冥王潰し隊

 数々の装備を受け取り、ゲートによって冥界から戻りその日を終えた僕は朝を迎えて再度ログインし、この世界に潜った。因みに、ラブの居た檻からはラヴの力で出ることが出来た。


「おはよう、良い朝だね」


「おはようございます、マスター」


「ここじゃ朝日なんて見えませんけどね~」


 まぁ、地下だからね。しかも墓地の。外の空気でも吸ってこようかな。


「さて、皆。体は休めたかな?」


「当然、ばっちりです」


「私は常に万全な状態に保たれていますので」


 オッケー、良い感じだね。それじゃ、後は冥界に行くだけだけど……


「イヴォルとベレットは?」


「居るとも」


「居ますよ」


 金属製の扉が開き、二人が入ってきた。


「その娘たちと同じ場所で寝る訳にはいかんだろう。この老骨と言えどもな」


「そもそも、睡眠の必要も無いよね」


 然り、と言ってイヴォルは笑みを浮かべた。


「瞑想をしてきた。遂にこの時が来たのだ。我が愛しき女神が囚われの身より放たれ、冥界を取り戻すその時が」


 クカカ、イヴォルは笑う。


「今日は良い日だ。外は曇天、雷雨が降り注いでいるが……行先は冥界。現世の空などどうでもいい」


「雨、降ってるんだね」


 外でなくて良かったよ。


「じゃあ、行こうか」


「うむ、征こう! 我らが冥界をッ、女神をッ、取り戻しになッ!」


 テンション高いね、イヴォル。


「では、ゲートを開く」


 渦が生まれる。黒い渦が生まれ、広がり、開いた。


「皆、準備は良いね?」


 全員が頷く。僕はゲートに足を踏み入れた。




 ♢




 暫く歩いた。まぁ、殆どがイヴォルの転移だったのであんまり歩いては居ないが。


「そろそろだな」


「ん、そろそろ着く?」


 イヴォルは頷いた。


「そもそも、冥王はどんな場所に居るの? 城とか?」


「あぁ、城だ。かなり大きいぞ」


 へぇ、楽しみだね。


「それって、壊すと不味い?」


「いや、壊してもいい。寧ろ、なりふり構わずそうすべきだろう」


「良いんですか? ラヴさんのお城でもあるってことですよね?」


「まぁそうだが、彼女に城は要らない。あの祠が本質的な居場所だからだ」


 あぁ、あれね。随分質素な家だね。


「それに……この冥界に来てからずっと感じていた追手の気配が完全に失せた。撒いた訳ではない筈だ。この冥界には膨大な戦力がある。それを一切感じないということは、だ」


「どこかに隠れてるか、その城に全員が籠ってるか、ってこと?」


 イヴォルは頷く。


「城に全戦力が集まっている場合、なりふり構ってはいられない。寧ろ積極的に城を破壊するべきだろう」


「なるほどね」


 返事を返したところで、遠目に何かが見えた。


「ネクロさん」


「マスター」


 スキルにより視力を強化し、それを見ると……紫の雲と煙に囲まれた巨大な城が見えた。


「うん、もう直ぐだね」


 僕が言葉にした瞬間、何かピリッとした感覚を覚えた。


「さて、始まるな」


 視界の端から飛来した矢が突然力を失って地に落ちる。イヴォルだ。


「おぉ、来てるね。沢山来てる」


 紫の雲と煙に隠された城から、アンデッドの軍勢が迫る。前回と違い、鎧を着ていない者がかなりの数居る。恐らく、小手調べかリソースを削る目的か知らないが、雑兵程度じゃ相手にならないと教えてあげよう。


「おっけー、じゃあこっちもちょっとだけ解放しようか」


 前回とは違う。あの時は平常時の戦力しか無かったが、今は違う。


従魔空間テイムド・ハウス


 溢れる。恐ろしい力を秘めた怪物たちが、魔物たちが、冥界に放たれる。


「良いね、戦争だ」


 魔物と死霊、どちらが上か。


「グォオオオオオオオオオオッッ!!!」


「ガァアアアアアアアアアッ!!」


「ギュゥウウウウウウウウァアアアアアアッッ!!!」


 装備も着ていない最下級のアンデッド。その程度の軍勢は足止めにもならない。これでも全戦力は解放していない。それは向こうも同じだろうけどね。


「『滅火竜推』」


「お、このまま城まで直進出来そうだね」


 イヴォルによって放たれた炎の竜が一直線に死霊達を灰に変えていき、一筋の道が出来る。


「あぁ、そこまでは余裕だろうな」


英雄の骸ヒロイック・スケルトン十七死天ウィクシー、注意すべき戦力はまだ一つも見えてないけどね」


 と、そこで僕は気付いた。


「囲まれてるね」


「だが、囲まれたところでどうにも……いや」


 イヴォルは何かに気付いたように眉を顰めた。


「転移を」


 イヴォルはそれに思い至ったらしいが、もう遅かった。僕らを囲んでいたアンデッドの軍勢が全て溶けて消滅し、代わりに彼らの居た位置から結界が展開される。


「……冥王、か」


 どす黒いドーム状の結界。炎のような波が表面に立つそれは死霊達の怨嗟を直接感じるような恐ろしさがある。


「魂への、死者への冒涜……志を忘れたか、メルド」


 イヴォルはその恐ろしい結界をただ怒りの表情で睨んでいた。

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