキラガは守られた。
「僕の能力は闇そのものさ。闇を操り、闇と共にある。闇あるところに僕あり。真っ暗なこの冥界じゃ僕は最強って訳。いつだって、どこだって、自由自在さ」
「そうですか」
男が気取った笑みを浮かべた瞬間、何かが駆けた。エトナだ。
「なッ」
気付くよりも早く、首が落ちた。キラガの首だ。
「がッ!?」
「闇そのもので、いつだってどこだって自由自在。それなのに姿をずっと現したままじゃ意味ないと思うんですけど」
首が落ちた。黒いローブの男の首だ。
「良くやった。先ずは封印を……」
「させるか」
死体に杖を向けたイヴォル。しかし、二人の死体は空間の歪みに呑まれて消えた。代わりに現れ立ったのはシアンだ。
「……迂闊だったな。爆発程度で死なないのは分かっていた筈だ」
そうか。キラガは爆発でシアンの拘束を外したのか。十七死天はどいつもこいつも不死身だから、粉微塵になっても復活出来るんだ。
「なぁんか、注意力落ちてると思いませ~ん?」
間延びした声。そこには褪せた桃色のローブを纏った女が居た。
「どうも~、忘現の死天。ラミスちゃんでーす!」
「……幻覚使いか」
イヴォルの言葉に女はにやりと笑う。
「ちょっと違うんですよぉ。だって、ただの幻覚ならみぃんな効かないでしょ~? だから、ちょぉっと違うんです~」
間延びした喋り方で要領を得ないことを喋り続ける女。まともに耳を貸さない方が良いだろう。
「さて、役者は揃ってきたね」
十七死天が四人。死霊の軍勢ももう直ぐ僕らの場所まで辿り着く。潮時だ。
「
無数の魔物が虚空から吐き出される。
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